1話
ホラー要素ありの少し違う人間と別種族?との恋愛話になります。
「はぁ……ほんと、マジか。どこだ、ここ」
「さぁ、な」
夕暮れを表す茜色の空に、周囲には四季折々の花が咲き誇る花畑。腕時計を確認すれば、短針が差しているのは八の文字盤。そう、本来ならば既に陽が落ちて空は暗くなっている時刻である夜八時だ。それなのに、辺りは暗いわけではない。空だけを見て時間を判断するならば、夕方五時頃だろうか。十一月を目前にして、ようやく残暑も和らいできた時期。本来ならば辺りは暗く、涼しい風があってもいいはずだが、そんな気配は全くない。
「メッセも何も繋がらない……」
「ずっと圏外……なんでこんなっ……」
地面に座り込み、制服のスカートにも汚れがついているが、最早それどころではないと言った風にしている女子高生が二人。一人は項垂れるようにしてただ茫然と地面を見つめ、もう一人は膝を抱えるようにして泣き始めた。それを立ちながら見下ろし、疲労感を露わにしている男子高生は同じく二人。合わせて四人がこの不思議な場所にいた。
事のきっかけは、単なる好奇心。学校祭というイベントを終えたこの日、普段よりも長く学校にとどまっていた高校生たち。打ち上げと称して教室で騒いだ後、このまま帰る気にならずに、勢いのまま近くにある里山までやってきた。何故この里山を選んだのかというと、それはここには古くからある逸話があったからだ。
所謂、怪談話といわれるもの。黄昏時には人攫いが出る。帰り道がわからず迷い続ける。神隠しに遭う、と。
古くから人の出入りがある里山だ。大方、子どもや遊び半分で里山に出入りしないようにという戒めを含めて広めたのだろう。そこへ現れたのが、高校二年という大人になりきれていない子どもたち。勢いのまま一緒に行動すれば怖くないとばかりに、里山までやってきた。その結果が今だ。
「なぁ藍」
「なんだよ」
名を呼ばれて久遠藍が顔を向ければ、途方に暮れ何かに縋るかのようにじっとこちらを見つめている友人がいた。彼は潮崎卓也、藍とは中学からの友人だ。黒髪黒目で短髪、多少童顔気味で身長も藍より十㎝は低い。放っておけない弟のような存在である。
対する藍は髪色は明るめの茶色に黒目でフチなしの眼鏡を掛けていた。両耳にはピアスをしている。前髪は長めで、後ろは襟足程度までで短くもなく長くもない髪は全体的に癖がなく、よく卓也からは羨ましがられていた。卓也より高い身長ではあるが、男子高校生としては決して高い方ではない。ただこうして卓也と共にいることが多い所為で、高く見られるだけだった。
「俺たち、これからどうなると思う?」
「……わかると思うか?」
「ごめん、思わない。でも冷静に見えるからさ」
ここに来たのは初めてだし、起きていることについて混乱しているのも同じだ。ただ泣きわめいても結果は変わらない。冷静に見えるのも、そうしたところで何の意味もないからというだけでしかない。ただほんの少しだけ寒気が酷く、空気がピリピリしているのを感じていた。それを伝えたところで理解できないだろうから黙っているだけだ。
「卓也、それよりもあいつ……姫川のフォローをした方がいいんじゃないか?」
「あ、うん、そうだね」
藍が視線だけで座り込んでいる女子高生のうち、蹲って泣いている方の一人を示す。彼女は姫川有希。軽くウェーブを掛けたような黒髪は肩の長さで切りそろえられているが、今はそれも乱れてしまっていた。卓也が肩に手を置いて声を掛けるが、聞こえてくるのはなき声ばかり。落ち着くまでは様子を見ていることしかできないだろう。
そしてもう一人、呆然と座り込んでいるのは姫川有希の友人である折宮加奈。頭の後ろの方で長い髪は纏められているが、今は多少のほつれがみられた。普段はキリリとしていることが多いのだが、流石にこの状況はすぐに飲み込むことはできないのだろう。それは藍とて同じ。
「はぁ」
今がどういう状況なのか。この先どうすればいいのか。全くわからない。ただ確かなのは、ここは自分たちが知る場所ではないということだけ。
泣き声が収まってきた頃、藍はもう一度時計を確認する。時刻は夜9時過ぎを差していた。その間、藍はひとしきりこの周囲の様子を見回ってきたものの、何かがあるというわけでもなく、ただただ花畑が続いているだけだった。少なくともここから動かない限り、これ以上の情報は手に入らないということである。
「久遠くん」
「折宮?」
「ここにいるのは、私たちだけだと思う?」
立ち上がりスカートについた泥を振り払いながら加奈が問いかけてくる。この問いに、藍は腕を組みながら考えた。
里山に登る前はクラスメイトと共にいた。そこから里山を登り始めて、明るさがなくなってきたということで持っていた端末をライト代わりにして歩いていた。頂上を目指していたはずだ。特別な目的があったわけではなく、ただみんなで頂上を目指したかった。何かをしたかったわけでもなんでもない。
この四人が一緒に居るのは、登っていくときに必然とこの四人が固まっただけ。有希と加奈は友人同士、卓也と藍もそうだ。そして有希と卓也は恋人同士だった。だからこの四人が固まって動いていただけのこと。気が付いた時にはここにいたが、いつから入り込んだのかはわからない。暗かったはずの周囲が明るくなったことに気づき、足を止めてみれば花畑があった。
「希望的観測でしかない。でも、俺たちだけだと思いたいな」
「どうして? みんなもいれば心強いじゃない」
「それは一理ある。だが……やっぱりいない方がいいだろ、こんな場所にはさ」
藍たちは既にここに来ている。途方に暮れている状況だ。もし他のみんなもいるとすれば頼もしいかもしれない。だがそれは何の解決にもならないことだ。誰がいたとしても、今の状況を説明することができる者はいないだろうから。
「そう、ね。そうよね……こんなの夢であればいいのにって、私も思う」
「覚めたらベッドの上だった。それなら楽なんだが」
「うん」
時計がどれだけの時を刻んでも、景色は変わらない。もし時を戻せるのであれば、二度と里山になど足を踏み入れないだろう。それだけは間違いない。そのようなことができるはずもないけれど。
「有希ちゃんも落ち着いたし、いつまでもここにいても仕方ないでしょ? どこか移動しない?」
「どこかって言われてもな」
「せめて落ち着いて休める場所があればいいんだけど。身体だけでも休められたらその方がいいじゃない」
「そうだな……探すか」
加奈の言う通りだ。ここにいても変わらないのであれば動くしかない。周囲に休める場所はなかった。となれば、もっと足を延ばす必要がある。
「卓也、まずはここから移動するぞ」
「うん、わかった」
そうして四人で花畑の道を歩く。30分ほど歩いても、特に建物らしきものは見当たらず、ただあぜ道のようなものがあるだけだった。景色の変わらない道を歩くのは精神的にも辛いものがある。建物はないが、あぜ道の途中に大きな木があったので、そこで一休みすることにした。四人とも木を背にして腰を下ろす。
「カバンがあっても、特に使えるものはなさそうね」
「文化祭だったからな。最低限のものしか持ち歩かないだろ……」
藍たちは筆記用具一つさえ持ち歩いていない。これは文化祭だからというわけではなく、日頃から持ち歩いていないので、今日は通常授業の日であろうとも持ち物に大差はなかった。大抵の生徒はすべて個人ロッカーの中に置きっぱなしになっているからだ。
「あのね、加奈ちゃん、久遠君。私、飴なら持ってるんだけど食べる?」
「流石、有希ちゃんナイス!」
「小腹が空いた時によく食べるから。久遠君もどうぞ」
「ありがとう」
既に夕食の時間は過ぎている。空腹であるのは皆同じだ。少しでも口に入れられるものがあるのは助かることだった。目元は赤いが、有希も今は大分落ち着いてきている。状況は同じでも、落ち着いて行動できるだけマシだろう。
「藍、あのさ――」
「っ……静かに」
卓也が藍の前に来たところで、藍はガサガサという物音を聞いた。思わず腰を上げて、辺りを見回す。ここまで藍たち以外の生き物は見ていない。それこそ花や木くらいだ。動くものは見ていない。だが今の音は明らかに何かが動いた音。警戒するに越したことはない。音を立てないようにして藍は立ち上がった。
「藍、後ろ!」
「⁉」
現代が基準なのでジャンルは現代恋愛としています。
もしジャンル違うよ、などありましたらご指摘ください。




