第39話 エピローグⅡ とある親子の話(リコッタとミモザの場合)
今回、◇◆◇の前後でリコッタ視点→レイナ視点に変わります。
ミモザちゃんが陸冥卿になり、教会からの指名手配が取り下げられて、聖都での事務手続きとかも終えた後。わたし、レイナちゃん、そしてミモザちゃんはミラドルチェ王国内にある古教会へと帰ってきていた。
「ミモザちゃんはこれからもここを拠点にするの?」
わたしの質問にミモザちゃんは頷く。
「はい。陸冥卿がずっと一国に留まっていると怒られるかもしれませんけど、誰かから怒られるまでは」
実際に陸冥卿に口答えできるような人なんて(陸冥卿の定義魔法を怖がって)ほとんどいないと思うけど。そんなツッコミが頭を掠めたけど、それは結局口にしなかった。
「それで提案なのですが……もしよかったら、リコッタさまとレイナさまも、これからも私と一緒に暮らしてくれませんか? お2人とも特に行く宛てがないんですよね。だとしたらこれからもお2人と一緒に暮らしていけたらな、って思うのですが……ダメ、ですかね?」
瞳を少し潤ませながら控えめに提案してくるミモザちゃんの言葉に答えるのに、わたしはつい躊躇っちゃう。
レイナちゃんがいて、ミモザちゃんがいる。すべてを喪ったと思っていた二週間前のわたしからしたら夢みたいな暮らし。きっと3人でこれから描く未来は楽しいんだろうな、って思う。でも。
『ミモザは国と公爵令嬢という立場を追われたあなたに拾われて、あなたと行動を共にすることになるんです。それはあなたに対する負い目があったんでしょう。そしてその旅の中で、彼女はこれまで教皇庁によって封印されていた定義魔法【時空】を覚醒させるんです。時間と空間を司る、世界を滅ぼす魔王あなたの右腕に相応しいだけの力を』
神父さんの言葉が頭をよぎって、わたしは答えを躊躇っちゃう。もしミモザちゃんが近い将来魔王になってしまうかもしれないわたしといたら、ミモザちゃんを魔王軍幹部として巻き込んじゃうんじゃないか。それが、わたしには怖かった。ミモザちゃんと一緒に世界を滅ぼしてしまう未来が来るのが怖かった。だとしたら、ミモザちゃんとは距離を取った方がいいのかな。
そんな心配から答えを躊躇っていると。
「ありがとうミモザ。でも、あたしにはやらないといけないこと、行かないといけない場所があるんだ。だからその提案は飲めない」
口を開くレイナちゃんに、わたしもミモザちゃんも思わず注目しちゃう。
「やらないといけないこと、行かないといけない場所って……」
「ミモザにも話したよね。あたしがもともといた、魔王によって滅ぼされて何にもなくなっちゃった未来の話」
魔王によって滅ぼされた未来。その単語にちくり、と胸が刺されたような気持ちになる。それを引き起こしてしまうのはきっと、未来のわたし自身だから。
「ここに来るまでのあたしは滅ぶ前の世界を知らなかった。でもここにきて、この世界には素晴らしいもの、美しいもの、美味しいもの、愛おしいものが昔は沢山あったんだ、って気づいた。そして、そんな愛おしいものを失いたくないって、心の底から思っちゃった。だから、あたしはいかなくちゃ。魔王軍の結成を阻止して、魔王を斃すために」
まっすぐにわたし達のことを見つめて話すレイナちゃん。そんなレイナちゃんの瞳には強い意志が感じられた。魔王を殺そうという、強い意志が。
それも当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。だってレイナちゃんは未来に訪れる終末世界で、今の時代しか知らないわたしには想像もできないほどの苦労と孤独を経験してきたのだろうから。世界を滅ぼした挙句にレイナちゃんを産み落とした、身勝手なわたしのせいで。
ーー私の恩人で、愛おしい一人娘のレイナちゃんがやりたいことはなるべく叶えてあげたい。だとしたら……わたしがレイナちゃんのために最後にできることは、レイナちゃんがいつでも殺せるくらい側にいて、魔王討伐の旅路の果てにレイナちゃんに殺されること、なのかな。そしてそれが、レイナちゃんを生み出してしまったわたしの責任なのかな。
そう思うと、口が勝手に動いていた。
「わたしも行く」
「えっ?」
目を大きく見開いてレイナちゃんはわたしのことを見つめてくる。でもそんなレイナちゃんはどこか嬉しそうで、そんなレイナちゃんを見てしまうとまさか「わたしが魔王でレイナちゃんに殺されるためについていきたい」なんて言えるはずもなかった。代わりに。
「戦う力を持たないわたしが何ができるかわからない。足手纏いになっちゃうかもしれない。でも、わたしはレイナちゃんとなるべく近くにいて、少しでもレイナちゃんの力になりたい、って思うの。だから、わたしもいっしにいきたい」
思ってもない言葉がぺらぺらと口をついて出る。自分が全ての元凶になるって言うのによくもまあこんなにするすると詭弁を言えるな、とちょっと自分で自分に嫌気がさしてくる。まあ、ある意味こういうところが本物の魔王らしいのかもしれないけど。
ーーでも、これでレイナちゃんと一緒に行けばミモザちゃんとの距離も取れるし、一石二鳥かな。
一方で。わたしのそんな考えを露ほども知らないレイナちゃんは
「足手纏いなんかじゃないよ! ママがいてくれれだけですごく心強いよ。本当はちょっと不安だったんだ」
と、満面の笑みを浮かべてくる。
こんな純真無垢な女の子を騙していることに、そしてこんな愛おしい子を17年に渡って苦しめていた事実に、一層胸が締め付けられたように苦しかった。
◇◆◇
ミモザから一緒に暮らそうと提案してもらった時。あたしは本当はその提案を受け入れたかった。エルザとの戦いも、そしてニーニャとの戦いも一歩間違えば死んでた。自分が死ぬのもイヤだけど、それ以上にママをそこに巻き込むのが怖かった。だから、ミモザの一件が片付いて、めでたしめでたしで平穏な暮らしが遅れるなら、そっちの方がよかった。でも。
『約束、忘れてないよね』
少しでも逃れようとするとメイは必ずそれにきづいて逃がしてなんてくれない。
『……忘れてるわけじゃないよ』
他の二人がいる場なので念話であたしが不貞腐れた表情でそう返すと、メイは満足そうに頷く。
『なら良かった。それに――魔王軍幹部になってしまうはずの女の子を救い、魔王を斃すこと。それはお嬢の大切なものを護ることにもなるんだよ? この時代でお嬢が好きなもの、大切なものは魔王を斃さなければ、10年後にはみんなみんななくなっちゃうんだから』
メイの言葉にあたしははっとする。
そうだ。誰かがもし動かなければ魔王は元の歴史の通りに生まれてしまう。そうしたら、何にも残らないあの未来がやってきちゃう。そして、あたしの大切なもの、というよりも大切な人だって、あたしを産んですぐに死んじゃう。
大切な人。そう考えて真っ先に頭に浮かんだのはママの顔だった。あたしのお母さんで、あたしがこの時代に来てからはじめて出会った女の子で、あたしが親以上の感情を抱いてしまった女の子。
――せっかくママに、心から好きだと思える片思い相手に出会えたのに、それはイヤだよ。この恋心が禁断のもので、この気持ちを押し通したらあたしの存在そのものが消滅しちゃうことはわかっている。報われちゃいけないものだってわかってるけれど――だからと言って、何も言えないみ死んでほしいわけがないよ。たとえあたしが幸せにできないとしても、好きになってしまった人には幸せに、末永く生きていてほしいよ。それを魔王なんかに邪魔されるなんて、絶対にダメ。
そう思ったら、自然と勇気が湧いてきて、気づいたらあたしの口は勝手に動いていた。
「愛おしいものを失いたくないって思った。だから――あたし達は魔王軍の結成を阻止して、魔王を斃さなくちゃいけないの。そのために行かなくちゃ」
愛おしいもの。そう口にするところであたしの視線は自然とママの方に向いちゃう。あたしのこの気持ちに気づいてくれたらな、なんて思って。まあママは全く気付いてなさそうだったけど、今はそれならそれでいいか。全てを終わらせて平和な未来を勝ち取ったら。その時にわたしは自分の気持ちを伝えよう。その時にはもうママはパパに出会って、手遅れになっちゃってるかもしれないけど。そんなことを考えてると。
「わたしも行く」
「えっ?」
思ってもいなかったママの言葉に、あたしはついへんな声を出しちゃう。
落ち着いて考えるまでもなく、これからあたしがしようとしてるのはきっとものすごく大変で辛い旅路になる。そんなのに戦う力を持たないママを巻きこむなんてどう考えでも馬鹿げてる。
でも、あたしはママの申し出を「嬉しい」って思っちゃった。ひとりぼっちは不安で寂しいし、何よりママと一緒にいたかったから。
「うんうん、足手纏いなんかじゃないよ! ママがいてくれれだけですごく心強い。本当はちょっと不安だったんだ。ーーあたし達2人で、世界を、未来を救おう」
あたしが差し伸ばした手をママはとって、指を絡ませてくる。ちょっと胸の鼓動が早まって、その手の温もりに、あたしは改めて「あーあたし、この女の子が本当に好きなんだな」って自分の感情を改めて再認識させられる。
――一緒に来てくれてありがとう、ママ。これからどんなに強い敵が現れても、どんなに過酷なことがあっても、ママのことだけはあたしが絶対に護るよ。そしてママのことを魔王なんかに滅ぼされない、最高の未来に連れて行くから。
そんなことを、あたしは内心で誓った。
その時のママが内心何を考えていたかも知らずに。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
この作品は自信をつけるために一作くらい10万字完結の作品を作りたい、ということで去年の8月から構想し始めて迷走や絶筆を繰り返しながらも、なんとか形にまとめた、というものになります。
魔王によって滅ぼされた未来の世界のやり直し、降霊による戦闘、魔王軍幹部を攻略していく百合ゲー的展開、未来の魔王の葛藤、そして実の母親に恋愛感情を抱いてしまったレイナの思い。色々な要素を詰め込み過ぎてしまいましたが、なんとかミモザ編をこうして書き切ることができたのではないかな、と思います。
他にもいろいろ書けることはあるように残しています(全部書くと本当は30万字完結くらいなのかな、と思ってます)が、いったんは2人の目標が定まったここで終わりにしたいと思います。また機会があれば続きを書かせていただきたいな。そんな中途半端なところもある完結ではありますが、ひとまずミモザの物語、そしてリコッタとレイナの始まりの物語を見届けていただきありがとうございました。
最後に。俺たたendで終わらせておいてアレですがミモザ編がどうだったか、もしよければ↓の⭐︎評価やいいね、コメントなどで教えてくださると今後の励みになります。
それでは、またどこかでお会いできる日を祈って。




