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第29話 【次元】との取引 後編(レイナ視点→???)

 昨日入りきらなかった分です。

 今回、◇◆◇の前後でレイナ視点→第三者視点に切り替わります。

「だからわたしの望みはただ一つ。魔王様に救われる前に、この時代の『わたし』のことを救ってほしいの。やり直す前の時間軸で間違え続けてしまったわたしとは違って、まだ陸冥卿にすらなってない『わたし』はいくらでもやり直せる。きっと今回の時間軸でもわたしは信じてた仲間の裏切りには遭うんだと思う。だけど、その後に魔王様になる『彼女』じゃなくって、他ならないあなたに巣くってほしいの。わたしが間違わないようにあなたに導いてほしいんだ」


「……」


「うんうん、わたしだけじゃない。まだ人間社会の闇に染まり切ってなくて無垢でまっすぐな心を持っているあなただったら、他の魔王軍幹部になるはずだった女の子たちのことも救ってあげられるはず。魔王様の甘いささやきに靡いてしまって決定的な間違いを犯してしまうはずだった、『陸冥卿になるはずだった女の子たち』に手を差し伸べてあげてほしい。言うならば……お嬢には美少女ゲームに登場する不憫な女の子たちをみんな救っちゃうような、主人公になってほしいんだ」


「美少女ゲームの主人公……?」


 反復してしまったあたしの言葉に、メイさんは頷く。


「うん。わたし達は絶望の底にいた時に魔王様に救われちゃったから、魔王様に尊敬の念を抱いちゃったり、憧れちゃったり、淡い恋心を抱いちゃった。だから、彼女の世界征服に協力しちゃった。でもその前にあなたにはわたし達のことを救って、魔王様なんて眼中に入らないくらいにメロメロにしてほしいの。そして、魔王軍なんかの設立を阻止して、魔王を打ち倒してほしい。そしてこの世界を破滅のシナリオから救って、最悪の未来を変えてほしいんだ。そうじゃなければ、また誰も幸せになれない未来が繰り返される」


 縋るような目でメイさんはあたしのことを見てくる。それに答えるのに、あたしは正直躊躇っていた。


 あたしなんかにできるかどうかはわからないけれど、もしあたしに何かできるなら、あたしだって殆ど人の生き残っていない、ただただ冷たいあんな未来なんて回避できるなら回避したいに決まってる。そして魔王も陸冥卿も、誕生する前に倒せちゃったらそっちの方がいいに決まってる。でも。


 ――今話を持ち掛けてくれているメイさん自身が、世界を滅茶苦茶にしてくれちゃった張本人なんだよね。そんな人が世界を救ってくれなんて、ちょっと虫が良すぎない?


 そう思うと話に乗るのに抵抗があった。いくら同情の余地があるって言っても、目の前の女の子があたしがあんな世界で生まれ育つ原因を作った一人だと思うと、そんな子の頼みをやすやすと聞いて上げられるほどあたしは大人になり切れてなかった。あたしが独りぼっちで辿り続けたこの16年間の寂しさは、そう簡単になかったことになってできない。


 そんなあたしの心を見透かしたのか、メイさんは小さく溜息を吐き、そして。


「じゃあ取引しよう。――お嬢は異端審問官に連れ去られたミモザのこと、救いたいよね?」


 不意にメイさんがそんなことを聞いてくる。


「それは……確かにミモザとは喧嘩しかけたりもしたけど、救えるものだったら救いたいよ! ミモザはもう既にあたしの友達だし、何よりミモザが死んじゃってママが悲しむところも見たくない」


「では次の質問。今のお嬢の力で教会に囚われたミモザを救うことができると思う? ミモザが今囚われているのは聖教の総本山。あの異端審問官だけじゃなく、大聖女だって出てくるかもしれない。そんな中からミモザのことを本当に救い出せるの? 【降霊】で強力な魔術師の力を自分に降ろせなければ戦闘能力はほぼ皆無な、お嬢の【霊域侵犯】で」


 メイさんの質問にあたしは即答できない。


「だから取引しよ。処刑される寸前のミモザを助けるためにわたしが世界を滅ぼした陸冥卿の力を貸してあげる。わたしの力があれば、異端審問官や処刑人からミモザを奪い返すことなんて簡単なはず。だから、その代わりにミモザのことが終わったら、わたしの願い事を聞いて。陸冥卿になってしまうはずだったわたし達のことを、魔王よりも先に救ってあげて」


 こんなのただの脅迫。脅迫だけど、友達を助ける力すら持たない今のあたしは、その提案に乗るしか選択肢がなかった。


「……わかった、その話乗るよ。でも――勘違いしないでね。メイさんのことを許したわけでも、助けてあげたいとも、あたしにはどうしても思わない。だからあくまであたしが、最悪の未来を回避して魔王をぶっ倒すためにあなたのことを利用するだけなんだから」


「うん。今はそれで十分だよ」


「あと! その前に満足して成仏なんてしたら許さないんだから」


 今のあたしはそう言って負け惜しみを言うくらいしかできなかった。そんなあたしに、メイさんは満足そうに微笑んだ。



◇◇◇



 それから。「とりあえずママが心配してるかもしれないからママに起きたことを伝えてくる!」と言ってレイナが部屋を飛び出したのを見送った後。


「【次元】の力を貸す対価に自分たちのしでかしをレイナ(彼女)に押し付けるなんて……シスターミモザが消滅してなかったら、絶対許さなかっただろうね。彼女はなるべく、魔王とか陸冥卿から彼女のことを遠ざけようとしてたから」


 これまで存在を潜めていた幽霊の少女がにゅうっと姿を現す。袖の余ったぶかぶかの白衣を羽織った小柄な彼女は、この時代に来たばかりのレイナをミモザと一緒に見守っていた幽霊の少女だった。彼女の登場に、メイは不満そうに口を尖らす。


「勝手に満足して一人で先に成仏しちゃったあいつに口出す権利なんてないでしょ」


「シスターミモザと仲が悪いのは相変わらずだね。まあミモザの場合は消滅であって成仏とは違うと思うけど……メイ隊長はそれでいいの? もし本当に彼女がこの時代のあなたを救ってくれたら、今目の前にいるあなたは存在し得なくなる。この世界には最初からいなかったことになる」


 白衣の幽霊の少女――ヒフミの言葉にメイは一瞬、遠くを見るように目を細める。そして。


 ふぅー、と長い溜息を吐いた後。メイは口を開く。


「わたし達は最初から存在そのものが間違いだったバッドエンドルートの擬人化みたいなものなの。だから、そんな『間違い』はこの世界にいちゃいけないんだよ」


 遠くを見るように目を細めて呟くメイ。そんなメイにヒフミは頷く。


「ボク達が彼女に託そうとしていることは、これからの彼女の旅は、きっと彼女にとって残酷で、苦しいものになるだろうね。だって彼女は魔王様が世界を滅ぼして、それでも満たされない心を満たすために創り出した存在。魔王様が生まれなきゃ、魔王様が世界を滅ぼさなければ彼女は生まれてくることすらなかった。ボク達が彼女にさせようとしているのは、自分が生まれてくることを否定する旅になるんだから。ほんと、死んでも魔王の手先らしく残酷だね、ボク達って」


「うん。だとしても、体を持たないわたし達は彼女に託す以外方法なんてないんだよ。あんな誰も幸せになれない未来なんて、もう二度と見たくない。そのためなら、わたしはお嬢にとっての悪役にでも悪魔にでもなってやる。大体、魔王軍6大幹部まで堕ちたわたし達にこれ以上堕ちようなんてないしね」


 そう自嘲気味に言い捨てるメイの瞳には、強い意志が宿っていた。

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