人の生みし怪物の力
人類が人類を絶滅させない為、人が明日を迷わず生きる為に、私は人生を掛けてシステムを作った。
能力ある者が報われ、能力無き者は不要な世界を作る為に。
これは世界に虐げられてきた私達姉妹……いえ、世界に対する私からのギフト。
絶対に人類は一度知ってしまった快楽という名の迷い無き人生を捨てることは出来ない。
そういうふうに作った私のシステムは妹である貴女であっても、姉さんが作り出した亡霊が現れたとしても止められない。
ある研究者が末の妹に宛てた手紙の抜粋
◆◇◆◇
サミエルに呼ばれてシルヴィアは直立不動で立つ。
サミエルが機嫌が良い時はシルヴィアは知らないが、声音からして機嫌が悪いのは確か。
「名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉。お前の部隊に対し、基地の連中から悪い噂を訊いたんだ」
「……悪い噂と言いますと?」
ドラグーン隊の素行は確かに良いとは言い切れないが、直近の作戦では人質救出等で特典を上げているはず。
「分からないか? では言おう。なぜお前の部下、アステロイドベルト連中はレディジョーカーを首から外している? アステロイド連中には足枷を嵌めるはず」
「それが最善だと思ったからです。捜索と救出には彼等の信頼を得なければ遂行出来ませんでした」
「信頼だと? アステロイド連中をか? どうやら暑さにやられて俺は悪夢を見てるみたいだな」
眉間を指で押さえながら、サミエルはあからさまに大きく嘆息。
「お言葉ですが、彼等は立派に任務を――」
「新人指揮官が知ったようなことを言うな!」
サミエルの怒声が珍しいのか、ハンガーに残っていた連中の身体が一瞬、まるで砲撃を受けたみたいに身体がビクつく。
「いいか、ウィンチェスター大尉。お前のやっていることは軍規違反だ。あれはアステロイド連中に反乱を起こさせない為にあるんだぞ」
「わかっています。しかし彼等は――」
「最後まで聞け! もし他のアステロイド連中が同じ様に外してくれと言えば、お前以外の指揮官はどうする? 当然無理な話だ。何故かって? アイツらは信用ならないからだ! アステロイド連中は俺やお前、他のメインベルトの首を切り裂いてやろうと虎視眈々と狙っているからだ!」
そう。サミエルの言っていることは真実の一側面。
メインベルトはアステロイドを虐げてきた事実がある。
自分達はメインベルト。アステロイドベルトは羽虫の様な存在。
そんな羽虫を殺して気にとめる人間はメインベルトには皆無に等しい。
祖先が築いた栄光と特権を、まるで自分達も享受して当然と思っているからだ。
「自分でやった責任は自分で取れ。もし一人でも反乱もしくは脱走行為など裏切り行為をした場合、その隊員は、お前が必ず始末しろ。いいな」
サミエルは提案はシルヴィアにとっては酷な提案。
仲間を……仲間だった隊員を自分で処刑しないといけない。
「……了解しました」
「よし。他の将校には俺が話をつけて黙らせとく。いってよし」
軍靴は合わせて敬礼するシルヴィアに返礼。
シルヴィアの足取り重く、ハンガーを後にした。
◆◇◆◇
数日後の朝、シルヴィアが食堂に向かう。
エアコンの効いた士官食堂もあるが、シルヴィアが向かった食堂はアステロイドベルトが利用するエアコン無しの食堂。
それも食堂とは名ばかりで、屋根は有るには有るが屋根のみ。
壁は無い為に熱風が吹き込んで暑い。
唯一の救いは、現地のテレビ電波が受信できるモニターでスポーツ観戦等出来ること。
だが、作戦会議の翌朝から兵士達は食堂にあるモニターに映し出されているニュースに集中していた。
「嬢ちゃん、こっちだ」
プレートを持ちながら自分の仲間を探していた所にギデオンが声を上げた。
見るとギデオンの他にルナ、ウォーカーが座っている。
「嬢ちゃんもニュース見たか」
「ニュース?」
ルナの隣に座るなり、目の前に座るギデオンが話掛けてきた。
しかも朝から酒が入っているであろう小さいボトルがプレートに置いてあり、ちょっとお酒の匂いがするが、特段任務予定も無いから黙っていることに。
そしてニュースの司会者や字幕には反政府の扇動をしている活動家やテロリストを拘束と流れている。
『お伝えした通り、治安維持部隊が反政府活動をしているテロリスト数名を拘束または殺害しました。このテロリスト達は長らく国内に潜伏しておりましたが、パイオニア政府から提供された情報を元にオセアニア政府の治安維持部隊が――』
映像に映るリポーターは治安維持部隊と行動しているのか、装甲車の陰から中継していた。
その装甲車の周りは、パイオニア政府が提供したであろう、四足歩行のドローンに軽機関銃を備え付けた軍用ドローンの姿まである。
次々に流れるニュース速報。
活動家やテロリストの拘束や殺害。
現地当局が民兵の拠点を強制捜査して、爆薬や麻薬に銃器の密輸品を押収。
それに戦況ニュースでは僅か数日で反政府軍や民兵が押されて劣勢だと流している。
「これがアドミニストレータの力……」
シルヴィアの呟きに皆が頷く。
旧世紀の世界大戦と違い、力技のみでは現代戦は勝てなく、正確な情報を有し、それを的確に使えるものが勝つと証明している。
「俺はネットには疎いが、これが嬢ちゃんの友達が言っていた事だな。これだと兵士は要らなくなるな」
「じゃあ私たちも帰還が早まるかな!? いい加減にママの作ったシチューが食べたい! ギデオンだって本国にいる息子に会いたいよね!?」
プラスチック製のスプーンで皿にある野菜スープを突付く。
焦げ茶色のスープは、野菜は硬い切れ端ばかりで、見る限りは美味しそうじゃなさそうだ。
「あはは、俺の家はどうだかな……レイはどう思う?」
答え難そうな声音のギデオンに話を振られたウォーカーはちょうどパンを食べる所。
パンはパンでも乾パンで、熱くて不味そうな野菜スープに浸して食べようとしていた。
「大尉はあるかも知れないが、俺達は帰還はないだろ。違う戦場に行くだけだ」
「……そっか。そうだよね……あはは。わたしったら何考えてるだろね……そもそも点数足らないから無理だし」
笑顔で家族の話をしていたルナだったが、レイに現実を突きつけられて沈黙してしまう。
ルナが言っていた点数は、軍を除隊する為に必要な点数。
点数は勲章数や兵役期間により採点され、大きな作戦でも参加すれば目立った活躍がなくても従軍徽章が貰えて更に加点される。
もっともアステロイドベルトが戦場における死亡率は群を抜いており、除隊点数に達すまでに戦死させる。仮にしぶとく生き残っても更に税金を課税されて兵役を続けるしかなく、どっちの道に進んでも死が付き纏う。
沈んだ空気にアステロイドベルト専用の不味い軍の食事。
まるで悪夢の様な空間。
「そ、そういえば午前は戦闘訓練と訊きましたよ、ウォーカー軍曹」
「ええ。午前中は近接戦闘訓練に講義。午後は海軍合同でヴァンパイアを使った模擬戦闘です」
淡々と答えるウォーカーにシルヴィアは思う。
会話が簡潔過ぎて話題が膨らまない。
「海軍のヴァンパイアは可変機で凄く興味があるんですよ。それに私も療養じゃなければ、一緒に訓練参加したかったです」
「大尉には後方で作戦全体の指揮を執った方が良いです。ヴァンパイアもしくは近接戦闘指揮は俺かストリートの方が適任ですし」
「そ、そうですよね……」
ルナに続きシルヴィアまでも消沈。
二人は顔を俯きながら手が止まり、ウォーカーは一人で食事を進める姿に、ギデオンは手持ちの煙草に火をつけて一服。
煙草を吸わないシルヴィアやルナ、ウォーカー達一応未成年者に気を使い、天に向かって煙を吹いて呟く。
「……最近の若い奴は気が利かねぇな」




