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拷問

 ドラグーン隊がオリバーを救出してから半日、隊員達はやることがなく無為に時間を潰していくしかなかった。

 部隊に配備された〈ヴァンパイア〉の内、〈ヴァイパー〉は補修中。新型の〈センチュリオン〉に至っては組立てた後、最終調整を整備班が行っている。

 そんな中、ドラグーン隊の隊長であるシルヴィアは医務室での治療を終え、自室にて戦闘報告書をPCに打ち込んでいた。

 本当だったら情報部に取り調べされているオリバーの弁護に回りたいが、あいにく状況が許さない。

 苛立ち混じりにタイプする音を他所に、慣れない隊長仕事の補佐役には、先の戦闘で左足を負傷したアリシアが向かいの机に座り。

 そのアリシアの足元には、ハンドラーである彼女の相棒のトリガーが伏せている。


「これは整備班からの苦情書類と、再出撃にかかる日数書類です」

「ありがとうございます……って、苦情ですか!?」


 再出撃はわかる。それに合わせて隊の戦闘訓練を決めたりするからだ。

 渡された用紙に目を通すと、ウォーカーが搭乗した〈センチュリオン〉に関する苦情が大半を占めている。

 なんでもロールアウトしたばかりの〈センチュリオン〉は駆動系がガタガタの状態で要オーバーホールと。

 なにより意外だったのは、本国から〈センチュリオン〉と一緒に派遣れてきたウォーカーアームズ社の技術スタッフ。

 整備班がコアユニット部分であるアドミニストレーターシステムの調整と分解整備をしようすると、技術スタッフに帯同するボディーガードらしきスーツの男達が阻んだからだ。

 最初は初めて触るシステムだから本社の技術スタッフにと思ったが、彼らは命令に従わないなら拘束するといって銃を向けてきた。

 これにはシルヴィアも驚き、整備ハンガーに行こうと立ち上がったが腹部の痛みに顔が歪む。

 苦痛の表情をアリシアが見ると、自分も痛いのに足を引き摺りながら肩を貸して席に戻させた。


「無理しなさんなって、隊長さん」

「……すみません。ですが行かないと、これも隊長の務めですから」


 初めて部隊を持って、初めての部下。シルヴィアなりに気張りたい所なのはアリシアにも分かる。

 そんなシルヴィアにアリシアは遠い昔のように思えた人の言葉をかけた。


「これはわたし達が隊長に会うまで唯一尊敬していた人の言葉なんだけどさ、『軍人とは何か、それは一職業である』ってね」

「一職業であるですか?」

「そう。隊長は御三家だから、わたし達が味わったことのない縛りや葛藤があったと思う」


 ウィンチェスター家は御三家の一つであり、中でも特別な御三家。

 それは独立に一番貢献したイヴァンジェリン・ウィンチェスターの子孫だから。

 軍においては四軍どれに入隊してもトップを目指し、皆の模範にならなければならず。

 退役しても政治に介入し、常に連邦政府と共に生きていかなければならない。

 一見、生まれてから苦労なんてしたことない人間だと思うだろが、シルヴィアにはシルヴィアなりの苦労と葛藤が死ぬまで付きまとう。

 これは一種のイヴァンジェリン・ウィンチェスターが作り出した呪い。

 彼女本人の意志とは関係なく、周りの者や彼女の信奉者、果ては身内の者までが彼女を英雄に祭り上げて神格化した結果が今に至る。

 本人が望み望まずともだ。


「要は肩肘張らずに気張るなってこと。特に隊長さんは着任して間がないんだ。そんなに気張ると死体袋に入って帰国するよ」


 古参兵の忠告は教本なんからよりも遥かに有効だと、先の出撃でシルヴィア自身も身をもって体感した。


「……わかりました。この件は下士官の誰かに現状把握に行かせます」

「そうそう。暇なストリート達にでも行かせておけばいいのよ。どうせ暇して筋トレか、ゲームしてるから。そうよね、トリガー」


 アリシアが二人の足元に伏せている相棒に話しかけると即座に「ワンっ!」と吠えて、再びあくびをして伏せはじめた。

 トリガーの頭を撫でながらシルヴィアは一番気の重たい任務に……いや、士官として避けては通れない務めに取りかかる。

 それはイライジャの戦死報告書。

 これを書かないと家族に遺族年金が支払われないから、可及的速やかに軍の人事部に出すのがシルヴィアの務め。

 だがタイピングしていくと耳に響く。イライジャの声や、戦場での砲火の音が際限なく繰り返される。

 次第にタイピングの速度が遅くなり、ついには指が止まってしまった。

 新米隊長には息抜きが必要かと思い、アリシアが休憩を提案しようとした直後。


「大変だ、嬢ちゃん! オリバーの奴が!!」


 息を切らしながらギデオンとマリアが入ってきた。

 器量の狭い士官なら士官室にノックもせずに入るのは無礼で軽い懲戒ものだが、シルヴィアは咎めることなく二人と共にオリバーの元にむかう。


 ◆◇◆


 ギデオンとマリアの話では、情報部の連中がオリバーに拷問紛いなことをしていると。

 情報部には親友であるリーナがいる。幾ら何でも拷問なんてしない……しないはずだと信じていた。

 だが一抹の不安がある。リーナの家族はアステロイドベルトの人たちによるテロ攻撃で命を落としているからだ。

 いつの間にかアドレナリンで痛みは紛れ、はやる気持ちを抑えながら尋問室に向かう。

 尋問室の前には警備の兵がおり、シルヴィアを見るなり敬礼。

 シルヴィアも返礼するが、警備兵たちは扉をカードキーで開けようとしない為、階級章を見ながら怒気を潜めて。


「早く開けなさい。これは命令です、二等兵」

「申し訳ないですが、命令で開けられません。パークス大尉の許可がありませんと」

「許可ですって……」


 情報部と作戦部。部こそ違うが、階級の有効性に違いはない。

 本来だったら否応なしに従わないといけないのだが、目の前に立つアステロイドベルトの二等兵は頑なに動かない。

 思わず心の中で舌打ちし、シルヴィアは自衛用に持っているリボルバーのホルスターに手をかけ、マリアとギデオンに命令する。


「バークレイ三等軍曹、パーカー上等兵。命令不服従の罪により、彼を拘束しなさい」


 いつものシルヴィアなら穏便に済ませるが今日は違う。

 仲間の行く末がかかっているからだ。

 戸惑う二人にシルヴィアは怒気を散らす。


「早くしなさい! これは命令よ!!」


 二人に抵抗しながら取り押さえられる警備兵。

 警備兵が持っていた拳銃を取り上げ、手錠で拘束。

 警備兵が持つIDカードを奪い、尋問室に入るなりシルヴィアは息を飲む光景を見ることに。

 マジックミラーの向こうにいるオリバーは厚手のタオルを顔に被せら、椅子に拘束されたまま床に倒されていた。

 そしてシルヴィアと同じ側に立つリーナが監視するなか、情報部の尋問官がウォーターサーバーに使う交換用ボトルを使い、水攻め尋問をする瞬間だったのだ。

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