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アカに至る病

長引く塹壕ぐらしのせいで心身ともについて疲労していくエロイスたち。

そんな突撃隊の督戦隊としていたはずの『人間たちの音楽隊』のグラーファルたちは首都ボルタージュで起こった共産主義革命結社の蜂起を鎮圧して回っていた。

テニーニャ共和国首都のボルタージュでは蜂の巣をつついたような騒ぎだった。


武装した共産主義者たちの蜂起により無関係な市民たちが殺され、行政機関や軍事基地が襲撃されていた。


そんな暴徒を抑えるべくグラーファルは見つけ次第共産主義者を殺戮する『赤い雪作戦』を続行していた。



「見つけたぞっ!!資本主義の犬どもめっ!!」


背広を来たまま着剣した歩兵銃を振り回して無差別に殺傷して回っているのは蜂起した共産主義革命結社『美しい国同盟』の人間だった。


「なっ…何なんですかっ!あなた達っ!」

「うるさいっ!邪魔をするなっ!殺すぞっ!」


男が銃剣で女性の顔を横薙ぎに払った。


剣先は顔の両目をスパッと切り裂き、またたく間にじわっと赤い血が外に滲み出てきたあと、吹き出るように流れ始めた。


共産主義者たちはいくつかの集団に別れ、こんな暴力革命をあちこちで展開しているのだった。


「ギァァァァァァァァァァッッ!!!目がっ!!」

「逆らうやつは徹底的に弾圧しろっ!右派分子を許すなっ!造反にこそ道理に有りっ!革命バンザァァァァァァァイっ!!!!」

「おいアカ豚」


その時、男たちの背後に真っ黒な軍服をまとった少女がいた。


血に濡れたエクセキューショナーズソードを片手に持ち、軽機関の銃口をこちらに向けていた部下を連れて。


部下たちの肩には軽機関の弾帯が掛けられていた。


「何だっ!反動分子かっ!革命の邪魔をするなっ!!」


その血の付いた銃剣の着いた歩兵銃を持つ男がそういった。


グラーファルは静かに右手を暴徒たちに向け掌を広げる。


「お前たちはこの国の将来を阻害している、私に思想はない、だが害を成しうる存在は根絶しなければならない。

ロディーヤ人、売国奴、反乱分子、共産主義者。

全て敵だ」


グラーファルがそう言って広げていた掌をキュッと握りしめると、後ろの部下たちが携えた軽機関銃が銃口から火を吹いた。


次々連続で撃ち込まれる弾丸に為す術なく、男たちは身体に穴を空けられ、そのまま血を吹き漏らしながら路上へと打ち捨てられた。


残ったのはあの婦人の目を裂いた男だけだった


「なっ…なんてことをっ!!」

「どの口が言うか、いいから教えろ、お前たちを扇動しているのは誰だ?結社の幹部か?」


グラーファルが腰を抜かした男の襟を掴んで起こす。


「言うわけ無いだろ…労働者、貧農に下層中農、革命幹部、革命軍人…さぁ、誰だろうな、金に貪欲な貴様にはわかるまい」

「喋るなアカ畜生、今度こそ本当に殺すぞ、いいや嘘だ殺すわけが無い、考えつく全ての苦痛を収容所内で与える、覚悟しろ」

「わっ…わかった…言うから見逃してくれっ…!」


男がそう言って手を上げて降伏のポーズをとる。


「トーファス・マッククックイーンだ、赤い女神なんて言われている革命指導者なんだ。

『美しい国同盟』…聞いたことあるだろ?元は学生の集まりだったんだが、その思想に感化された俺たち労働者が広げていったんだ。

その最古参がトーファスなんだよ…ちなみに言うと元テニーニャ国防軍の少女兵だったんだ。

なぁこれでいいだろ?見逃してくれ…」

「そうか…?で?そいつはどこだ?」

「ダイカス大統領のいる会議堂ヘ向かっている、政権を掌握すべくな」

「なんだと」


無表情のグラーファルが珍しく目を見開いて驚きを隠せずにいる。

 

「それはまずい、大統領が殺される。 

行くぞ、『人間たちの音楽隊』奴らに赤い雪を見せてやれ」



大統領会議堂前ではそのトーファスが演壇に登り演説を行っていた。


テニーニャの青い軍服に茶色の折り襟で腰までの丈の上着に袖を通した少女だった。


少女は身振り手振りで決起した革命兵士や市民、共産主義者たちを二百人ほど扇動していた。


ウェービーヘアの茶髪に赤い血のような目。


その言葉巧みな口ぶりに集まっていた暴徒たちは耳を傾けて静かに聞いていた。


「よく聞くのだ熱烈勇士たちっ!私たちの銃剣の先にこそ自由と格差のない公平世界があるっ!最善策は徒党を組み直接大統領直談判することだっ!相手が相手だから仕方ない、だがっ!その赤い決意は廃ることなく国は滅びることなく君たち愛国勇士たちは永遠と語り継がれるであろうっ!読ませたくはないかっ!自分の子孫たちにっ!血を赤くして戦った君たちが綺羅びやかに飾られてる歴史書をっ!!」


トーファスが硬く固めた拳を空高く突き上げると、それに同調するように鉄パイプや歩兵銃を握った拳を突き上げた。


拳を挙げる代わりに真っ赤な共産主義を表す大きな旗を左右に振る者もいる。


「さぁ青年少女前を向けっ!無産階級大革命万歳っ!この腐った資本主義に終止符を打とうっ!」


トーファスが身を翻し背後にある会議堂に向けて指を指す。


「この犬小屋を赤に染め上げろっ!!」


その呼び声とともに煽られた市民たちが正面の鉄格子の門をがっちりと掴んで力付くでも開けようとしたその時。



ダダダダダダダダダッっ!!!!



冬の冷たい空気を連続で叩きつける乾いた音が響き渡った。


グラーファルの部下たちの軽機関の掃射音だった。


暴徒たちは蜂の巣にされ、身体が絞られたように血液を穴から吹き出した。


ドタバタと重い肉塊が倒れる音と軽い空薬莢の落ちる金属音。 


顔が確認できないほどふっ飛ばされた死体や半身が分裂した死体がその乱射の威力を物語る。


会議堂前は『悪夢の月曜日事件』より一層、血生臭くなっていた。


暴徒たちの目に倒れていく死体の先に立っているグラーファルと硝煙を蒸した軽機関銃を持った部下たちがいた。


「…待っていろ、今誅戮してやる。

浄土の華に生まれ変わらせてやる。

その腐った頭のお花畑にヒナゲシ一本咲かせぬように土壌ごと冒してやる」


その言葉を聞いた瞬間、暴徒たちはグラーファルたちのいる方へと大勢で襲いきってきた。


「徒花を散らすのはてめぇーーーの方だぜ間抜けがっ!!!」


一人の男が棍棒を持って飛びかかってくる。


「やかましいぞ、この原始人が。

とっとと猿山に帰りな」


手に持っていた剣を円弧をなぞるように飛びかかってきた男めがけて振るう。


その鋭い処刑人の剣は男の少し硬い首筋の筋肉にしてやる食い込むとそのまま水平に刃をスライドさせてきれいに頭部だけをスパッと飛ばした。  


そのまま落ちてくる肉袋を避けると、その血塗れのエクセキューショナーズソードを暴徒に向けて布告した。


「さっさと散れ、徒党と思想を散らせ逆徒共、ロディーヤの同じ立場に落ちたいのか」  


それ言葉を聞いて暴徒たちは少しだけ狼狽える。


このままグラーファルに逆らえば死ぬより恐ろしいことが待っているということを本能で感じ取ったのだ。


おののく暴徒たちにトーファスが呼びかける。


「何を怯んでいるのだっ!君たちの覚悟はそんなものなのかっ!国と戦うと誓った同志じゃないのかっ!?」  


だが、グラーファルの威圧に圧された暴徒たちは次々と持っていた武器を路上に放棄してその場から立ち去ってしまっていった。


霧散していく同志たちにトーファスは必死に呼び止める。  


「どこへ行くんだ君たちっ!このまま家に帰ってしまったらまた労働の始まりだぞっ!労働者に戻りたいのかっ!国史を変えた英雄にはなりなくないのかっ!!」


その必死の呼びかけに耳を傾かせてくれる人はもういなかった。


荒れた会議堂前には放棄された武器や旗、死体が散乱し、残った人は演壇のトーファスとグラーファル率いる部下たちだけだ。


「トーファス・マッククックイーン、お前を煽動罪で捕縛する」

「…クソっ…私の夢もこれでおしまいか…」

「テニーニャ民族の高潔な血統にアカをねじ込んだ罪は重いぞ、お前がその思想を広めたんだな。

有害図書に指定してたあのアカい書籍の著者もお前か?偽名なんぞ使いやがって、あの口ぶりと語彙は有害図書の文面そっくりだったな」


トーファスは演壇に力なく寄りかかったまま語り始めた。


「お前たちが起こした『悪夢の月曜日事件』の被害者が共産主義者たちだと知った、それをきっかけに国内で私の思想に共感してくれる人をかき集めた、いずれこの国に社会主義体制を樹立させる、そんな幼い頃の夢も今日で終わりだ。

きっと『美しい国同盟』は徹底的に弾圧され勢力は衰えるだろう。

だが忘れるな、この赤い決意はきっと受け継がれる、受け継いでくれるだろう」

「うるせぇ、その決意はいずれガス室で消える」


近づいてきたグラーファルに捕らえられたトーファスはやるせないような背中を押されながら連れて行かれた。


一月三日、『美しい国同盟蜂起』はこうして鎮圧してされたのだった。

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