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グリーンデイ

新年早々テニーニャの首都ボルタージュではグラーファルが共産主義革命結社『美しい国同盟』が徒党を組んで暴れだした。

ロディーヤの帝都チェニロバーンでは参謀総長がとある兵器工場の見学をしていた。

年が変わっても参謀総長の野望は変わらない。


国を古い森を燃やす焼き畑の様に更地にしてそこから芽吹いてきた新芽を育てる。


そんな歪んだ愛国心を相変わらず持っていた参謀総長はボルタージュの複葉機開発に遅れを取るなという皇帝陛下の命令により国産の複葉機を開発している兵器工場に視察しに来ていたのだ。


レンガ造りの大きな兵器工場が立ち並ぶ帝都の中心から少し離れた工業団地の工場にやってきていた。


工場の大きな引き扉の前に立っていたのは身長の高い参謀総長と同じ程度スラッとした男性がいる。


曇りのない微笑に紳士そうな振る舞い。

シルクハットを被り、身体を支える杖をついていた。


ただ歳を取っていった男という印象はなく教養と学を会得していった士君子の様な様相だった。


その男性はやって来た参謀総長を見つけるとシルクハットを外すとファー付きの茶色いコートと黒い分厚い手袋を着ていた参謀総長も手袋を外しポケットに入れてから会釈して握手する。


「団地内担当者のムーデッド・ラインコーです、何卒宜しくお願いします」

「ああ、シンザ・ハッケルだ、よろしく。

では早速見せていただこうか」


老人の紙をくしゃくしゃにした様冷たい手を握ると案内を頼み込んできた参謀総長を工場内に連れて行く。


そこには緑色の三葉機が懸架されて次々と運ばれているところだった。


「これが完成形か、素晴らしい」 

「いえいえこれくらいなんてことはございません。

言われたとおり開発に時間がかかりましたが作り上げましたよ。

『グリーンデイ』でよろしいですよね?」

「構わない、名前は好きにしたまえ」


工場内で視察していると参謀総長はコートを脱いで腕に掛けた。


「しかし暑いな、これも機械の熱か?」

「えぇ機械の稼働率はほぼ百です」

「おかげで冬でも手がかじかまなくていいな」

「全くです」


二人は懸架されながら流されていく機体を見て逆流しながら工場の奥へ向かいながら機体の説明をしだした。


「この緑色の本機はこの三枚の翼の他に主脚間にも板を渡して四枚目の翼としており、未聞の四葉機に近い一人乗りの機体です。

武装はプロペラの回転と同調する重機関銃を機首にニ丁装備いたしました。

機動力は凄まじいですが空気抵抗により速度が少し遅いのが玉に瑕ですね。

あと一つ気になることがあるのですが…」

「どうした?」


老人が流れていく複葉機を眺めながら試作機に関することを言った。


「羽のせいで視界も悪く操縦が難しいと、おまけにそのせいで離着陸が難しく事故が多発したことから『殺人機』などと言われていましたのに、なぜ無理矢理量産に至ったのですか?」 


その質問に参謀総長はニッコリと笑い答えた。

 

「面白い質問だな、なら面白く返してやろう。

『殺人機』ということは死者を多く出す機体、つまり『相手より(自軍の兵を)多く殺すことができる優れた機体』と言うことさ」


その返しを理解した担当者の老人は笑う。


「なるほど、それは面白い、頓知が効いていますな」

「世間には御内分に願います」

「もちろんです、ブランドに傷つくような事は言いませんよ」


そう言うと二人の人士は顔を見合わせて笑った。


その笑顔に悪意はなく、和やかな旧知の仲の友の様なやり取りだ。



そんな会話を終えたあと、邪魔にならぬよう工場を担当者と共に出た。


「やはり寒いな、手袋手袋っと」

「新年の冬は節々に堪えますな」

「それは君だけじゃないのか?私に同意を求めるようなことを言うんじゃない」

「はは、申し訳ございません。

それでは私はこれで、まだまだ忙しいものですから」

「そうか、これからも精々精進してくれ」

「そのお言葉、恐縮の至りです」


参謀総長はその紳士の老人をこのして外で待たしていた車に乗り込んだ。


「やぁ待たせたな、ルミノス」


そこには車の後部座席で待機していたルミノスも一緒にいた。


「あ、おかえりなさい参謀総長殿、いかがでした…?」

「いや特段変わったことはない、何か言うべきことがあるとするならばあの機体は並大抵の兵士じゃ動かせないと言うことだな、まぁそれでいいんだが」

「そうですか…」


ルミノスは座席のシートを撫で回してこう言った。


「しかしすごいですね…内燃機関の車なんて久々に乗りましたよ、わたくしが産まれるちょっと前は蒸気自動車だったのに…技術の進歩は凄まじいですね」

「そうだな、人類が初めて空を飛び立ったのが数十年前、蒸気自動車が広まったのが五十年前くらいからか?それからガソリンと来たもんだ。

もうこれ以上進歩の余地がないんじゃないか?人間は?」

「戦争は技術を飛躍的に成長させるってのは昔から言われてることですからね、電気の世紀が始まってもうすぐ半世紀、戦後が楽しみですね」

「そうだな、次は空の向こうでも夢見とこうか」


車はそのまま工業団地を駆け抜けて帝都の参謀本部へと帰っていった。


参謀本部前に停車した車から二人が降りて本部に入り、執務室へと向かう。


「やはりここが一番いい、私の人生はここから始まるのだ」


参謀総長は執務机の椅子に腰掛けて資料を一つ一つ吟味するように眺める。


するとデルビル式の卓上電話の箱のハンドルをクルクルと回して電話を掛け始めた。


「なんの電話ですか?」

「ルナッカーの捜索願いだ。

どこにいるのかが知りたい」

「はぁ…あんな女の事そんなに気になりますか…?」

「気になるとも、枢機卿が勝手に突撃命令ばかり下して兵力を勝手に削いでいっているのは嬉しい誤算だが、やはり気がかりだ、なるべく優先して探してほしい」


受話器を手にとってしばらくしてから話し始めた。


「聞こえるか?おい、あぁならいい。

失踪しているルナッカーとその他の少女兵のことだが…は?聞こえん、雑音が多いぞ、受話器から口を離せ。

よし聞こえた、そうだできたらでいい。見つけたら私の元へ連れてくるよう言ってくれ、じゃあ」


受話器を置くと椅子に寄っかかって長い脚を机に乗せる。


「必ず見つけてやるぞ、私の理想から逃げることなどできん、誰であろうとな」

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