最前線での日常の始まり
たどり着いた中継基地にて、中佐へと昇級したフロントとワイズ司令官とシッコシカ軍令部総長で作戦を立案した。
そしてその作戦に必要な先陣を切る突撃隊の志願をエロイスたちに頼むよう言われたフロント中佐は仕方なくしげようとするが、エロイスは自ら志願してきたのだ。
突撃隊に志願したエロイスたち四人は真っ先に突撃隊の分隊に認められ、数ある突撃隊の中で最も有名な突撃隊となった。
その報告に司令官も軍令部総長も喜んだ。
後日、ワイズ司令官はその拠点にいた青年少女兵を並ばせ、朝礼台を使ってそのエロイス突撃隊の事を大々的に報じた。
「いいかよく聞けっ!昨日やってきたあのロッキーマスドールズの少女たちが突撃隊に志願してきた!自らだっ!あの勇敢な少女は自ら国に殉ずるよう頼み込んできたのだっ!あとに続くんだ!今ならあの著名な少女たちと共に戦地をともにできるのだっ!すぐに終わるっ!成功すればすぐに終わるっ!まだ志願は募っているっ!今すぐにでも戦場を切り開く英雄となろうじゃないかっ!!」
その司令官の演説に並んでいた兵士たちが顔を見合わせて考える。
「さぁっ!志願するものは右手をあげよっ!自由を掴み取る右手をっ!」
その瞬間、兵士たちは一切の迷いがないように真っ直ぐ右腕を空へと付き出した。
その現状に司令官も大喜びだった。
「よし決まりだ、突撃隊は三から四人ほどあればいい、そのうちの一人が隊長となり隊を率いてくれっ!頼んだぞっ!!」
エロイスたちが支給された麻袋を肩にかける。
中には柄付き手榴弾がゴロッと入っている。
手に短機関銃を持って大勢志願した突撃隊の列を作り、それを舐めるように観察しながらゆっくりと列の端から端へと司令官は軍令部総長とともに歩く。
「素晴らしい、すぐに前線に赴くことになるが今日が突撃の日ではない、準備万端ではないからな少なくとも一週間程度は塹壕にて暮らしてもらうことになる、頼んだ、これ以上ロディーヤの侵入を許すわけにはいかないんだ、頼りにしているぞ英雄諸君」
軍令部総長の言葉を聞き、全員が身を引き締める。
それぞれ男女別々に組まれた突撃隊のみんなは緊張した顔でその言葉を耳に受け入れた。
近くでエンジンがかかる音がする。
それは先程負傷兵たちを運んできた荷台のついた輸送車だった。
「すまないけど、今はなるべく節約したい。
あの車両で我慢してくれ、塹壕足の水膨れが破裂していた兵士も乗せていたから一応感染症には気をつけてくれ、あんまり荷台を触らないように」
その輸送車に次々と乗り込む突撃隊の青年少女たち。
エロイスたちも荷台へと上がり、座り込む。
すると列を作っていた輸送車の戦闘がにわかに動き出した。
それに続くようあとの輸送車もついて行く。
エロイスが外を見ると、そこには司令官と軍令部総長。
他にも野戦病院の看護師や後方任務を任されていた負傷兵たちが右手を上げ、前腕を掌を真っ直ぐ斜めに構えてビシッと敬礼していた。
エロイスも中腰で輸送車に揺られながら敬礼仕返した。
輸送車は拠点を抜け、どんどんと小さくなっていく。
列をなして走行する輸送車のあたりは木一本なく、車両によって自然に作られたであろう道と、短い草が茂るのどかな平原だった。
遠くにうっすら見える山々が輸送車を囲み、冷たい風がこの光景の底を素早く通過していく。
見るものが失くなったエロイスたちの目はその輸送車の荷台の木の床に移った。
「リグニン、この床すごいシミあるけど…」
「ね、全部血かな?」
床を見ていると、ドレミーがきゃっ…!と声を上げた。
「う…っウジ虫…気持ち悪い…」
「ホントなんね、白い米粒みたいなのがピクピクと…」
「うぅ…やだぁ…嫌い…」
ドレミーが白い脚絆の底でのたうち回るウジ虫たちを潰していく。
グリグリと踵をグリグリと使って刷り潰していった。
「…ゆっ…勇気あるね…ドレミー…」
リグニンがそのドレミーの行為に少し戸惑った。
「だって生きているより死んでたほうが見れるもん…」
エロイスたちを乗せた輸送車が戦場へと行く途中で、同じ車種の輸送車が向こうからやってきた。
すれ違う途中、エロイスはその荷台を覗いたが、やはりと合うべきか、応急処置されていた負傷兵たちが敷き詰められた運ばれていた。
片腕が欠損した青年や顔全体を覆っていた包帯が真っ赤に染まるほどの重症を追っている兵士、性別が確認できなかったが、エロイスは胸の膨らみを見て同じ少女兵であることを悟った。
その亡者の助けを求めるうめき声は戦地へ向かう突撃隊の中耳に深く刻まれた。
「夢に出てきそう…」
「大丈夫だよリグニン、その悪夢を終わらせるために私たちがいるんだもん、すべての戦争を終わらせるために」
荷台の兵士たちを揺らして輸送車は進む。
そして次第に砲撃の音が聞こえ始めた。
低く落雷の様な轟音が空に響き渡る。
そのことに共鳴するように青空も次第に陰りを見せ始めた。
灰色のコンクリートのような無機質な分厚い雲がたかり、太陽光を遮っていく。
まるでエロイスたちの心情を写すようなその天候の移り変わりに何か不吉なものを感じざるをえなかった。
砲声が鳴り響く中、次第にテニーニャの塹壕がある兵陵へとたどり着いた。
そこにあったであろう田舎町は既に破壊されかろうじて残っている建物跡も、細々く外壁が自立している程度の全くの廃墟だった。
「着いたな、砲撃も止んだ。
ここが塹壕の後ろ、つまり気を抜ける最後だ。
エロイス、大丈夫だよな」
「もちろん、こうなることは覚悟の上だし」
荒れた廃墟の街に降り立った青年少女は柄付き手榴弾を入れた麻袋を肩に掛け、短機関銃を携えていたあるき出した。
町は住宅の外壁が散乱し、骨組みの焦げた木材が放置されている。
真っ黒な焦げた鉄の自動車、傾いている電柱、大聖堂跡の僅かな外壁と内装。
消滅しかかっているとしか形容できない町の耕地を進んでいくと、地面より低く、人間の肩あたりまでの深さに掘られた広い塹壕が現れた、そこには弾薬箱が積まれ、兵士たちはそこには屯していた。
エロイスたち兵士が塹壕へと降り立つと、すぐにそこ兵士たちに向って一人の大柄な男の軍人がやってきた。
標準的なテニーニャ兵の装備に、ケピ帽を被っている。
「よく来た、俺がお前達突撃隊を指揮するイーカン大尉だ、しっかりと命令を聞け、そうすれば家に帰れる。
そのケピ帽を脱いでこのヘルメットを被れ」
その立派な黒い口髭と顎髭を持ったイーカン大尉が指を指した方には緑がかった茶色いブロディヘルメットが積まれていた。
エロイスたちはそのケピ帽を脱ぐと、そのヘルメットを被って前線の兵士だと言うことを自覚する。
そのヘルメットのせいでわずかに顔に影がかかって男女関係なく気迫に満ちる。
「突撃隊の任務は最前線の塹壕で突撃命令を待つことだ、一週間、一ヶ月、一年。
突撃命令が出るまで待機してもらう、いいなっ!そのための突撃隊だ!気を引き締めていけっ!」
大尉の言葉にハイと大きな声で応え、塹壕ないを移動して前線へと向かう。
何本もの横に延びた塹壕を縦に繋ぐ通路を通って最前線の塹壕へと向かう。
塹壕の頭上には板の橋がかけられているが、今地上に出るのは危険だという判断で塹壕内を移動しながら向かった。
そしていよいよ一番前、最前線の塹壕へたどり着いた。
その塹壕はまさに地獄同然だった。
塹壕の底は泥に脚が取られないようレンガや簀子を敷かれている。
塹壕が崩れないよう板で補強され、あちこちに退避壕のちいさな入り口が作られていた。
その環境の中、突撃隊は待機しなくてはならなかった。
何より辛かったのはその衛生状態だった。
塹壕の向こうからは腐った生肉の様な匂いが鼻腔を犯し、塹壕内にも蔓延っていた。
その匂いはついさっきやってきたエロイスたちの軍服にすぐに染み付いた。
塹壕内をネズミやゴキブリなどの害虫が元気に走り回っている。
心底恐ろしかった、到底人間がいていい場所ではなかった。
人間の尊厳全てを否定するような最前線で分けられた突撃隊たちはそれぞれ離れて配置に着く。
エロイスたち四人は塹壕より低い位置に作られた無人のコンクリートで補強された退避壕を拠点とすると早速近くを哨戒し始めた。
塹壕の下の穴に屈みながら入って階段を下ると四畳程度の広さしかない地下の部屋があった。
「退避壕というより蛸壺なんね」
「暗くて狭くて不潔…」
ぶつぶつ文句を言いながらその部屋へと入っていく。
出入り口の穴から差し込んでくる光だけが狭い退避壕を照らす。
「あっ、リグニン、もう一つ部屋があるみたい。
ほら、壁に鉄扉が」
暗くて見えなかったが、もう一部屋あるみたいだ。
エッジが軽く軋む扉を開くと同じような暗さと狭さの部屋があった。
「…こりゃ寝るときは二人ずつなんね」
エロイスが部屋に放置されていたマッチとランプを手にとって明かりを灯す。
灰色の冷たい壁がボワッと浮かび上がって狭い部屋の全貌を暴いた。
「きゃっ!」
ドレミーが部屋の地面を見て小さな悲鳴を上げた。
床には部屋から出られずに飢え死んだネズミの死骸が点在していた。
「まずは、掃除からだね」
陣地構築用のスコップを使ってその死骸を掬い上げ、塹壕の外へと放る。
そんな作業をしていると、イーカン大尉がやってきて、退避壕から出るよう要求した。
「お前達にこの塹壕での過ごし方を教える。
トイレはこの最前線より後ろの塹壕にある。
蚤や虱の害虫を死滅させる殺虫剤は必要に応じて渡してやる、朝昼晩のメシは突撃隊の特権で届けてくれるそうだ。
あと、女には辛いかと思うが全身の剃毛は禁止。前に女同士で性行為に励んだ間抜けが剃毛の傷から細菌が入り込んで伝染病になった、やめろよ」
それだけを告げると塹壕の通路の奥へと言ってしまった。
エロイスが土嚢に足をかけて向こう側を覗く。
その先は死のゾーンと言われるところだった。
あたり一面枯れた世界、剥き出しの汚泥に爆風で葉が吹き飛んで裸になった木が細々く立っている。
満水の砲弾孔で覆い尽くされ硝煙により常に靄がかかったようだ。
「開戦前は草花茂るテニーニャ屈指の湿原だったんね、今や見る影もない、世界遺産登録も夢じゃなかったんね」
そんな死のゾーンと称されている湿原を見て残念そうにエッジがぼやいた。
今日からこの地獄の最前線での日常を過ごすことになる。
その気が遠くなりそうな感覚に目が眩んだ。




