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捨て駒で勝敗は喫するのか?

決戦の刻、リリスたちは上陸用舟艇にのり、湖を突破する。

エロイスたちのいるアッジ要塞からの砲弾を掻い潜り、犠牲を出しつつもなんとか岸へと辿り着こうとした瞬間、事故によりリリスたちの舟が転覆し、その下敷きとなってリリスは溺れてしまう。

メリーとベルヘンを先に行かせ、溺れたリリスの蘇生を施した少尉は、意識の戻ったリリスを置いて山へと向かっていった。


上陸できた兵士たちはアッジ要塞へと向かって進軍をはしていた。


しかし砲撃により人数が減ったこと、そして斜面という不利な地形でなかなか山頂へと進めずにいた。



「レイパスっ!右から来てるってっ!」


右から顔を出しだロディーヤ兵士に機関銃のたまを浴びせる。


すぐに身体に向こう側が見えるほどの穴があき、腸をぶちまけながら倒れていく。


「大尉、やばいっ!押されてるっ!」

「大丈夫っ!機関銃があるから平気だって!」


銃座からロディーヤ兵を掃討する二人に向かって、木の陰に隠れていた兵士が柄付き手榴弾を投げ込んできた。


「大尉っ!手榴弾っ!」


手榴弾が大きく円を描いて飛んでくる。


すかさず腰からナイフを取り出して手榴弾に向けて投げる。


うまく刺さった手榴弾は失速し、銃座手前で爆発した。


「すごぉ…」

「でしょでしょ?この腕で少佐も助けたんだから…レイパスっ!あの畜生をぶち殺せっ!」


レイパスの重機関銃の銃口が木に隠れて手榴弾を投げてきた兵士へ向けられた。


「welcome to the mind f××kっ!!」



ダダダダダダダダッッ!!!


重い銃声が空気を切るように響く。

その威力は木を貫通し兵士を穴ぼこにした。


「やりますねぇ、どんどん行くぞゴラァっ!!」


大尉も短機関銃を持って土嚢に隠れながら銃口だけをだして乱射する。


「どうせ足止めだ、なら精一杯時間稼ごうな」

「頑張れ大尉、私は生き残る」

「うわっ薄情…」



機関銃を撃ちまくる二人だったが、ロディーヤ兵士も馬鹿ではない。

岩や土、木に隠れていた機関銃を避けていた。


「埒が明かねぇわ、どうするレイパス…レイパス?」

「…もう弾なくなっちゃった」


遂に連射していた重機関銃の残弾がなくなった。

あと残されたのは短機関銃の弾と手榴弾だけだ。


「まだ行けるっ!最後まで抵抗するぞっ!」

「もちろんそのつもり」


二人が短機関銃を手に取り交互に乱射する。

弾が切れたらそれを補うようにもう一人が発射するのだ。


そしてレイパスの弾が切れ、大尉が発砲している最中の事だった。


ロディーヤ兵士の手榴弾がこちらには飛んできた。

弧を描くのではなく、水平に真っ直ぐ飛んでくる。


柄付き手榴弾はくるくると横に回転しながらやってきて大尉のそばで爆発した。


「…っ!?た…大尉…っ!?」


弾を補充していたレイパスは難を逃れた。


だが爆発した後には上半身が吹き飛び、下半身だけがボロ布のようになった大尉がいた。


見るも無惨だった。


赤黒い断面から背骨らしきものが少しばかり飛び出ている。

汚れていた軍服もズダズダにナイフで切り裂かれたようになっており、さっきまで会話していた人の死体だとは思えなかった。


レイパスが固まっているうちにもロディーヤ軍は進んでくる。


「そうか…これが…道理で…戦争はかくも終わらず、か」

 

レイパスは少しニヒル的な笑みを浮かべたあと、再び機関銃を敵に向けた。


「来いよ、神は私たちに死を配った。

さぁ、再演アンコールだ」



リリスを置いて山を駆け上がってきた少尉も先に行くよう促していたメリーとベルヘンと合流する。


「リリスは無事かしら?」

「あぁ息を吹き返してくれた、それより今、何がどうなっているんだ」


少尉にはまだ状況がうまく飲み込めていなかった。

リリスの救護に精一杯でだいぶ駆け足で追いつくようにと登ってきたのだから。


「先に上陸した陸軍兵がぐんぐんと山を登っていってる、だから少尉もここまで安全に登ってこれたんだと思う、だけど今進撃速度が完全に落ちている。もう少し先に機関銃の銃座のせいでね」

「銃器は湖底に沈んでしまったので寝ているテニーニャ兵から鹵獲したわ、なかなかおもしろい銃ね」


伏せている三人の耳に野太いうめき声や布を裂くようなつんざく悲鳴が聞こえてくる。


「…激戦だな、そろそろだな行かねば」


少尉は低い姿勢を保ったまま、斜面を駆け上がる。

時々やってくる銃撃から実を守るため木の陰に隠れながら二人もそれに続く。


あちこちに敵味方分別なく、死屍累々と折り重なって死体が点在していた。


まるで生きているような安らかな表情の少女兵の死体から、毛の生えたたくましい腕だけボロっと落ちているような物もあった。

こうして見るものすべてを不快にさせる辺獄が生まれたのである。


そんな死体に目を奪われているとメリーの近くの木の幹のかけらが飛んできた。

機関銃の銃撃が木に当たったのである。


「わっっ!?危ないですわねっ!」


少尉が指をさすと、銃撃をしてであろう銃座があった。

銃と兵士はU字に作られた土嚢の塀に隠れ、少尉たちの下からの銃撃はほとんどダメージにはならなかった。


「ベルヘン、その手榴弾を投げろ」

「はい」


ベルヘンが腰のベルトに挟んでいた柄付き手榴弾を取りしだし思いっきり届くようにと放り込んだ。


手榴弾は見事土嚢に直撃し、塀と機関銃をオシャカにした。


やけになったテニーニャ兵は短機関銃片手に突っ込んできた。

雄叫びを上げながら突っ込んでくる様におののくが、メリーは冷静に鹵獲した機関銃を浴びせる。


突っ込んできた兵士は倒れるが、下ってきた勢いは衰えず、死体になりながらもゴロゴロと転がりながら少尉たちのもとへやってきた。


死体の顔面は地面に擦った事でベロベロに剥けている。

目は座ったまま、まるで怨念を持ったよな目つきでメリーを見つめている。  

不気味がった少尉たちはすぐにその場をあとにする。


その後山頂の要塞へと向かうも段々とロディーヤ兵の死体が増えていることに気がついた。


「ここらへんはまずいな、何かわからないが猛烈に嫌な予感がする」


少尉があたりを探ると下半身だけ残っている死体を見つけた。


「この青い軍服はテニーニャか…随分無様な死に方だな」


そう言って片膝で屈むと何かが上から降ってくるような音とそれが着地する音が聞こえた。


少尉はすぐに音のする方を向く。


そこにはナイフを持った血まみれのテニーニャ兵と、ナイフのに腹を喉に当てられているベルヘンをがいた。

ベルヘンはテニーニャ兵に背後を取られ、身動きが取れずにいた。


「このテニ公野郎っ!そいつを離せっ!」

「喋るな、武器を置いて下に戻れ」

「…嫌だと言ったら?」

「こうする」


手に持ったナイフをベルヘンの喉に勢いよく突き立てた。


喉から噴水のように血が流れ出る。

口からも血が逆流してたちまち軍服が赤く染まる。

そのまま力なく倒れ込んでしまった。


「っ…!!!お前ェーーーっ!!!」


少尉がテニーニャ兵へ向かって飛んでいき拳を頬にぶち込んだ。


テニーニャ兵は口から吐血しながら後方に吹っ飛ぶ。


「…覚悟しやがれ、お前は捕虜だ。

人権を否定して酷使させてやる、死なせるものか」


テニーニャ兵もゆっくりと起き上がり、自身有りげなそうに笑う。


「捕虜だ?何が捕虜だこの野郎。

あの人数で要塞が落とせるものか、現にここまで生きてやってきているのも君たちだけじゃないか、捕虜だ?腑抜けたことを。

君たちは酷使する側ではなくされる側なんだよ」


メリーは倒れているベルヘンを背中には背負う。


「ほら、お前がやったんだぞ、早く要塞の医療室へ案内しろ」


その言葉を聞いたテニーニャ兵はキョトンとして、大声で笑いだす。


「馬鹿か君たちっ!要塞の医療室へ案内しろだと?てめぇらが行くのは精神病院の隔離室だぜっ!」

「…そろそろかな、さっきお前自分の事足止めとか言ってたな」

「ああ言った、時間さえ稼げればいい…それでエロイスたちがこいつらを押し返してくれる…その駒になった人間だ、いつの間にかな」

「実は俺らも足止めというか囮だ、お前との違いは成功したってところだがな」


テニーニャ兵は少し混乱した様子で目をキョロキョロさせる。


「せ、成功…?何を言っているんだ…君…ん…?…囮…?囮…あ…あぁ…そうか…そういう…」


テニーニャ兵はまたその場に力なく寝っ転がる。

どうやら気づいたようだ。


「ほら聞こえてくるだろ?右から左から…お前たちに責苦を与えに来た獄卒共の軍靴の音が」



十万人の軍勢が左右から要塞に向け進軍していた。

その音は地震のように山全体を揺らすほどの勢いだった。

正面に戦闘態勢を取っていた要塞の兵士たちは臨機応変に対応できず、そのまま要塞の左右を敵兵に挟まれてしまった。



「…来い…医療室へ案内する…」

「物わかりが良くて助かった、メリー、こっちに来い」


ベルヘンをおぶったままメリーは少尉のあとをつける。


「名前はなんて言うんだ」

「…レイパス…」

「そうかレイパス…助かった」


斜面を登るとコンクリート出できた要塞が姿を表した。

左右に挟まれたテニーニャ軍は戦意を失い立て続けに降伏したのだ。


要塞から次々とテニーニャ軍が引っ張り出される。

そして一人のロディーヤ兵が要塞の屋上に出た。



「栄光のロディーヤっ!!アッジ要塞攻略ゥーーーっ!!!」


その声とともにロディーヤが両手を空へと上げる。


勝利の万歳だった。


ロディーヤ軍は歓喜し、テニーニャ軍はその敗北で放心状態だ。


テニーニャ兵は野外に出され、ロディーヤ兵が占拠した要塞にレイパスと少尉が入ってきた。


「おいっ!テニーニャ人は外に出ていろっ!」

「いや、いいだ、怪我人を案内させている」

「医療室ならすでに把握済みだ、ほら外にいけっ!」


レイパスは進駐している帝国陸軍に背中を銃身で突かれながら外に出された。


案内される少尉のあとをメリーが追う。



「医療室はここだ、その紫髪のやつだな」

「そうだ、喉に怪我している、至急で頼む」

「任せてろ、そこのお嬢ちゃんはこっちに」


陸軍兵に連れられてメリーは医療室に入った。


レイパスは野外に連れ出された。

エロイスたちを探そうと見渡すが姿が見えない。


「エロイスたち…殺されちゃったのかなー…」



レイパスは一人で顔を失せて座り込む。

強烈な孤独感に襲われ、急に親元に帰りたくなった。



メリーと別れた少尉は要塞内を歩いていた。


「麓にリリスを残しているんだったな…あとで舟にも乗れなかった兵士に連絡して回収してもらおう」


そう独り言を言っていると突如、通路から鉄パイプを振りかざしたテニーニャ兵が出てきた。


「なっ!?」


抵抗する間もなくそのままパイプは頭に直撃し、倒れ込んでしまった。


「エロイスっ…!!早く部屋に入れるよ…っ!」


倒れた少尉は引きずられ、部屋へと運び込まれた。

部屋には興奮して息が切れているエロイスとリグニンが顔を見合わせる。


「…どうしよう…これ…」

「わ…わからない…もし起きたら…頼み込んで逃してもらおうよ…っ!」


少尉の頭からは血が流れている。

いつ起きてくれるかもわからない。


「このままじゃロディーヤに見つかっちゃう…」

「ね…ねぇ…やっぱり私達も降伏しようよ…言うこと聞いたほうがいいって…」

「嫌だね、ウチは虜囚の辱めは受けない…生き残って家に帰る、エロイスだってそうしたいでしょ?」

「でも…」


あれこれ考えているうちに少尉が目を覚ました。


「痛って…ここは…っ!?おまえはっ…!?」


少尉はテニーニャ兵を見て驚く。

するとそのタイミングで鉄の扉が叩かれた。


「おいっ!誰かいるのかっ!?テニーニャかっ!?いるなら出てこいっ!!」


陸軍兵が中にテニーニャ兵が隠れていないか探しに来たのだ。


少尉は二人をじっと睨んだあと鉄の扉を開いた。


「なんだ挺身隊の少尉じゃないかっ!こんなところでなにしている!」

「そうだな…実は…」


二人の間はじっと目を閉じる。

この人物に連れ出されて終わり、そう考えていたが。 


「もうこの服臭くてな、ちょっと新しいものを拝借しようとしているところだ、見るんじゃないぞ色男」

「バカ言えっ!そういうことならわざわざ出てくるなっ!」


陸軍兵は勢いよく扉を閉め立ち去っていった。


二人はその少尉の行動に疑問を抱きつつも、礼を告げる。


「…あ…あの…ありがとうございます…」


エロイスが頭を下げようするが少尉はそれを静止する。


「んな気はない、ただいくつか質問に答えてもらう、それで場合によっては逃してやる。

どうせ下っ端だから持っているとは考えづらいが

、この頭の傷を上回る価値の情報をよこせ」

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