革新の歩み
テニーニャ陸軍の少佐、ハーミッド・フロントが用いた列車砲によって挺身隊たちがいるハッペルが砲撃され街が破壊された。
ベルヘンは崩れた瓦礫の下敷きになるが、オーカ准尉によって事なきを得る。
そして自分のした余罪を償うため、自ら命を断ったのだった。
一方のエロイスたち国防軍は近くにいたテニーニャ陸軍に保護されていた。
「あっったかぁ〜い…」
エロイスがそう言いながらコップに入っているコーンポタージュを飲み干す。
温かいそれは冷え切った心も身体も溶かしていってくれた。
「いや〜しかし奇遇だね、こんなところに陸軍がいるだなんて、やっぱりこういうとき男の子は頼りになるなぁ」
「ほんとにねーもしいなかったら今頃木の養分だったねー」
「バカ言え、痩せっぱちの女の身体なんて養分にもなりゃしない」
「いえてるかもー、それにしても陸軍の人なんでこんなところにいるのかなー」
「聞いてみれば?」
「いいやー動くと寒いー」
陸軍兵は何やら慌ただしく動き回っている。
どうやら何かの実験を始めるようだ。
将校たちもあれやこれやと指示を出している。
するとそこにテニーニャ大統領の車がやってきた。
「レイパス…あれって…」
「あーデブじゃない?」
大統領の扉が開き後部座席から身を押し出して出てきたのはテニーニャ大統領、ダイア・ダイカスだった。
「ふぅ〜…冬でも車の中は暑いな全く…あぁご苦労出迎えはいい、それより早く見せてくれ」
「はい」
陸軍兵が開けた場所に建てられた倉庫の扉が開かれ中から翼を折りたたまれた複葉機が出てきた。
エロイスもコンポタを飲む手が止まり思わず釘付けになる。
「すごい、あれが航空機…」
「なるほどー飛行実験ってことかなー」
「たまたまそこにウチらが居合わせちゃった感じかな」
複葉機が人力で運ばれると、そこにまだ若々しい青年兵士ともうひとりの同じくらいの年齢の兵士が二人、操縦席と後席に乗り込んだ。
複葉機の翼が広げられ、エンジンがかけられる。
止まっていた複葉機は徐々にプロペラを回してそのまましばらく芝の上を走ったあと、すぐに中を浮き出した。
それを眺めていた大統領も思わず口に出す。
「おお、あの期待は滑走が短くていいな」
「いえいえまだですよあの機体の真骨頂は」
中に浮き上がった複葉機はそのまま徐々に高度を上げていった。
そしていよいよ点になるかならないかほどまでに上昇した。
「おお!いいぞ素晴らしい!ロディーヤの奴らもまだここまでは来ていないだろうなっ!」
「当然です。ここまで飛ばせるのはうちだけですよ」
「気に入った!やはりこれは戦争に使えるぞ!」
「よし、もういいぞそのまま高度を下げて着陸しろ」
「了解、只今高度百五十メートル」
「すごいね…あれもしかしたらとんでもない兵器になるんじゃ…」
「そのための実験なんだから当然だろ?」
エロイスたちもそのテニーニャの技術力に圧倒されていた。
だがもうすぐ着陸というところで、レイパスが思わぬことを口に出す。
「…あの航空機、墜ちる」
「え?」
リグニンが聞き返すと同時に一人の陸軍兵が電話越しに怒鳴っている。
「おい何しているっ!?速度を下げろ!空中分解するぞっ!!」
二人を乗せた複葉機がぐんぐんと速度を上げて地面へと近づいてくる。
よく見るとエンジン部分から黒煙が尾を引いていた。
「桿がっ!操縦桿が言うことを聞きませんっ!」
「何っ!?すぐに脱出しろっ!」
「何かあったみたいだねー」
「うん、トラブルかな」
青年兵士二人が機体から飛び降りた。
すぐに落下傘が開き、ゆっくり落ちてくる。
しかし操縦者を失った機体はついに勢いよく失速し、そのまま大統領とその他将校がいるところへと向かっていった。
「あぁ危ないっ!大統領っ!」
「うわァァァァァァっっっ!!!」
その場にいた全員が逃げ出す。
落ちてきた機体は乱暴に大統領のいた場に着陸すると、バランスを崩し、バラバラになりながら横滑りになってそのまま森の方へ突っ込んでいった。
幸い機体がバラバラになっただけで、爆発などは引き起こさなかった。
大統領が近くにいた将校の襟を掴む。
「貴様っ!俺を殺す気かっっ!」
「いえ、そういうわけでは…」
そこに降りてきた陸軍兵が駈け寄る。
「一体どういうことだ?なぜ機体が言うことを聞かなかった?」
「油圧システムが反応を示していなかったのでおそらくエンジンの電源の故障ではないかと。
あのままでは危険と判断したので機体を捨て、落下してきたしだいでございます」
「馬鹿っ!ならせめて機体を人がいない方へ向けてから降りろっ!」
「言っているじゃないですか、操縦者が言うことを聞かなかったと…」
大統領の機嫌が悪くなる。
せっかく航空機を見に来たというのにこのザマでは示しがつかなかった。
「実験を非公開にしていて正解だったな、まぁ思わぬ来客がいたが」
大統領の目が敗走してきた国防軍の女の子たちに向く。
だが国防軍たちの女の子たちの表情は活気に満ちていた、そこに敗北のニ文字はなかった。
生きているという実感でいっぱいだった。
「ねぇ大統領がこっち見てるー」
「キャーーーwwww」
「それよりあの残骸をさっさと処分しろっ!次同じ失敗をしたら許さんぞ!」
大統領は怒り心頭のまま車に乗り込んでそのまま去って行ってしまった。
「…なんか気まずいね」
「まぁ最初はこんなもんだよ、これからもっともっと進歩していくさ、きっといつか戦力になるほど成長していく」
リグニンは陸軍兵がくれた毛布にくるまる。
「ま、それまで見ていようかな」
ハッペルを砲撃し終わった列車砲はそのまま線路上を移動して首都のボルタージュへと戻ろうとしていたが、一緒に移動していた少佐のもとに一報が入る。
「チェニロバーンで蜂起?誰がかね?」
一緒に乗っていた砲兵が答える。
「はい!帝都近くの自治区のテニーニャ人が武器を持って決起しておりますっ!」
「なるほど、遠くの地でも同胞たちが頑張っているのだな」
少佐が列車砲の先頭の車両の上に立って呼びかける。
「栄誉ある精鋭諸君っ!私達は今、栄華の道を付き走っているっ!このまま勝利へと導いてくれる希望だっ!希望に乗っているっ!」
少佐の長いボサボサの髪が風で強く靡く。
赤いトレンチコートを袖を通さずに肩に被せ、その両腕を下に広げる。
「見ろいろロディーヤめ、私は勝ち取るぞ!この忌々しい不安から開放され、ふかふかのベッドでゆっくりと床に就いてやるっ!」
列車は少佐と砲兵を乗せて平地を突き走る。
その先はテニーニャ共和国首都、ボルタージュ。
任務を終えた少佐は意気揚々と帰還しようといていた。




