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罪人の乱舞

敗走していたテニーニャ国防軍の残兵のエロイスたちは森の中で露頭に迷っていたところ、またまたテニーニャ陸軍が集まっていたところに出くわした。

そこでは大統領のもと、航空機の飛行実験を行っていた最中だった。

だがそう簡単にはうまく行かず、エロイスたちの前で飛行実験は失敗してしまった。

ロディーヤの帝都での暴動を抑えるべく指揮を執る参謀総長と皇帝陛下、ロディーヤ陸軍が到着し、これから鎮圧に取り掛かろうとしていたが、参謀総長と皇帝陛下で意見が割れていた。

帝都チェニロバーンの参謀本部にて。



いよいよ夜になった。

帝都に戦火が宿り、夜だというのにまるで夕暮れのような明るさに包まれていた。


そんな中、皇帝陛下スィーラバドルトと参謀総長のシンザ・ハッケルが鎮圧の仕方で口論していた。


皇帝陛下は暴徒の殺害を、参謀総長は暴徒を暴力を用いて鎮圧することを提案していた。


「参謀総長!これは一刻を争う事態だ!奴らは都民を殺戮して回っているのだぞ!もはや同情の余地はない!」


陛下が激しい口調で責め立てる。

だが参謀総長は殺害を用いて鎮圧してしまえば蜂起がすぐに終わってしまい、ロディーヤ弱体に見合っただけの効力が得られないということを確信していた。


それだけになんとしても殺害での鎮圧は避けたかった。

参謀総長も負けじと反論する。


「陛下、お言葉ですが火器を用いての鎮圧はとても先進国の行いとは思えません。

未開で野蛮、槍を携えた猿の国の行いです。

それにそれが公になればテニーニャをより活発化させかねません。

陛下、どうか人道的な判断を」


参謀総長の反論も陛下の家臣たちの言い分にかき消されていった。


「しかし、奴らを殺害以外で鎮める方法なんかあるのですか?」

「参謀総長、陛下の顔を立ててやってくれ。

軍人ならば多少の妥協も必要なのだろう?」

「参謀総長、出番は終わりだ。

大人しく軍の指揮へ戻りなさい、もう決まったことだ。

狂人に遠慮はいらない、徹底的に打破しろ」


陛下も持ち上げられたように言葉を繋ぐ。


「さぁ満場一致だな、参謀総長、陸軍に伝えてくれ、見敵必殺。

暴徒に仲良く地獄の土を踏ませてやれと」


陛下は自分たちの家臣が太鼓持ちをしていることに気づいていた。

参謀総長も食い下がろうとするが、皇帝とその家臣たちの神威に軍部が敵わないことは十分わかっていた。


「…わかりました」


踵を返したように退出しようと足が動く。

扉に手をかけて出ようとしたとき、一人の家臣が嫌味ったらそうに参謀総長に言った。


「全く、悪魔もすっかり陛下の神威に浄化されたようですな」


陛下と家臣が口を開けて呵呵大笑する。

参謀総長のハッケルにはそれが盛大な皮肉であること、そして自分の廃園化計画の一端の失敗をあざ笑うかのように聞こえた。


参謀総長は無言で部屋を出るしかなかった。

そのまま、自分の部屋へと赴くと受話器を取って呼びかけた。


「ロディーヤ陸軍に告ぐ。

暴徒は人成らず、猿なりや。

火器を用いての早々に鎮圧せよ。

これは参謀総長の軍令ではない、陛下の勅令だ」



陸軍が短機関銃を持って帝都を駆け回る。


「いたぞ!店の中だ!!」


食料店にいたテニーニャ人に外から銃弾が浴びせられる。


銃弾を浴びた暴徒たちは次々と布を切り裂いたような悲鳴を上げて倒れていく。


刃物で向かってくる人間、家屋に籠もり、銃撃戦を仕掛ける人間、暴徒に連れられてきた子供。


情け容赦なく遺体となって帝都のそこに溜まってゆく。


「殺せ殺せっ!奴らは人ではない!テニーニャ人でもないっ!悪魔だ!悪魔だっっ!!!」


陸軍兵士が高らかに叫ぶ。

帝都の惨劇が蜂起の激しさをかき消すかのように上書きされていく。


その様子を参謀総長は静かに柔らかな椅子に足を組んで座っていた。


そばにいるルミノスに申し訳無さそうに謝る。


「ルミノス、すまなかったな。

お前がせっかく扇動した暴徒がこうも消されてしまうとは思っていなかった。 

お前の功績を無碍にしてしまってすまない」


ルミノスは否定するように手を振り、参謀総長の謝罪を聞き入れる。


「いえいえ…わたくしは参謀総長殿の計画に少しでも加担できていたならそれでいいんです。

…それにっ…まだ計画が中止になったわけではないですから、この失敗を次に活かしましょう」


参謀総長はその言葉を聞いて安心したように言葉を交わす。


「…豚にしてはいいこと言うじゃないか、だが私は失敗は死だと思って行動している。

今回は失敗ではなく妥協だ。

あの老害《クソカス》共を駆逐すべく、そしてこのロディーヤを真の私の楽園へすべく。

私は真実を否定して真実を受け入れよう、たとえそれがいかに醜く脆いものだったとしても」


ルミノスが胸の前で手を組み、目を潤わす。

その姿はまるで眉唾の教祖に洗脳されたカルト信者のようだった。


「参謀総長殿…っ!私は信じていますっ!敗戦の先に…っ!強固な精神が培われ偉大な楽園へと生まれ変われるということをっ!

敗北こそが最大の勝利だということをっ!!」


その言葉に教祖が答える。


「この戦争で死ぬのは脆いものだけだ。

貧弱な思想、軟弱な精神、不景気、欺瞞の歴史…そして皇帝。

すべてが敗戦で生まれ変わる、そしてその楽園の支配者となるのは私だ」


参謀総長の目は窓を見ていた。 

窓の先には暴徒であるテニーニャ人が次々と撃たれ、死屍累々の地獄となっていた。


参謀総長が口唇を謀略に任せて滑らせた。


「ルミノス、さっき失敗ではなく妥協と言ったな」

「は、はい…?」


参謀総長が白い歯を見せながら笑う。

総長の笑みはガラス窓に反射して、後ろに立っていたルミノスにもはっきりとわかった。


その姿は天使のような笑みにも、悪魔のような笑みにも似ていたような感じだ。


「撤回だ、この勝負は痛み分けだ。

このままやられっぱなしともいかないしな」


ルミノスの不安そうだった顔に光が宿る。


「で、では…っ!」


「計《や》れ、審判《ジャッジメント》だ。

被告《やつら》は公平の天秤へと足を乗せた、あとは判事《きみ》が罰を下すのみだ」


ルミノスは軍服の内側から二本のサーベルを取り出す。


「総長殿っ!ガラス代はあとで支払います!」


そう言うと両手にサーベルを持ったまま勢いよく走り出しそのまま窓を割って飛び降りた。


突然の出来事に、帝国陸軍の銃撃が止む。


「だっ!誰だ貴様っ!そのサーベルは何だっ!ロディーヤの軍服を着たって騙されないぞっ!」


しばらくその場に片膝立ちでかがんでいたが、ゆっくりと立ち上がるとサーベル同士を研ぎ合わせながら縦横に十字に構える。

研ぎ合わた不気味な金属音が辺りに鳴り響く。


「泥臭い闘争を、泥下に咲いて栄光を

貴様らは花のようにではなく豚のように死ぬのだ」


すかさず陸軍兵が銃口を向ける。


「一体何のつもりだ?貴様みたいなやつは陸軍にいないぞ!

見敵必殺っ!撃てぇぇッッッ!!!!!」


兵士が横に並んで短機関銃をルミノスに向けて乱 射した。


ルミノスもサーベルを一心不乱に振り回しその弾丸を切断ではなく粉々に破壊する。


キラキラと銀色の破片が襲いかかる。

砕けた弾丸の破片は威力を衰えさせることなく、ルミノスの頬に小さな赤いかすり傷をつけていく。



カチャ、カチャ…


引き金を引いてももう機関銃が火花を散らすことはなかった。

ついに短機関銃の弾が尽きたのだ。


ルミノスがこの機を逃すまいと石畳を蹴って勢いよく兵士の群れに切り込む。


そして逆手に持ったサーベルを一人の首元へ素早く刺し立てて横に裂く。


「首根っこがツルツルだぞ糞餓鬼」


兵士の無惨な首がごろりと落ちる。

あまりのスピードに周りの兵士たちも呆気にとられていた。


ルミノスが色気のある表情で刃に付いた血を舐めとる。


「来やがれ雑ァー魚、その弱腰オシャカにしてやるよ」




その一部始終を参謀総長は割られた窓から眺めていた。


辺りに兵士の阿鼻叫喚が反響する。

地獄の底で責め苦に遭う罪人のような叫び声が。


それを聞いていた総長が静かにつぶやく。


「さて、皇帝陛下に奏上しなくてはなぁ、帝国陸軍でも手に負えないほどの強力なテニーニャの暴徒がいました、っと」



都に築き上げた屍の山に、ルミノスは立っていた。


背景の巨大な月が、血まみれのルミノスを背後から照らしている。

その仄かな月光がサーベルを持った人狼の笑顔をゆっくりと浮かび上がらせた。


「絞首完了、お縄が首に掛かったな罪人《ハングドマン》共」

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