私にも王子様が現れました【前編】~メルダシア視点~
メルダシア視点です。
悲しめのお話になってます。
よろしくお願いしますm(__)m
私の名前は、メルダシア・ツゥエル・ケーリッヒ。ケーリッヒ王国の第17王女として生れた。王女と聞けば響きは良いが、私のお母様は元メイド。
そのせいで他の兄弟姉妹からは、嫌がらせを受ける事も多い。ちなみに一応王女という事で、子供の頃は王女としてのマナーや教養を、みっちりと勉強させられた。
と言っても、私は基本的に学ぶことが好きだ。だからマナーや教養のお勉強は、私にとって楽しい時間でしかない。
幸いマナーの先生にも
「メルダシア様は本当に物覚えが良くて素晴らしいわ。この調子で頑張ってくださいね」
そう言って褒められることも多い。でも、私が褒められることが気に入らないお兄様やお姉様たち。
「メルダシア、ちょっと褒められたからと言って、調子に乗らないでくれる。たかがメイドの子供の分際で、図々しいのだから」
「お前見ているとムカつくんだよな、あっちに行けよ」
そう言って、叩かれたり蹴られたりする事もあった。時には暗い部屋に閉じ込められたり、階段から突き落とされたりもした。
ダンスパーティーやお茶会に参加すれば、貴族たちに
「あなたの母親ってメイドなのでしょう?陛下に色目を使ったって、お母様が言っていたわ。ふしだらが移るから近づかないで」
「お前みたいなメイドの子供でも王女になれるなんて、羨ましい限りだな」
と、暴言を吐かれた。死角になる場所に連れて行かれて、暴力を受けたり、池に落とされたこともあった。
それでも大好きなお母様と一緒に生活できる事を思えば、特に問題はない。
でも、お母様の方も王妃様や側妃から嫌がらせを受けている。この前なんか、ダンスパーティーに参加する為に準備していたドレスをビリビリにされたのだ。
さらに
「さすがメイド上がりね。こんな事も知らないなんて。本当に恥ずかしい女ね」
「男をたぶらかす事だけは一人前なのだから。本当に卑しい女」
そう言ってあざ笑っていた。足を引っ掛けて転ばされて怪我をする事もあったお母様。
それでも、どんなに辛くてもいつも笑顔のお母様。そんなお母様の口癖は
「メルダシア、あなたには辛い思いをさせてしまってごめんなさい。でもきっと、あなたを心から愛してくれる王子様が現れるわ。だから、どんなに辛くても笑顔でいなさい」
だった。
そんな私たちに、さらに追い打ちをかける出来事が起きた。王妃様や側妃たちから、“私達親子を王宮に置いておかないで欲しい”と言う要望を聞き入れたお父様でもある国王によって、私たちは王宮の外れにある、オンボロの塔へと移り住む事が決まった。
ここはかつて、罪を犯した王族が幽閉されていた場所だと聞いている。
「お母様、ここで暮らすの?なんだか不気味ね」
「メルダシア、住めば都よ。それに、ここなら私たちに意地悪する人たちもいないし、きっと快適に暮らせるわ」
そう言ってにっこり笑ったお母様。お母様の言う通り、ここでは嫌がらせをする人たちは居ない。ある意味快適だ。ただ、メイドも料理人もいない為、自分たちの事は全て自分たちでしなければいけない。
食糧を調達するために、何度も調理場に頭を下げに行くお母様。私も一緒に頭を下げて、食べ物を分けてもらう。
それでも、王宮での暮らしよりずっといい。そう思っていたのだが…
私達が楽しく過ごしている事を聞きつけた王族や貴族たちが、わざわざ嫌がらせをしにやって来る様になった。
暴言を吐くだけならいいのだけれど、せっかく洗濯したシーツや洋服を切り刻まれたり、やっと手に入れた食糧を捨てられたりもした。
そんなある日、お母様がある貴族に水を掛けられた。この時期はとても冷える。急いで着替えたのだが、元々体が弱いうえ、数々の嫌がらせで参ってしまっていたお母様は、翌日高熱を出した。
私は必死に看病したが、日に日に弱っていくお母様。なんとかお母様を助けたくて、王宮に行って医者を呼んで欲しいと頼んだが、聞き入れては貰えなかった。
「メルダシア、私のせいで、あなたにまで辛い思いをさせてしまってごめんなさい…でもね、あなたにもきっと、心から愛してくれる王子様が現れるはずよ…だから…どんなに辛くても、笑顔を忘れないで…」
そう言い残し、お母様は息を引き取った。私が8歳の時だった。
お母様を失った私は、ついに1人ぼっちになってしまった。でも、お母様の最後の言葉、“笑顔を忘れないで”を守る為、どんなに辛くても笑顔を心がけた。
お母様が亡くなった事で大人たちの嫌がらせは収まったものの、相変わらずお兄様やお姉様、さらに貴族の子供たちの嫌がらせは続いた。それでもなるべく笑顔で過ごした。
正直、お母様が言っていた王子様は現れないだろう。それでも笑顔でいれば、天国のお母様が喜んでくれる気がしていたからだ。
そして月日は流れ、16歳になった。
さすがに私への嫌がらせも飽きたのか、最近ではわざわざ嫌がらせをしに来る人たちも少なくなった。そして私は、たくさんの動物たちと仲良くなった。
正直人間なんて信じられない。でも、この子達なら信じられるわ。
言葉は通じないが、私を見て近づいて来てくれる動物たち。
そんなある日、1匹の子犬が迷い込んできた。どうやらかなりお腹がすいている様で、急いでご飯をあげた。
「ねえ、あなた、家族はどうしたの?」
私の問いかけに、尻尾を振って飛びついて来る子犬。
「もしかして、私と一緒で家族がいないの?それなら、私の家族になってくれる?」
きっと私の言っている言葉なんてわからないだろう。それでも、どうしても話しかけたくなったのだ。
すると
「キャンキャン」
吠えて答えてくれた上、顔を舐めて来たのだ。
「ありがとう、じゃあ、今日からあなたは私の家族ね。名前は…ネロ。ネロにしましょう。よろしくね、ネロ」
こうしてネロとの生活が始まった。お母様が亡くなってからずっと1人だった。でも、もうネロが居るから寂しくないわ。ネロとの生活は本当に楽しかった。
ネロは人懐っこくて、賢い。そんなネロとの生活を始めて半年、急にネロが吠えた。
あまり吠えないネロが吠えるなんて。急いでネロの元へと向かうと、金色の髪をした美しい男性が、ネロを抱きかかえていた。
見た感じ、高貴な貴族の様だ。きっと私に嫌がらせをしに来たのだわ。
そう思い
「こらネロ。ダメよ。ごめんなさい、どうかお許しください。この子を殺さないで!」
そう言って必死に頭を下げた。お願い、やっと手に入れた私の大切な家族を殺さないで!そう思ったのだが…
「別に僕はこの犬に何かしようとは思っていないよ。それにしても、人懐っこい犬だね」
そう言って嬉しそうにネロの頭を撫でる男性。この人は、一体誰なのだろう。話を聞くと、隣国のアイランド王国から来たお客様で、グレイソン様と言うようだ。
アイランド王国と言えば、ケーリッヒ王国とは比べ物にならない程の大国だ。そんな人が、どうしてここに居るのだろう。
そう思いながらも、優しい雰囲気のグレイソン様にすっかり心を許してしまった。グレイソン様は本当に優しく、私が冷遇されていると知って、物凄く怒っていた。私の為に怒ってくれるなんて…
なんだか胸の奥が温かくなった。それから毎日私の元を訪ねて来るグレイソン様。私が作った簡単なサンドウィッチを美味しいと言って食べてくれたり、ネロと遊んだり、洗濯物を干すのを手伝ってくれたりもした。
いつの間にか、グレイソン様が来るのを待ちわびるようになっていた。
そんなある日
「ねえ、メルダシア。君さえよければ、僕の国に来ないかい?」
グレイソン様が急に突拍子もない事を言って来た。正直、グレイソン様と一緒に居られたら、どんなに素敵だろう!そう思ったのだが、私の様な人間が付いて行っても迷惑を掛けるだけだろう。
そう思い
「素敵なお誘いですが、申し訳ございません」
そう言って断ってしまった。
私の言葉を聞き、用事があると言って帰ってしまったグレイソン様。
私、どうやら嫌われてしまったわね…
私の隣で首を傾げるネロを抱きかかえた。
「ネロ、私にはあなたが居れば十分よ」
私の言葉を聞き、顔をペロペロ舐めて来るネロ。でも、私の心は…
目からとめどなく溢れる涙を、どうしても止める事が出来ずに、1人静かに息を殺して泣いたのであった。




