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好きな人の恋人役になったらいつの間にか囚われていました  作者: Karamimi
本編

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49/88

1日早いですが隣国に向かいます

ディラン様が帰った後、どれくらいこうしていただろう。何度も唇を触り、ディラン様の温もりが蘇って来ては顔を赤くする。


一体何をしているのだろう。

いけない、もうこんな時間だわ。夕食の支度を手伝わないと!急いで厨房に向かい、お母様やメイドと一緒に晩ご飯の準備をする。


家族で食事を楽しんだ後、急にお父様が話しかけて来た。


「アンネリカ、話があるんだがいいか?」


珍しく真剣な顔のお父様。どうしたのかしら?


「実は、隣国の大富豪が明後日にはアンネリカをよこせと言っていてね。1日早いが、明日隣国に向かってくれるかい?」


私が嫁ぐ予定の隣国は、海を挟んだ向こう側にある。その為、夕方の船に乗り込み、夜のうちに海を渡り明け方隣国に着くのだ。明後日に隣国に着く為には、明日には出発しないと間に合わない。


「あなた、どういう事ですか?話が違うでしょう?それじゃあ、アンネリカが卒業式に出られないわ」


お母様がお父様に詰め寄る。珍しく困り顔のお父様。昨日(正確には今日だが)お母様から離縁を突き付けられた事もあり、どうやら強く出られないようだ。


「元々明日の卒業式には欠席しようと思っていたので、大丈夫ですわ。ただ、最後にイザベラにだけは挨拶をしたいの。だから明日の朝、イザベラの家に寄ってもらえるかしら?」


大切な親友、イザベラに黙って旅立つなんて出来ない。せめて最後の挨拶くらいはしたい。


「もちろんだよ。イザベラ嬢には本当にお世話になったからね。明日の朝、寄って行こう」


「ありがとう、お父様」


明日隣国に旅立つのであれば、急いで準備をしなければいけない。部屋に戻ると、大きめのスーツケースを取り出す。


スーツケースに洋服を詰め込んでいく。ディラン様の領地から帰ってきたときに着ていた服も、こっそり詰め込んだ。他にも、ディラン様から初めて貰ったハンドクリーム、初めて2人でお出かけした時に買ってもらったネックレスなど、1つずつ大切にスーツケースに詰めていく。


そうそう、イザベラと一緒に書いてもらった2人の似顔絵も忘れたら大変ね。お気に入りの本とかも持って行きたいが、さすがに重いので諦めよう。


ひと通り詰め終わると、部屋を見渡した。生まれた時からずっと生活していたこの部屋とも、明日でお別れだ。せっかくなら奇麗にしてこの部屋を出たい。そう思い、雑巾とほうきを持ってきて掃除をする。


少し時間が掛かってしまったが、ある程度奇麗になった。


コンコン

「アンネリカ、せっかくだから、最後に家族でお茶でも飲みましょう」


お母様に誘われ、居間に行く。そこにはお父様とお兄様も待っていた。こんな風に家族でお茶を飲むのもこれで最後だろう。そう思うと、胸に込み上げるものがある。最後の一家団欒を楽しんだ後は、湯あみをしてベッドに入った。



このベッドで眠るのも最後ね。そう言えば、明後日は私の17歳の誕生日だわ。でもきっと祝っては貰えないだろう。それどころか、知らない人の中で1人寂しく過ごしているかもしれない。


隣国は一夫多妻制だ。私は第4夫人として迎え入れられる予定。他の夫人たちと、うまくやって行けるかしら?それに、今まで美しいディラン様をずっと見て来たから、20歳も年の離れたおじさんを、受け入れられるかしら?


色々考えていると、なんだか物凄く悲しくなってきた。瞳から大粒の涙がポロポロと流れる。泣いたって仕方がないと分かっているが、どうしても涙が止まらないのだ。


私はベッドの中で、1人声を殺して泣き続けた。



翌朝。

いつの間にか眠っていた様だ。


何気なくクローゼットを開け、制服を手に取る。エメラルドのブローチ。ディラン様に返せなかったわ。イザベラに頼もうかしら?でも、ディラン様にとってはもう要らないものよね。


もう一度クローゼットに制服を掛けなおし、ドアを閉めた。ワンピースに着替え、髪をセットする。そうだわ、お守り。ディラン様の家の領地で買った、恋愛成就のお守りと取り出す。このお守りのおかげで、きっと最後までディラン様の恋人役が出来たのね。ありがとう、お守りさん!


心の中でお礼を言い、そっとポケットに入れる。準備が出来たら、朝食を食べる為食堂へと向かった。これが家族で食べる最後の食事だ。


「アンネリカ、悪いが港までは汽車で行ってくれるかい?駅までは馬車で送るから」


珍しくお父様が申し訳なさそうにそう言った。


「駅までで十分です。ありがとう、お父様」


私の言葉を聞き、安心した表情のお父様。いつも笑顔のお母様も、今日は暗い顔をしている。


食事が終わると荷物を馬車に積みこむ。16年住み慣れた家を今日離れる。もう二度とここには戻って来られないかもしれない。そう思うと、どうしても目に焼きつけたくて、我が家をじっと見つめた。


「さあ、アンネリカ。そろそろ行こう。イザベラ嬢に挨拶もするのだろう?」


お父様と一緒に、馬車に乗り込む。お母様とお兄様も一緒に付いて来てくれる様だ。わざわざ私の為に、使用人たち(と言っても3人だが)が見送りに来てくれている。


「皆、見送りありがとう。行って来るわね」


出来るだけ元気に使用人たちに挨拶をする。マルタが泣き出してしまったが、見ないようにしよう。私まで泣いてしまうわ。


馬車がゆっくりと進みだした。そう言えば、こんなふうに4人で馬車に乗るなんて、いつぶりかしら。そう思いながら、馬車に揺られる。家からイザベラの家までは、馬車で3分。あっという間に着いた。



私だけ馬車を降り、イザベラの家に向かう。急に来た私に困惑しながらも、門番が急いでイザベラを呼んできてくれた。



「アンネリカ、どうしたの?何かあった?」


不安げな顔のイザベラ。


「実は、急遽今日、隣国に向かう事になったの。それでね。イザベラにお別れを言いに来たのよ。今まで私の友達でいてくれてありがとう。イザベラには本当に感謝しているわ」


「アンネリカ。そんな…」


そう言うと、泣き出してしまったイザベラ。その涙を見て、私の目からも涙が溢れる。


「ごめんね、イザベラ。もっとちゃんとお別れしたかったのに」


「アンネリカ、やっぱり行ってしまうのね…。私達離れてもずっと友達よ」


「もちろんよ、ずっと友達。このブレスレットもずっと付けているからね」


イザベラと最後にお出掛けした時に買ったブレスレット。今も私の腕に付いている。


「ねえ、ディラン様にはお別れを言ったの?」


「いいえ、急遽決まったから、言っていないわ。どの道契約は今日までだから、問題ないわ」


きっとディラン様の顔を見たら、今みたいに大泣きしてしまうだろう。それに今のディラン様はきっと、カサンドラ様との未来に胸躍らせている事だろう。わざわざ水を差すような事はしたくない。


「そうなのね。アンネリカがそれでいいなら、私は何も言わないわ」


イザベラはいつも私の気持ちに寄り添ってくれる。本当に最高の友人だ。


「ありがとう、イザベラ。それじゃあ、もう行くわね」


イザベラに別れを告げ、再び馬車へと乗り込む。

イザベラ、さようなら。そしてありがとう。



馬車に揺られる事1時間、ついに駅に着いた。


「アンネリカ、あなたを隣国に嫁がせなければいけなくなって、本当にごめんなさい。どうか元気でね」


泣きながら抱きしめてくれるお母様。


「大丈夫よ。うまくやって行くわ。お母様も元気でね」


「アンネリカ、いつになるか分からないが、一生懸命働いて必ず俺がお前を解放してやるから、それまで何とか頑張ってくれ」


「ありがとう、お兄様。お兄様の活躍、隣国から祈っているわ」


お兄様にも抱きしめられる。ふとお父様の方を見ると、俯いたまま何も話さない。そんなお父様の側に行き、ギューッと抱き着いた。


「お父様、行って来るわ。あまりお母様とお兄様を困らせてはダメよ」


「アンネリカ、すまん…」


泣きそうな顔のお父様。こんな顔のお父様は初めて見た。


「それじゃあ、行って来るわね」


家族に手を振り、汽車へと乗り込む。王都ともこれでお別れだ。ディラン様、1年間幸せな思い出をたくさん作ってくれて、ありがとうございました。


もう二度と会えないけれど、あなたとの思い出を胸に、私は生きていきます。どうか、カサンドラ様と幸せになってください。


懐かしい王都の景色を窓から眺めながら、ディランに感謝の気持ちを心の中で呟くアンネリカであった。


次回ディラン視点です。

よろしくお願いいたしますm(__)m

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