久しぶりの学院はやっぱり楽しいです
公爵領から帰った翌日、いつも通りパチリと目を覚ますと、いつもの様に厨房へ向かいお弁当を作る。公爵領に居た時は、自分1人で一度も起きられなかったから心配していたが、何とか1人で起きられてホッとした。
自室に戻り、制服に袖を通す。制服を着るのも1ヶ月ぶりだ。なんだか本当に久しぶりな感じがする。髪にたっぷり香油を塗る。この香油、公爵領に居た時に使っていたもので、物凄く髪がサラサラになるのだ。おまけにいい匂いがする。
もちろんこの香油も、ディラン様がくれたものだ。この1ヶ月で私の髪は完全に美しいピンク色に戻った。サラサラの髪をハーフアップに結び、これまたお土産で買った髪留めを付ければ完成だ。
そうそう、公爵家で私の為に準備された洋服や宝石だが、帰りに着ていた服とアクセサリー以外は全て受け取らずにお返しした。最初は使って欲しいと言われたが、さすがに高価すぎてもらえないと伝えると、しばらく考え込んだ後、了承してくれたのだ。
おっと、もうこんな時間だわ。そろそろ玄関先に出ておかないとね。お弁当もお土産も持ったし、忘れ物は無いわね。急いで玄関を出ると、ちょうど公爵家の馬車が入ってきたところだった。
「アンネリカ、おはよう!会いたかったよ」
馬車から降りるや否や、熱烈な抱擁を受けた。ギューギュー抱きしめられるので、さすがに苦しい。
「ディラン様、おはようございます。苦しいので、少し緩めて頂けますか?」
「ごめんね、1ヶ月間ずっと一緒だったから昨日は寂しくてね」
今日も朝から演技に熱が入っているわね。でもここは伯爵家。奥の方でお母様がニヤニヤしながら見ているわ。
「ディラン様、学院に遅れてしまいます。さあ、馬車に乗りましょう」
頬ずりを始めたディラン様を軽く引き離し、馬車へと押し込んだ。すかさず膝の上に乗せられたが、学院まで馬車で10分たらず。まあ、いいだろう。
そう思っていたのだが、なぜか馬車の中でずっと頬ずりしたり頬に口付けをしたり、耳をかじってみたりとやりたい放題のディラン様。この光景、領地に行く馬車の中でもあったな。そう思いながらも、一応注意してみた。
「ディラン様、少し演技に熱が入りすぎですよ」
私の注意など全く聞いていないのか、一向に止める気配がない。何だかんだであっという間に学院に着いてしまった。
既にぐったりしている私を嬉しそうにエスコートするディラン様。一般クラスまでしっかり送り届けてくれた。
「おはよう、アンネリカ。あなた随分奇麗になったわね。髪もサラサラだし。まるで別人みたいよ。それで、公爵領はどうだった?楽しかった?」
「おはよう、イザベラ。ええ、とても楽しかったわ。異国の文化を存分の取り入れた観光地だったのよ。そうだわ!これ、あなたへのお土産」
「まあ、こんなに沢山もらっていいの?ありがとう」
イザベラにお土産を渡していると、後ろからアンドレが声を掛けて来た。
「アンネリカ、俺には土産無いのかよ!」
「あるわよ、はい」
アンドレにもお土産の入った袋を渡した。
「こんなに貰っていいのか?何だこれ。変なタオルが入っているぞ」
アンドレが取り出したのは、美しい浴衣を来た黒髪の女性が描かれたタオルだ。ディラン様のおじい様が魅了された国の人は、皆黒髪に黒目らしい。その国の女性が描かれたタオルで、お土産としても人気だとディラン様が言っていた。
「あら、女好きのアンドレにはピッタリのお土産じゃない。それにしても、黒髪って珍しいわね。それも見た事がない服をているし」
アンドレからタオルを奪い取ったイザベラが不思議そうに見ている。
「その女性は異国の女性がモデルで、衣装もその国の物を描いたのですって。ディラン様の領地は本当に異国みたいで凄いのよ。機会があったらぜひ観光に行ってみて」
その後もイザベラとアンドレと3人で、半期休みの話をしていたところで授業が始まってしまった。まだまだ話したりないが仕方ない。
そしてお昼休み。久しぶりに学院の中庭でディラン様と一緒に昼食を食べる。
「やっぱりアンネリカの作るお弁当が一番美味しいよ」
ニコニコ顔で、私の作ったお弁当を頬張るディラン様。
ちなみに私が食べるお弁当は、公爵家の料理人が手塩に掛けて作ったお弁当だ。あら?今日は見た事のないお弁当ね。
「ディラン様、今日のお弁当はとても変わっていますわね」
「これは全部異国のお弁当だよ。おにぎり・魚の味噌煮・だし巻き卵・すき焼きだ。アンネリカが食べたがっていたからね。そうだ、俺が食べさせてあげるよ」
それは大丈夫です!と言おうと思ったのだが、時すでに遅し。ディラン様におにぎりを口に入れられてしまった。
周りからは、久しぶりに騒めきの声が聞こえる。私たちのラブラブ度、パワーアップしているものね。
結局ディラン様にお弁当を食べさせてもらったのだが、領地ではよくやっていた事なので、もう恥ずかしいなんて感情は無くなってしまった。
そして放課後はディラン様とのティータイムをお断りして、久しぶりにイザベラとアンドレと3人で学院内の中庭でティータイムを楽しむ。
1ヶ月も別々に過ごしていたので、積もる話があるのだ。2人とも学院を卒業したらお別れだから、こういった時間もとても大切なのだ。
「これ、私から2人にお土産よ。家の領地で取れた小麦をたっぷり使ったクッキーなの」
「おれは領地で取れたジャムの詰め合わせだ。こっちが苺でこっちがブルーベリー。パンに付けるとうまいぞ」
「2人共ありがとう」
お土産を貰った後は、それぞれこの1ヶ月間何をしていたのかを話した。イザベラは婚約者のグレイル様を連れて、親戚や領地に居る祖父母に挨拶をしたそうだ。アンドレは大好きな絵を描いて過ごしたみたい。
絵の才能があるアンドレは、スリーフェム王国にある絵を専門に勉強する学校に行きたかったのだが、お金の関係で諦めたのだ。比較的裕福な子爵家の次男だが、さすがに絵の名門に入れられるほどのお金を準備できなかったみたい。
私も2人に温泉や浴衣、異国の食べ物の話、さらにディラン様の従兄弟が来た事などを話した。
「アンネリカは随分と楽しんだみたいね。ねえ、ディラン様の従兄弟って超絶美青年のライト様でしょう?一度見た事あるけれど、この世のものとは思えない程美しかったわ」
イザベラがうっとりとした顔をしている。そんなに格好よかったかしら。私には、ただの変な人って言う印象しかないわ。
「そんな事より、随分話し込んじまったな。そろそろ日も暮れるし帰ろうぜ」
アンドレの言う通り、もう日が沈みかかっている。さすがにもう帰らないとね。
3人で話をしながら校門を目指す。
「今日は俺の馬車に乗って行けよ。俺の家の方がイザベラの家より近いだろう?」
「大丈夫よ。久しぶりだし、歩いて帰るわ」
「何言っているのよ!変な男に絡まれた事を忘れたの?アンドレの馬車が嫌なら私が送って行くわ」
そんな会話をしていた時だった。
「アンネリカ、友人たちとの話は終わったみたいだね。さあ、帰ろうか」
声を掛けてきたのはディラン様だ。まさか、私を待っていてくれたの?イザベラもアンドレもびっくりして目を丸くしている。
「ディラン様、まさか待って居てくれたのですか?」
「そうだよ。君1人で帰らせられないからね。さあ、馬車に乗って」
戸惑う私の背中に手を回すと、そのまま馬車に誘導したディラン様。
「イザベラ、アンドレ。また明日ね」
「「また明日」」
取りあえず2人に挨拶をして、そのまま馬車へと乗り込んだ。やっぱり当たり前のように膝に座らされる。
「あの、ディラン様。今日はお待たせして申し訳ありませんでした。次回から、友人に送ってもらいますので、私が遅くなる時は先にお帰り下さい」
こんな風に待っていられると、ゆっくりおしゃべりも出来ないものね。
「それは出来ないな。アンネリカは俺の大切な恋人だ。君を置いてなんて帰れないよ。これからも君の予定がある時は、何時間でも待っているよ」
「私はディラン様の、恋人役です。さすがにそれは申し訳…」
申し訳ないと言おうとしたところで、手を口で塞がれてしまった。
「アンネリカ、申し訳ないは言わない約束だよね。約束が守れないなら、何か罰を与えることにしようか?何がいいかな?」
クスクス笑いながら耳元で呟くディラン様。罰って…
今日のディラン様、なんだか怒っているみたい。長時間待たせてしまったら、機嫌を損ねてしまったのかしら。それなら、さっさと帰ってくれてもいいのだけれどな。とりあえず、謝っておいた方がいい気がするわ。
「ディラン様、ごめんなさい。次からは気を付けます。罰は無しでお願いします。今日は待っていてくれてありがとうございました」
とにかく私の事を待っていてくれたのは事実なので、お礼だけは言っておいた。
「そうかい?でも、もし次申し訳ないと言ったら、その時は何か考えるからね」
後ろからギューギュー抱きしめられる。
今後はディラン様を長時間待たせる訳には行かない。次からはイザベラかアンドレの家に行くか、うちに来てもらって話をする事にしよう。
あと、申し訳ないと言わない様にしないと、このままいけば何らかの罰が与えられそうね…
もしかして、罰金とか!無理よ、絶対払えないわ!とにかく、申し訳ないは禁句ね!
相変わらずディランの気持ちなど、これっぽっちも気づいていないアンネリカであった。
相変わらず鈍いアンネリカです。
今日はもう1話、ディラン編を更新予定です!
よろしくお願いしますm(_ _)m




