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最終話・これは……あれじゃなかった

あの騒動から数日後、私はアル様達と学園の中庭でお昼の後のお茶をしていた。


皆とお茶をするのは本当に久しぶりで、嬉しさのあまり今日のお茶菓子はかなり奮発してしまった。

たぶん気付いているのは、隣で顔を綻ばせているティフアくらいだと思うけれど。


あの日近衛騎士に連行されたリリーナ嬢が告げた犯行方法は驚愕の内容だった。

件の薬を手に入れたリリーナ嬢は、まず手始めに自身の手足となる駒を手に入れる為、その薬を食堂の作りかけのスープに大量投入したらしいのだ。

正直これを聞いた時には血の気が引いた。

本当に魅了の薬かどうかも定かでは無いものを沢山の生徒が食べる食事に混入するなど、それがもしも毒薬だったらどうするつもりだったのか。

まあ、幸か不幸かその薬は本当に魅了の薬で、結果多く食堂を利用する下級から中級の貴族ほど、彼女の術中にはまってしまったわけだけれど。


その後は自分に忠実な男性達を使って、目当ての上級貴族またはその縁者などを狙い、開いたお茶会で薬を飲ませ徐々に虜にして行くという手段を使っていたらしい。

カイルが妙な味がしたといったお茶もきっとこれで、珍しいフレーバーとでも言って誤魔化していたのだろう。

アル様が途中違和感に気付いたのは、紅茶に混入する際はスープに比べ味が誤魔化せないので、少しずつ時間を掛けて混入させた結果、精神操作と理性の狭間に居る状態だったからのようだ。


「しかし、やっと爆薬の意味が分かったよ……あれを王宮でやらなくて本当に良かった」


アル様が溜め息混じりに呟く。

私も昨日学食で見た光景は暫く忘れられそうに無い。

件の薬を飲んだ人数があまりにも多いので、リリーナ嬢の方法を逆手にとって私達も薬を学食に混入させてもらった。

しかし問題はショックの与え方である。

団長さんにお任せしていたのに、どこをどう話し合った結果なのか、ユーリが裏庭で大爆発を起こさせたのだ。

勿論あまりに衝撃的な光景に皆唖然として、一瞬で目が覚めましたよ……

けれどその代償は大きく、現在裏庭は工事中である。


「結局、あの男爵令嬢はどうしてこんな暴挙に出ましたの?」


一口サイズのイチゴのタルトを自分のお皿に移しながら、ティファが誰ともなしに尋ねる。


聞けば聞くほど大胆で、普通考えても実行できるような内容とは思えない。

どこかで失敗すれば間違いなく自身も家族も危うい賭けのようなものだ。

綱渡りとも言えるこの行動は、ティファの言う通り暴挙と呼ぶに相応しいと思う。


「尋問した騎士によると、何でも自分はヒロインだから皆に愛されて当たり前などと言ってるそうです」


ルイスが眉間に皺を寄せ苦虫を噛み潰したような顔で答える。

やはり彼女は転生者で、ヒロインだったのか……

それでも、ヒロインなら自力で攻略すれば良かったのでは無いだろうか?

こんな薬に頼らなくてもどうにでもなるはずだと首を傾げていたら、思いも寄らない一言が追加された。


「学園に桜が咲くなんて、ゲーム以外に有り得ないとか良く分からない妄言を繰り返しているので、一向に話が進まないそうです」


ちょっと待って……


『サクラガサク?』


まさかと思うけど、リリーナ嬢はこれがなんのゲームか分かっててやった訳じゃ無い……とか?

あの樹見て『男爵家に引き取られた平民なんて、乙女ゲームのヒロイン以外無い!』なんて思った訳じゃないわよね?


今私の顔はきっと青を通り越して真っ白になっていると思う。

その思い込みには私も覚えがある、だけどそれは隣国の転生宰相のせいで……


「ルイス……」


震えそうになる声を何とか抑える。


「あの樹……たしかローズレースでしたっけ?陛下が植えたと言ってたわね……」


私のただならぬ様子を皆不思議そうにしながらも、黙って話を聞いている。

ルイスは一つ頷くと、横目でローズレースの樹を一瞥しもう一度私を見て不思議そうに首を傾げた。


「はい、そう言えば義姉さんもあの樹を気にしていましたね」


気にしていたとも、転生者なら皆あれが気になるだろう。

私は薄っすらと笑みを浮かべながら尋ねた。


「あれ、全部伐採するにはどうしたらいい?」


私の言葉に皆目を丸くして硬直した。

分かってる陛下の意向で植えた樹を伐採するなど不敬罪にもなりかねない。

だがしかし、私は切らねばならない!何としてもあの樹を切らなければ、第二・第三のリリーナ嬢が生まれる前に、なんとしても!!


「この際魔力暴走と見せかけて全部焼き払えば良いかしら?」


数日、本性のほうのユーリと関わっていたから、思考がどうにも過激よりになる。


「何らかの有害物質が検出されたとなれば……ずべて撤去する事になるのでは無いでしょうか?」


暫く思案していたルイスが、不意に悪い顔をして提案してくる。


「もっと問題なく撤去できる方法があるよ」


二人して若干悪い顔して微笑んでいると、笑顔のアル様が参戦してきた。


「どんな方法ですか!?」


問題なく撤去できると聞いて、私は目を輝かせた。

無理なら力技も問わないけれど、出来るものなら私だって罪に問われない方法で伐採したい。

すると、アル様は満面の笑みで答えてくれた……予想外の方法を……


「リディが王妃になって命令すれば、すぐ撤去できるよ」


良い顔で笑っているアル様以外、全員が一瞬硬直した。

今なんて仰いました?


「どさくさに紛れて何言い出してるのさ!そんなの却下に決まってるだろう!!」


「そうですわ!大体リディは我が国に来ると決まってますのよ!!」


一番最初に現実に帰ってきて、真っ赤な顔で叫んだのはダリル殿下だった。

そしてそれに追従するように、ティファが叫ぶ。

しかし、その叫びは今度はアル様も含め全員を硬直させた。


「丁度良かった、今日やっと国から釣書が届きましたのよ。私も認める見た目も地位もリディに相応しい男となると、今の所五人しか見つけられなくて……絵姿もついてますからちょっと目を通してみません?」


満面の笑みを向けて来るティファに、最初に我に返ったのは私だった。


「えっ!あれあの場限りの嘘だったんじゃないの!?」


目を見開くなんてものじゃない、目玉が飛び出るような驚きだった。

あの後お父様からもルイスからもそんな話聞かなかったから、冗談なんだと思ってたのに。

ちらりと斜め横を見てみるとルイスも似たような顔をしていたので、どうやら初耳のようだ。


「私は嘘など言いませんわ、色々言っておきながらこんな明日にも掌返しそうな男達にリディを任せるなんて言語道断です。私が帰る時にはリディも連れて帰ります」


そう言いながら色取り取りの釣書を目の前に並べられた。

その一つから魔力を感じて、不意に手に取ってしまった。


「あら、お目が高いですわねそちら一番のお勧めですのよ。リディと同じで魔術研究が趣味の公爵でして、話してみればきっと気が合うと思いますわ」


訪問販売員みたいな事を言いながら、ティファが楽しそうに笑う。

なんだか遊ばれているような気がしないでも無いのだけど……

しかし、魔術研究が趣味……だから魔力を感じたのか、確かに気が合いそう。

ちょっとだけ悩んだ私に気がついたのか、周りの皆が焦ったように立ち上がる。


「リディ!!隣国なんて行かなくても魔術研究は出来るんだから、無理に行く事なんて無いんだよ」


「そうですよ、どんな奴かも分からない男の所に行って、帰って来れなくなったらどうするんです」


「隣国行くくらいならうちにおいでよ、グラウンにだって魔術の研究機関くらいあるんだから!!」


「…………」


いやいや、ちょっと興味があっただけなんですよ。

そんな凄い形相で止めなくても行かないよ、まだエルクレオ様に教わってる魔道具解析の勉強だって不十分だし、クロウドに教わってる薬剤調合も始めたばかりだし。

私が苦笑いするばかりで特に何も言わないからか、なお焦りが募ったようで皆に周りを囲まれてしまった。


「でも、私の縁談がこの国で決まれば、リディを連れて行くのも無かった事になりますけれど……」


それを聞いて四人の肩が揺れる。

視線をティファに向けるとティファが悪い笑みを浮かべていた。

本当の狙いはそこか……


彼女の思惑に気がついたようで、皆一斉にティファを睨むように見ていた。

早く用件を言えと言いたい様だ。


「私今回の件で候補をお一人に絞りましたのよ……皆が混乱する中一人男爵令嬢の術中にも嵌らず、ずっと護衛して下さって。身分には多少問題がありますけれど、まあそれは我が国の地位も差し上げれば何とか補えるでしょうし……」


術に嵌らなかった?護衛?

それってあれだよね……


「近いうちに王宮で茶会でも開きましょう……今回の功労者達も呼んで」


納得したように頷いて、アル様が笑顔でティファにそう告げると、ティファが嬉しそうにドレスはどうしようとはしゃぎ出した。

ああ、うん功労者を呼んでか……やっぱりそういう事だよね。

カイル、ティファの事苦手だって言ってたような……今は言わない方が良いかな……もしかしたら嫌い嫌いも好きのうち、なんてなるかもしれないし。


一人胸の中で悩んでいると、ドレスを色違いのお揃いにしないかと言ってくるティファに顔が綻ぶ。

私としては、可愛い親友と頼りがいのある兄のような存在が幸せになるなら応援したい所だ。


はしゃぐティファにつられて笑う私を見ながら、微笑むアル様とルイス、自分に関係なかったからかお菓子を齧りながら皆を見上げて笑うダリル殿下、それを数歩下がった位置から目を細め見ているラディアス。

いつもの平和がそこにあって、これは現実で私は幸せなのだと実感した。


そうして幸せだと思えば思うほど思い出す。

思い込んでしまったがゆえに道を誤ってしまった令嬢を、それはもしかしたら私だったかもしれないという事を。


もう少しすれば、私達を悩ませたあのローズレースの咲く季節がやってくる。

すぐにあの樹を撤去する方法はまだ見つけられないけれど、せめて私は思い込む令嬢をこれ以上増やさない為にも、声を大にして言おうと思う。


『これは……ゲームなどではなかった』と。


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