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087 ダイヤモンドに目が眩み

昨日、予約設定を失念していましたので、昨日分を昨日十時頃に投稿しています。そちらから読んで頂ければ幸いです

慌てて088話を先に投稿してしまいました。086話、本話を先に読んでから088話を読んで頂ければ幸いです。なお6月20日午前9時30分時点では順序は訂正済みです。

 年が変わってもゴブリンの跳梁と獲物の減少が続いた。肉の値段が上がったので遠出をすればそれなりの収入は得られたが、ある程度の【虚空庫】持ちがいない分隊は収入の確保が難しくなり、他の都市へ拠点を変える分隊が増加してきた。


 勇人たちは彼の【亜空間庫】で獲物の保存や運搬に不安は無いものの通学しなければならないので二泊三日の狩猟しかできない。一月は前月からの繰越があるのでD級ノルマの達成は難しくないが、このままでは二月のノルマの達成が困難だと感じられるようになってきた。


「何か割の良い依頼がないかなぁ」


「そんな都合の良えもん、在るはず無かんべ」


 勇人とガブルが組合の食堂で愚痴っているときだった。ジェシーが嬉しそうに依頼ボードから引っ剥がした依頼書をヒラヒラさせながら近づいてきた。


「良い依頼を見つけた」


 ジェシーはテーブルに着くなり、手にした依頼書を叩きつけるようにテーブルに置いた。二人はそれを覗き込む。そこに記載されていたのは運搬の仕事だった。


『仕事内容 鉄木筋の受領及び運搬

 運搬品  直径二分 長さ六尺六寸の鉄木筋 一万本

 受領場所 ブルカン村

 着荷場所 ラフィアディア エラザール建築商会本店店頭渡し

 着荷期限 本年一月十八日 午後六時

 報酬   五十両

 違約金  五百両

 受任条件 容積二十一石、重量九千貫の運搬品の運搬手段を有する者

      証明は受任前に依頼者商会にて行う

 依頼者  エラザール建築商会』


「ユージンならこれくらいの運搬は軽いな」


 ジェシーはテーブルに身を乗り出して期待に満ちた目で勇人に問いかけた。


「鉄木筋って、なんなの」


「知らないの、建築に使う土壁の中に入れて土壁を補強する。高い建物を建てるとき下の階の壁に入れるのが普通だ」


 (ああ、鉄筋の鉄木バージョンか)


「壁の補強材なんだね。まあ、いけると思うけどねぇ。何か変な感じの依頼だね。ブルカン村ってどんな所なのかな」


「領都から北の山地に続く道沿いにある山人の村だべ。同族だからある程度のことは知ってるだで。ここから徒歩で朝出たら三時くらいに着けるだ。村の回りが鉄木の林で、それで色々作って生活してるだ」


「三日あったら十分に行き帰りできるんだね」


「一日余分があるから、狩りも出来る。山トカゲってD級の魔物が居るらしい。D級だからノルマには入らないけど肉も皮も高級品だから直接店に売っても良いし、組合だって買取はしてくれるはずだ。とにかく受任申し込みをして、商会で話だけでも聞いて見よう」


 自分が見つけてきた依頼だけあってジェシーは随分前のめりだ。それだけ言うとさっさと席を立って受付の方に歩き出す。二人は慌ててその後を追った。


「ユージンに親切にする義理は無いんだけど、ジェシーとガブルが可哀想だから言っておくわ。エラザールはズルをするって悪い噂があるのよ。受任を止めはしないけど気をつけてね」


 それがリオールの言葉だった。


「ありがとう。気をつける」


 ジェシーはそう言うとリオールから受任受付票を受け取って組合を出た。二人も後に続く。エラザール建築商会は東西の大通りの西門寄りにある、領都の商会として一、二を争うほどの敷地と門構えを有する店舗だった。店に入り組合の受任受付票を見せると店員はすぐに奥に入り、暫くすると見るからに店主然とした 男を伴って現れた。


「依頼を受けようと言うのは君たちかね。私が店主のエラザールだ」


「ボクはジェシー。隣りにいるのがユージンとガブルだ」


「おお、君たちが『グリフォンの夢』か。噂は聞いているよ。ユージンだったかな、なかなか容量の大きい【虚空庫】持ちだそうだね。それで依頼に応じてくれる気になったのかね」


「まだ受けると決めたわけではありません。その前に二、三お尋ねしたいことがあります」


 勇人がそう切り出すとエラザールは鷹揚に答えた。


「もっともな話だ。何でも聞いてくれ給え」


「まず、なぜこの依頼を出すことになったのですか。エラザール商会なら組合に頼まなくても自前の運搬手段をお持ちだと思いますが」


 エラザールは一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻って答えた。


「これを話すのは我が商会の恥を晒すことになるんだが、言わずばなるまいねぇ。


 もともとはうちの【虚空庫】持ちが二人で四往復して運搬する予定だったのだがね、そのうちの一人が直前の仕事で近道をしようと間道に入ったんだ。ところがその道で起こったがけ崩れで大怪我をしてしまって、この仕事ができなくなったんだよ。


 それで残りの一人で八往復と考えたんだが、そいつに足元を見られてね。給料を倍にしろって言ってきたんだよ。それで色々交渉したんだがそれが拗れてしまってね、結局うちを辞めちまったんだよ。大容量の【虚空庫】持ちは引く手数多だからねぇ。


 それで仕方なく外部に依頼することにして、商業組合にあたったわけなんだが、大容量の【虚空庫】持ちはなかなか居なくてねぇ。切羽詰まって組合にまで依頼を出したんだよ。あまり期待はしてなかったけどねぇ」


 長い話だったが、如何にも胡散臭い。この話が真実だとしても、大量の荷馬車を出すなり、中容量の【虚空庫】持ちを動員するなり方法はあったはずだ。


「エラザール商会ほどの商会なら他にも【虚空庫】持ちと呼ばれる商会員は大勢居られるでしょう。その動員をされなかったのは何故ですか。他にも荷馬車を大量に仕立てるって遣り方も在ったはずですし」


「君ねぇ、【虚空庫】持ちは貴重な人材なんだよ。遊ばせて置くはずがないじゃないか。他の仕事から引き抜くわけには行かないんだよ。それに荷馬車の場合何台要ると思う。ブルカン村への山道が潰れて仕舞うよ」


 (胡散臭いけど嘘と決めつけるだけの証拠もないしなぁ)


「依頼に比べて違約金が異常に高いと思うんだけど何故ですか」


 勇人はもう一つの疑問点についても質問した。


「この荷物が届かないと一月十九日の週明けから仕事にかかれないんだよ。そうすると仕事の依頼主に我が商会が違約金を払わなければならなくなってしまうんだねぇ。その金額が五百両なんだよ」


 (普通違約金言うんは、一日遅れたら何ぼて決めるもんや。それが一日遅れても百日遅れても五百両て、そんなん在らへんやろ)


「分かった。ちょっと仲間内で相談させて欲しい。一旦席をはずさせて貰うよ」


 勇人はそう言って二人を促すと店の外に出た。すぐ近くにお誂向きの茶房があったのでそこに席を取る。


「組合に依頼した理由にしても、違約金の額にしても如何にも胡散臭いよ。日限にしたって僕たちを狙い撃ちにしたみたいだし」


 席に座るや否や勇人はそう切り出した。


「罠臭いのはその通り。でもボクたちなら食い破れる。この依頼受けない手はないと思う」


「五十両は魅力的だべ。何とかなるだよ」


「失敗したら五百両なんて払えない。その分タダ働きでこき使われることになるよ」


「失敗しなければ良い」


 それから三人であれこれと話をした。勇人は何か罠が在りそうだという嫌な予感しかしなかったが、他の二人が余りにも前のめりなので受けてみるかという気持ちになった。


「二人がそこまで言うんなら受けてみるか」


 約三十分後、三人が商会まで戻ると案に相違してエラザールはまだ店先で待っていた。


「受けることにするよ」


 勇人の言葉にエラザールは満面の笑みで答えた。


「そうですか。それは重畳。では早速【虚空庫】の容量を計らせて貰いましょうか。こちらへどうぞ」


 そう言うと彼は三人を店の裏手に誘った。そこには鉄木筋の山が幾つも置かれていた。


「一山で二十石以上の容量があるから、一山で十二時間、二山なら六時間【虚空庫】内に保って頂ければ合格と致します」


「四山で三時間、十二山なら一時間で良いんだね」


 勇人は若干ヤケクソになっていた。


「申し訳ないがそれは無理だ。そこまで山の数はないのでねぇ」


 その言葉にハッと気がつく。容量はなるべく誤魔化さないと。


「ははは、冗談ですよ。四山でお願いします。それくらいなら何とか成りそうだ」


 そう言って適当に四山を【亜空間庫】に入れる。エラザールは驚きに目を見開いていたが、入れ終わると何食わぬ顔になった。


「それではこの者を見分役に置いておきますので、三時間この場で時間を潰して下さい」


 そう言って前に押し出されたのは最初に三人の訪いを受けた店員だった。


「ジェシーもガブルもどこかで時間つぶしをしてくれ。僕一人で十分だから」


「そうさせて貰う」


「んだば、そうするだ」


 二人は時間つぶしのために出ていった。薄情なものだ。勇人は不貞寝して三時間を過ごした。


「おい、時間だ。起きてくれ」


 あの店員の声だ、勇人はユックリと夢の中から出てきた。子どもの頃の夢を見ていたような気がする。おかんが何か言っていた記憶があるが何を言っていたのかさっぱり覚えていない。夢なんてそんなものだ。目を開けると店員の他にエラザールも居たしジェシーもガブルも揃っていた。


「ああ、三時間経ったんだね。容量については納得して貰えたかな」


 勇人は【亜空間庫】から鉄木筋の山を出しながら嫌味を込めて言った。


「充分に。それでは契約することにしようか」


 勇人の言葉の含みを意に介さずエラザールは満足そうに答えた。


 三人は応接室に通され、眼の前に契約書が出された。既にエラザールの署名は済まされている。三人はそれぞれ内容を確認して署名をした。


「それにしても、流石に【虚空庫】に砦を二つも入れているだけのことはある。聞いていた通り超大容量の【虚空庫】持ちだな。どうだねうち専属にならないかね」


 エラザールは満面の笑みで専属契約を持ちかけた。勇人は心の中で舌打ちをした。


 (やっぱりワイがピンポイントで狙われてたんやな。情報の出どころは彼奴か)


「僕は魔猟士生活が気に入ってるんで、専属は遠慮しておくよ」


 勇人は淡々と答えた。気持ちを顔に出さないのもサラリーマンのイロハである。それについては四十年以上修行してきた。


 エラザールから鉄木筋の受領委任状を受け取って店を出ようとしたとき、店先でガーセンに出会った。「草原の風」で盾士をしていた男だ。


「よう。鉄木筋の受領運搬契約はできたかい。上手く行くと良いな」


 ガーセンはニヤニヤと笑いながら声を掛けてきた。


「ああ、お前か。良い仕事を紹介してくれてありがとうよ。ところで他の二人はどうしたんだい。お前さんの強欲に愛想尽かしでもされたのかな」


 勇人もニコニコと笑って返す。それを聞いてガーセンの顔が怒りに染まった。


「おめえたちのせいだ。せいぜい用心するんだな」


 (おうおう、自分から何か仕掛けとる言うてしもて、つくづく小物やなぁ)


 勇人は改めて本気で用心して対処しなければと思った。罠を掛けているのは決まりとして、正面から来る物理的な罠なのか、搦手から来る心理的な罠なのか、前者なら食い破るだけだが、後者は予想しての仕込みが必要なだけ面倒だ。そんなことを考えながら店を出て学校の方へ歩き始めたとき、仕掛けを一つ思いついた。


「なあ、ガブル。山人ってのは酒は好きなのか」


「ああ、エールなら水のように飲むだ。焼酎はエールのように飲むだ」


「土産に持って行くとしたら、何をどれくらいがいいかな」


「ブルカン村にか。あそこには二百人くらい住んでるだ。この件で酒を飲む資格があるのはそのうち五十人くらいだな。エールは四斗樽二つ、蒸留酒は一升壺十個そんなもんだか。品質は最低ので良いだ。あそこで飲んでるのはそれ以下の代物だからな」


「僕は酒を買ったことが無いんだけど、一両で足りるかな」


「彼奴らに飲ませる物だば、お釣りが来るべ」


「じゃあ、金は僕のポケットから出すから悪いけど買ってきてくれよ」


 勇人はそう言うと【亜空間庫】から金貨一枚を出してガブルに渡した。


「分かった。ひとっ走り言って来るだ、と言いてえだども四斗樽二つと一升壺十個はオイラの【虚空庫】には荷がかち過ぎるだ。おめえも来ねえと」


 そうだった。四斗樽二つ入る【虚空庫】持ちはそれだけで分隊からスカウトが来るんだった。結局三人で買いに行った。


「酒を振る舞ってどうする」


 帰る途中でジェシーが聞いてきた。


「まず相手の気持ちが解れて気軽に何でも話すようになる。次に仲良くなれる。最後に無理が効くようになる。こんなところかなぁ」


「ふうん」


 ジェシーは分かったような分かってないような顔をして生返事をした。

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