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041 気分はもう戦争、や

 翌日は朝からウサギの皮剥ぎをした。キツネとテンの皮剥ぎと毛皮の後処理は他の子供たちに任せ、昼食の後、川からイノシシを引き上げると村へ向かった。アビーも付いてくる。


 一昨日と同じように肉屋に入ると、今日は四人の大人が獲物の解体作業をしていた。上下ローレン村の肉屋夫婦だろう。入ると大柄な男が近づいてきた。


「おめえたち何の用だ」


 如何にも脅すような声で男が言った。女将のジエラがフォローを入れる。


「ああ、孤児院の子だね。この前エラドと話をしたんだよ。うちの人には話しておいたんだけどあんたたちにはまだだったねぇ。それて、何か獲物を持ってきたのかい」


「ええ。イノシシが一頭とウサギが五羽だよ」


 勇人は言いながら獲物を床に出した。


「エラドには買値は十匁二文っていったけど骨と皮が付いてるから重さは八掛けだよ」


「もっともな話だね。それで良いよ」


 女将と勇人は特に依存もなく合意した。


「待ちねぇ。十匁二文ってのは皮剥いで正肉にした場合の値段だ。皮剥ぎと骨を取る手間を考えりゃ十五匁二文が良いところだ」


 上ローレン村の肉屋が口を挟んできた。子供と見て値切ろうというのだろう。


「ふうん。アビー帰ろうか」


 勇人はそう言うと獲物を【亜空間庫】に収納し始めた。


「待ちねぇ。どうするつもりだ」


 肉屋がそれを制止する。


「どおって、約束が守られないから持ち帰るんですよ」


「持ち帰ってどうするんだ。お前らじゃ一週間で食いきれないだろう。腐っちまうぞ」


「処分する方法はありますよ。ローレン村にはそれぞれ居酒屋さんがありましたよね。そこに十匁三文で売れるんじゃないかな」


「居酒屋にお前たちから買わねえように言うのなんて簡単だぞ」


 肉屋はむきになって反論した。顔から怒気が溢れ出している。こう言う時には勇人は却って冷静になれる。サラリーマン時代の修行(?)の賜物だ。


「そうですか。他にもやり方はありますよ。上下ローレン村には千人住んでるんですよね。孤児院で直販所でもして十匁三文で売るってのは良いと思うんだけどどうですかね」


「そんなこと助祭様が許すはずがねえ」


 肉屋が益々真っ赤な顔をして反論した。今にも掴みかからんばかりの勢いだ。


「そうですか。教会にお布施をしていただくとお布施三文で十匁のお肉が下賜されるってのはどうかな。助祭様にはそのうち一文を取っていただいて残り二文は孤児院の手間賃てことでも僕たちは損しませんよ」


 勇人がそこまで言うと肉屋は黙り込んでしまった。あの助祭なら喜んで手伝うと予想したのだろう。実際には村人全員に対して安い肉を買うのを止めろとは言えないし、そもそも肉は足りていないのだ。


 妨害すれば肉の欲しい村人とお金好きの助祭の反感を買うし巡回司教に知られれば破門されてしまうかも知れない、そう思うとこれ以上無理を言うことは得策ではないとわかるのだが振り上げた手の落としどころがない。ガキと思っていた子供に言い負かされた悔しさもある。


 下ローレン村の肉屋と上ローレン村の女将もはらはらしながら見ているが、何ともできない。見かねたジエラが助け舟を出した。


「まあまあ、お互い角突き合わせても仕方がないし。私がエラドと約束したんだから私の顔を立てておくれよ。皮付き骨付きの場合は八掛けの十匁二文で良いね」


「皮付き骨付きの場合はそれでいいですよ。皮は手間賃で取ってもらって良いです。でも狩に慣れてきたら皮、骨もはずして来るんでそのときは掛け値なしで払って下さいね」


 仲裁は時の氏神。勇人はそう思ってニッコリ笑うとジエラの仲裁に乗った。


「よし、それで手打ちだよ。みんなも良いね」


 女将が同意を求めて仲間の顔を見たところ誰も何も言わずに頷いた。下ローレン村の肉屋と、紙ローレン村の女将はほっとした表情で、上の肉屋は苦虫を噛み潰したような顔ををして。


 女将は虚空庫に入れて獲物を奥に運ぶと一つ一つ重さを量り始めた。


「全部で二十六貫三百二十匁だ、良いかい」


 女将は算盤を弾くと、見ていたアビーに問いかけ、アビーは無言で頷いた。


「八掛けだから二十一貫と跳んで五十六匁になるよ」


 今度はアビーは何も言わず勇人を見た。勇人は持っていた算盤を亜空間庫から取り出して自分も計算をした。勿論算盤での掛け算は出来ないので一割ずつ二度の引き算である。


 (まあ、アビーには無理やなあ。普通にやれば掛け算やからな。ワイも暗算では出来んわ)


 勇人が小さく頷くと、それを見たアビーは女将に向き直って「良いぞ」と言った。


「十匁が二文の約束だから、四千二百十一文になるけどこれで良いかい」


 (小数点以下を毎度切り捨てされたらかなわんな)


「一文より下を四捨五入ということならいいよ」


 勇人はアビーを通さずに直接言った。女将はちょっと渋い顔をしたが


「良いよ」


と言って銀貨四枚と穴銀二枚、銅貨、穴銅各一枚を取り出して解体テーブルの隅に並べた。


「悪いけど穴銀一枚を銅貨十枚で、銅貨一枚を穴銅十枚にしてくれないかな」


 勇人の注文に、女将は黙って穴銀一枚と銅貨一枚を取ると銅貨十枚と穴銅十枚を取り出してテーブルに置いた。勇人はそれを手に取って亜空間庫に入れた。


「アビー、帰るよ。女将さん、また来るからよろしく」


「ああ、こっちこそよろしくね」


 勇人は笑顔でジエラに挨拶をしジエラも愛想よくそれに答え、互いに挨拶を交わすと彼は肉屋を出た。アビーは黙って付いてくる。暫く歩いていたが、アビーがポツリと言った。


「オレ、算術頑張る」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 孤児院に帰ると小さい子供は開墾地で冬野菜の間引きをし、年長の孤児たちは林に入って落ち葉を集めては孤児院の裏手にある屋根掛けだけの小屋の下に積み上げていた。肥料にするのだろう。


 勇人は間引きを手伝い始めた。アビーは何時ものように作業には加わらず水路の傍に座り込んで子供たちの作業を見るともなく見ている。


 夕方まで作業をして孤児院に帰ると先に帰った食事当番の子供たちが夕食を作って待っていた。食堂に集まった子供たちの前で勇人はタミールとデボラに声を掛けた。


「タミール、デボラ、昨日の狩りの獲物を売った金が入ったから渡すよ」


 勇人は二人とアビーが見ている前で銀貨四枚、穴銀一枚、銅貨十枚、穴銅十一枚を取り出して食卓の上に置いた。


「アビー、今日の売り上げはこれで良かったね」


「間違いないぞ。オレが見てたからな」


 勇人が念のためにアビーに聞くと、彼女は胸を張って同意した。


「じゃあ、まずこれを二つに分けてくれ」


「よし。オレがやるのが公平だな」


 アビーは張り切って分けだしたが、銀貨を二枚ずつに分けたところで止まってしまった。


「どうしたんだい」


 勇人が苦笑しながら聞くとアビーは困り顔になった。


「穴銀が一枚しかないぞ。半分に切るか」


「そんなことしたらお金の値打ちがなくなるよ」


「じゃあ、どうすんだ」


「穴銀一枚は銅貨何枚だい」


「銅貨十枚だな。あっ、一つは穴銀一枚、片方は銅貨十枚でも良いのか」


 そういうと一方には穴銀一枚、片方に銅貨十枚を置いた。そのあと穴銅を一枚ずつ二つに分けだしたが、最後の一枚を見てまた悩み始めた。


「穴銅が一枚になった。二枚ないと分けられないぞ」


「それはどうしようもないな。銅貨十枚の方に置いてよ」


 アビーがそうすると、勇人は更に続けた。


「今度は銅貨十枚の方を二つに分けてよ」


 勇人が穴銀一枚の方を取って亜空間庫に入れながら言うと、アビーも今度は迷わず銀貨一枚、銅貨五枚、穴銅六枚に分けた。


「タミール、デボラ、これが君たちの取り分だ」


「おお、ありがとうな」、「遠慮なく頂くわ。ありがとう」


 二人は嬉しそうに一山ずつ取って自分の虚空庫に入れた。これで勇人の手持ちも銀貨二枚、穴銀七枚、穴銅五枚になった。金貨五十枚まで先は長い。


 (先月は二回毎週穴銀六枚をエラドに渡した。六百文や。これで買えるんは十匁四文やから千五百匁、一・五貫やな。孤児院の一人一日当たり一日九・三匁、肉屋に一週間に入る肉の量が八十貫。村人が千人として一人一日当たり十一・四匁。


 孤児院がそれに匹敵する量の肉を買う。これ不可能やな。売ってくれんわ。第一、九・三匁言うたら約三十五グラムや。六月以降に肉がそんだけ増えた言う実感ないわ。アイツ大分がめりよったな)


 勇人は思わずエラドを睨んだが、エラドは知らん顔で隣に座ったイサクと話をしていた。

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