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老年期の成功者が夢見たもの

 【フェルマーの最終定理】 出版 1990年


 という本が何故か整理していた本棚から出てきたので興味深く読んでみました。


 ご存じのようにフェルマーの最終定理は1995年、イギリスの数学者アンドリュー・ワイルズにより360年の時を経て証明されております。しかし、この本が出版されたのは証明の前であり【350年間もの間、未だ誰も証明出来ていない世紀の難問】という扱い。


 数学の未解決問題というのは大抵、我々凡人では数式を理解する事すら出来ません。例えば数学界において解決すれば1億円を貰える【ミレニアム問題】の一つ <ホッジ予想> を参照すると――


 <複素解析多様体のあるホモロジー類(ホッジ類)は、代数的なド・ラームコホモロジー類であろう、つまり、部分多様体のホモロジー類のポアンカレ双対の和として表されるようなド・ラームコホモロジー類であろう>


 という説明の後に、〝ナニこれ地図記号?〟と思わんばかりの、訳の解らん数学記号や理解不能な数学用語がわんさか出てきます。


 それに対し、【フェルマーの最終定理】の言わんとすることは簡単です。


『≧ 3 ( n が3以上)の時 X~n + Y~n = Z~n を満たす自然数 X、Y、Zは存在しない。』(n乗を表現するのに~という記号を使っています。)


 なんていう中学校のテストにでも出てきそうな問題です。


 しかしながら、この本を読んでいると、コンピューターによる計算の基礎の基礎アルゴリズム的計算方法を造り出したオイラー、物理学の弾性理論の基礎を作った女性数学者ソフィー・ジェルマン、ナチスドイツの最強暗号にして連合国軍の悪夢エニグマ暗号機を解読したアラン・チューリングといった偉大な数学者が挑んでは撃沈していく様が書かれております。


 〝偉大な数学者が350年、手も付けられなかった。更には有望な数学者がこの証明に挑み無名のまま亡くなった事を考えれば、これは悪魔の証明だ〟


 と綴られております。


 この本の筆者は日本の数学者でした。しかし本の中身は数学的な専門用語やまどろっこしい論文チックな言葉はほとんど使っておらず、むしろどこか感情的かつドラマチックです。【フェルマーの最終定理はこんなに凄いんだ!こんなに人類を翻弄してきたんだ!】とまるで未熟な年代記作家が己の感情を抑えきれず歴史を綴っているかのようでした。


 この本の筆者は1990年時点で還暦を超えております。日本人男性の平均寿命を考えれば既に亡くなっているかもしれません。軽くググってみましたがwikiは存在せず、彼の書いた論文や教授をしている大学名がヒットしたくらいでした。


 しかし有名国立大学の教授をやっているくらいです。数学者として盤石なキャリアを積んできたのでしょう。では、何故還暦を過ぎた熟練数学者の彼は、まるで冒険活劇を描く少年のように【フェルマーの最終定理】の歴史を書いたのでしょうか。


 ひょっとすれば〝自分がこの難問を解きたい〟と夢見ていたのかもしれません。

 


 

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