いつまでも続きますように
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「本当に、賑やかな人たちですね」
宗旦狐は苦笑しながら資料室の扉を眺めた。
ーーあたしは、デブでブスで口が悪くて妄想癖でフリーターだ。
それでも、こんなあたしを選んでくれる人がいる。
こんなあたしを認めてくれる人がいる。
たとえ、赤の他人からデブだのブスだの言われようと、たとえ、社会的地位が低かろうと、こうして、あたしのことを好きになってくれる人がいた。
すんっごい単純だけど、それがわかっただけで、なんか、なんでもできるような気がしてる。
こうやって、人間っていうのは、誰かに認められることで強くなれるんだと思う。
なら、あたしも認められる人になりたい。
間違えても、もう一度立ち止まって、もう一度やり直すの。
そうやって、乗り越えて変わっていくことが、楽しく生きることなんじゃないだろうか。
退屈なんて、どこにもないな。
ねえ、おおばあさま。
「どうかしました?」
宗旦狐の顔を凝視してたらしい。
あたし、ふと我に返って目を逸らす。
「別に!あー、お腹減りましたっ!」
「そうですね。お昼にしましょうか。なるみさんはお弁当ですか?」
「ふふ、今日、宗辰さん来ると思って宗辰さんのお弁当も作ってきましたよ。重かったんですから、感謝して食べてくださいね」
「愛してます……!!」
と、宗旦狐が迫って来る。
「そこまでは求めてない」
「……ベッドの上では素直だったのに」
こいつ、今ぼそっと地雷踏み抜きやがった!!!
「もうあげない!!!絶対あげない!!!ばかっ!!!飢え死ね!!!」
「可愛かっ……」
「あー!あー!なんっも聞こえねえー!!!あー!!」
「あ、佐々木先生から連絡がきました。今日の晩御飯はお肉料理が美味しいお店だそうです」
「……まじですかっ?」
うぇーい、お肉お肉ー!
豚かなー牛かなー鳥かなー!
なんでもいいやー!
「場所は、俺の家の近くです。なるみさん、泊まって行きますよね!」
「いや、実家に帰ります」
「いつ戻ってきてくれるんですか?」
「あたしがあと三十kg痩せたらですかねー」
「じゃあ、今日のお肉料理禁止です」
「それは絶対やだ!!あっ、じゃあ、お弁当禁止ですからね!」
「そんなこと言って、ちゃっかり二つお弁当持ってるじゃないですか。佐々木先生の研究室で食べましょ」
「あたしが二つ食べるんですー。ってか、いつ文学散歩つれてってくれるんですか!」
「じゃあ、今日俺の家に泊まってそのまま明日行きましょう」
ぐっ……しょうがない。
フラグはへし折らないと。
黙ってると、途端に宗旦狐がにこにこし出す。
「いいんですね!」
「はいはい」
まったくもう、敵わないなあ。
あたしは二つのお弁当を持って、宗旦狐と大旦那の研究室へと向かうのだった。
ーーこんな、どうしようもなくくだらなくて、楽しい日々が、いつまでも続きますようにと願いながら。
おわり