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間があいてすみませんでした。
最終話です。
あわせていた手を解き、私は顔を上げた。
私は毎月妻の月命日に、墓前に花を供えに行く。
妻の墓がある霊園は、高台の見晴らしが良い丘の上にあった。
風が吹くと木々の揺れる音が耳に心地良い。
緑に溢れ、春には桜、夏の向日葵、秋のコスモス、冬の椿と、目を楽しませてくれる。
妻の眠るこの地が美しい場所であることを、私は心から嬉しく思う。
今日も、まずはきれいに墓の周りを掃き清めた後、持参した花を活けた。
花は妻が好んだ白薔薇だった。
普通は墓には菊などの仏花を供えることが多いとは思うが、私はそれよりも妻の好んだ花を選びたかった。
その方が妻も喜んでくれると思うから。
妻は……、美也子は、そういう女性だったから。
妻の月命日。
月にたった一度の逢瀬。
墓前に手をあわせると、いつでも美也子との出会い、一緒に過ごした楽しい日々、悩み苦しみ、そしてお互いを労わりあったあの時間、そしてその最期の時を思い出すのだった。
そうして、私の近況を報告する。
美也子のいない毎日の生活。
一人旅に出た土産話。
自然の美しさ。
人との交わりの温かさ。
美しい。
優しい。
温かい。
この世界は素晴らしさで溢れている。
それを、そうと感じる私の心。
そのすべてが、美也子と過ごした日々の先にある。
そのすべてを美也子に語りたかった。
すべて、君が私に与えてくれたものなのだと、そう伝えたかった。
時に、寂しく感じることもある。
しかし、そんな時に浮かぶのは君の明るい笑顔。
楽しそうな笑い声。
それは、常に私とともにある。
私の記憶の中に、確かに存在している。
私の、この命が尽きる、その時まで…………。
私は腰を上げると、安らかに妻が眠る墓前を離れた。
そして、少し離れた所から振り返る。
まるで、美也子が笑顔で「またね」と手を振っていてくれるように思えるから。
私はまた次の月にここへ訪れる。
私が彼女と同じ場所で眠りにつくまで、きっと、ずっと。
また、君に逢いに来る。
愛しい妻よ。
私の美也子。
誰よりも愛おしい君へ。
大筋は最初の予定通りですが、細かい所で大分予定と変わった話になりました。
やはり短縮して短編、もしくは前後編のが収まりが良かったかもしれません。
ですが、これはこれで良しとします。
最後まで、ありがとうございました。