表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

9

間があいてすみませんでした。

最終話です。

 あわせていた手をほどき、私は顔を上げた。




 私は毎月妻の月命日に、墓前に花を供えに行く。


 妻の墓がある霊園は、高台の見晴らしが良い丘の上にあった。


 風が吹くと木々の揺れる音が耳に心地良い。


 緑に溢れ、春には桜、夏の向日葵、秋のコスモス、冬の椿と、目を楽しませてくれる。


 妻の眠るこの地が美しい場所であることを、私は心から嬉しく思う。




 今日も、まずはきれいに墓の周りを掃き清めた後、持参した花を活けた。


 花は妻が好んだ白薔薇だった。


 普通は墓には菊などの仏花を供えることが多いとは思うが、私はそれよりも妻の好んだ花を選びたかった。


 その方が妻も喜んでくれると思うから。


 妻は……、美也子は、そういう女性だったから。


 妻の月命日。


 月にたった一度の逢瀬。




 墓前に手をあわせると、いつでも美也子との出会い、一緒に過ごした楽しい日々、悩み苦しみ、そしてお互いを労わりあったあの時間、そしてその最期の時を思い出すのだった。


 そうして、私の近況を報告する。


 美也子のいない毎日の生活。


 一人旅に出た土産話。


 自然の美しさ。


 人との交わりの温かさ。


 美しい。


 優しい。


 温かい。


 この世界は素晴らしさで溢れている。


 それを、そうと感じる私の心。


 そのすべてが、美也子と過ごした日々の先にある。


 そのすべてを美也子に語りたかった。


 すべて、君が私に与えてくれたものなのだと、そう伝えたかった。


 時に、寂しく感じることもある。


 しかし、そんな時に浮かぶのは君の明るい笑顔。


 楽しそうな笑い声。


 それは、常に私とともにある。


 私の記憶の中に、確かに存在している。


 私の、この命が尽きる、その時まで…………。

 

 


 私は腰を上げると、安らかに妻が眠る墓前を離れた。


 そして、少し離れた所から振り返る。


 まるで、美也子が笑顔で「またね」と手を振っていてくれるように思えるから。


 私はまた次の月にここへ訪れる。


 私が彼女と同じ場所で眠りにつくまで、きっと、ずっと。


 また、君に逢いに来る。


 愛しい妻よ。


 私の美也子。




 誰よりも愛おしい君へ。




大筋は最初の予定通りですが、細かい所で大分予定と変わった話になりました。

やはり短縮して短編、もしくは前後編のが収まりが良かったかもしれません。

ですが、これはこれで良しとします。

最後まで、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ