第六章衝撃 2
「ケイはどこにいるんだ!?」
「体調が悪いと言って、キョウに宿屋を案内させた!」
「宿屋か、行くぞ!」
向かっている最中、周りの居住地を見渡してみると、そこは血の海になっていた。そこら中に遺る大量のドワーフの死体。死体の大半は何かに斬られたり、刺されたりした痕が残っている。傷の深さから、恐らく短剣によるものだろうと思考しながら、考えをケイに戻し、惨い様を振り切るように、俺は走る速度を上げた。そして、宿屋に辿り着く。
________________パリン。
どこかでガラスの割れた音がする。音の正体を知るために、宿屋の二階を見上げると、宿屋の窓から一人の人影がこちらに吹き飛ばされてくる。やがて彼は地面に落ち、鈍い衝撃音を鳴らした。
「だっ、大丈夫か!?」
駆け寄ってみると、彼の身体の血の滲んだ、刺されたあとが目に入る。そして、彼はキョウであった。
「僕、の……こ…とは………いい……。」
「キョウ!待ってろ、すぐに回復薬を……。」
父さんが回復薬を準備している間に、俺も回復魔法を……。
「ぐふっっ_______。」
「!?キョウ!!!」
気がつけば、キョウはどこからか飛んできたナイフに心臓を貫かれていた。傷が深く、恐らく薬はおろか、回復魔法でも間に合わない。ナイフの刺され方からして、投げられたのは宿屋の、キョウが飛んできた窓からだろう。
「……『シャドウストライク』」
「なっ………!?!?」
「『無流・千技受け流し』!」
突如、俺の背後から、まるで影から現れたかのように気配を消したケイが、短剣で俺を斬り刻もうと刃を振るう。それよりも早く、父さんは咄嗟に左手のみで剣を抜き、受け流してみせた。
「やっと来ました?」
「………ケイ…!!」
ケイはただ佇んでいた。やがて、気色の悪い嘲笑をしだした。
「キョウさんっ………!」
カーレイが、薄れゆく意識のキョウを揺さぶる。キョウの口からは、言葉の代わりに血が吹き出るばかりである。しかし、言葉には出来ずとも、キョウは口元を動かし、最期にこちらに伝える。
「に………げ……………ろ………。」
そしてキョウは、息絶えた。カーレイは、それを間近で見て、思わず泣き崩れる。嗚咽を漏らし、キョウの手を握った。その手に、いくつもの涙が降り注ぐ。
「お前っっ………!!!」
俺は、湧き上がる怒りに堪えきれず、ケイを睨みあげた。
「なんです?僕は仕事をしたまでですよ。あなたと同じようにね。」
この言葉が俺の喉に突き刺さった。途端、俺は自分の過去からの行いを改めて実感する。悪人であったとしても、俺がサーヴァントでやってきたことは、暗殺者として殺ってきたことは、変わらない……。
「シェーレン、奴の言葉に惑わされるな。今は、俺達にとって最善の行動をすればいい。」
父さんの言葉に、俺は正気を取り戻す。先程まで苛まれていた俺の心も、少し軽くなった。
………そうだ。過去より今だ。これ以上、被害者は出させない!
「まぁ、そんなことより……。」
くるぞっ!
「さっさと始めるぞ。」
先刻までへらへらしていたケイは、ガラッと雰囲気を変える。人格が丸ごと変わったかのようだ。
攻撃が________くるっ!!!
「『スライドステップ』」
刹那、ケイの短剣が俺の心臓近くまで届いていた。なんとか反射神経で右に躱わす。
「一度戦ってみたかったんだよっ!漆黒の暗殺者と呼ばれるほど強くなったシェーレン。君と。」
『ブラッドレイン』幹部
『蠱毒の生者 ケイ』
「……そりゃどうも。」
冷静に……。あの攻撃をみるにケイはスピードで圧倒するタイプだ。対処できるはず。
「手伝うぞ。油断するなよ。」
父さんとまた共闘できる日が来るとは、前の俺なら信じられなかっただろうな。
ケイは目の前から消え、スピードで後ろに回り込み先程の突き攻撃を狙う。
「もらったああああ!!」
だが、それは読んでいる。俺の分身はさらに後ろに回り込んでいた!ケイは分身を宙返りで避ける。そこに父さんの技が炸裂する。
「『無流・反撃の攻め手』」
「ちっ…邪魔だ老いぼれ!」
父さんは、隻腕であるにも関わらず、左手のみでやすやすと刀を抜き、短剣を弾き飛ばした。さらにはケイの姿勢が崩れた身体に斬撃をいれる。
「終わりだ。『トラジェクトリーオブウォーター』!」
逃げ場をなくした広範囲の水爆弾で、ケイを覆う。水が一つ弾けると、それにつられて全ての水が連鎖を起こし、爆発する。ケイは斬撃こそ躱したものの、爆発に巻き込まれ、致命傷を負う。
「ぐああっ………くっ…………。」
危なかった。父さんがいなければ、勝てていたかすら怪しい。
「あっ!あなた方は!」
そこに見覚えのある少年がやってくる。
「お前、セルファか!」
「奇遇ですね。僕は放浪の薬師なもので、各地で薬を売っているんですよ。それでここに来てみたら戦っている音が聞こえて。」
「もう戦闘は終わった。大丈夫だ。」
「では、お疲れでしょうし、僕の薬買っていきます……。」
その時、何かが空から地に降り立ち、砂埃が舞う。
「なんだ!?」
砂埃の影から見えたのは、赤い大剣と奴の光る眼だった。
「全く……ウインバーは敗れ、挙句ブラッドレイン共も駒にすらならんとはな。」
見ただけでわかる。俺との圧倒的な実力の差、今の俺では埋まらないこの差が。
「恐らくだが、ウインバーはこの前ここに来た風の魔族だ。俺が撃退した。」
父さんが言うに、こいつはその魔族やブラッドレインよりも強いだろう。
「我が名は魔軍四天王が一人、煌焔。このドワーフの里、滅ぼしに来た!」
『魔王』直属配下
『魔軍四天王序列二位 炎の煌焔』
「こっ……煌焔…様………。」
「ケイか。無様な姿だ。せめて最期まで魔王軍に尽くせ。」
煌焔がそう言うと、魔のエネルギーがケイを包み込む。
「うわあああああっっっ!!」
ケイは煌焔により、魔族にされてしまった。正気を失っているようだ。
「シェーレン!……囲まれてるぞ。」
父さんに言われて、あたりを見回せば、いつの間に俺たちは囲まれてしまっていた。しかも、人間に。
よくよく、一人一人の服を見てみると、赤い二本のナイフのエムブレムが___ブラッドレインの連中だ。俺が全滅させたはずなのに……なぜ………。
「シェーレン…!」
「かなりまずいな…。」
父さんと俺が考えていることは同じだろう。俺らはあの煌焔とやらとは全員でかかっても負ける気しか起きない強さだ。それに加えて、ブラッドレインに魔族になり、強化されたケイ、どうする……っ!
「僕がやりましょうか?」
セルファが口を開いた。
「僕があの煌焔さんをやれば、あなた方にも勝機はあります。」
「……シェーレン、こいつは?」
「ここに来る途中で出会った薬師だ……。」
「薬師だって?馬鹿を言え。引っ込んでろ。」
「いや、大丈夫ですけど。」
「くっっ…。父さん、今はセルファの言葉を信じるしかない!俺らはブラッドレインに集中するぞ!セルファ、時間稼げよ。」
「だから……勝てますって………。」
とても不安だが、手段は選んでいられない。やるしかない!
煌焔の前にセルファは立ちはだかる。
「ふん。舐められたものだ。薬師など、戦いにすらならん。」
「それは、僕を舐めすぎですよ、一応僕強いですよ?」
煌焔は、大剣を片手で構え、
「今更泣いて縋っても、聞き入れんぞ。」
と言うと、セルファは急に笑い出した。
「僕が逃げるとでも?」
煌焔が覚えた違和感は、この後現実となる。




