第一章勇者との出会い 1
「お前ら、絶対見つかるなよ…。奴は依頼達成率98.5%の暗殺者だからな。」
「わかっておりやす。ここは見つかることはありやせん!」
「あそこにいるのは……?」
大盗賊団は一斉に上を見上げる。そこには一つの人影があった。
「奴だ!!奴が来t……ぐああああ!!!」
血飛沫があがる。彼は盗賊団が隠れていた建物内を、颯爽と駆け回り、所構わずばったばったと盗賊たちを倒していく。残り一人、盗賊団の親玉が口を開く。
「お前、一体何者なんだ……!」
彼は静かにこう言う。
「名乗るほどの名は持っていない。強いて言うなら、裏の世界では『漆黒の暗殺者』と呼ばれているな。」
そして、彼は親玉を殺した。
俺はシェーレン。裏の世界では『漆黒の暗殺者』という通り名がついている。
「シェーレン、次の依頼だ。」
「内容は?」
「ほう、勇者の暗殺だ。」
「それが………。」
依頼によると、勇者は仲間たちとすでに引き離され、この都市『レイズ』の近くの森で魔物の討伐依頼をしているようだ。
その森に行くと、勇者とはすぐ会えた。雑魚魔物を掃討している。
「『ダークネスクローン』」
俺のスキルを使い、分身を作り出す。
このスキルは、影から自分の分身を作り出し、共闘できるというものだ。分身は本体である俺と目の色しか違いがないため、見分け辛く、俺と同じスキルを使えたり、分身には一切ダメージが通らないので、使い道は豊富だ。さらに、分身には双剣、俺本体は弓を持っていることにより、分身で近距離、本体で遠距離と安全に戦うことも出来る。
まずは様子見で分身で戦ってみよう。勇者の強さがわからない。
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勇者は気配を消して近づいた分身の攻撃を間一髪、聖剣で迎え撃つ。
「……っ!君は誰だ……!」
「名乗るほどの名は持ち合わせていないな。」
双剣を弾かれ後退したその時、
「『光速の照星斬』!」
目にも止まらぬ速さで聖剣を振るう勇者に対し、俺は近くの木を利用して華麗に攻撃を避ける。そして、気に紛れ姿を隠した。
「どこへ行った……。」
「後ろさ。」
さすがにこの不意打ちには対応しきれなかったか、勇者は体勢を崩す。すかさずそこに剣戟を入れる。
「『シャドウブレイド』!」
勇者は胸あたりに浅い傷を負ってしまう。俺は続けて双剣で斬り上げを放つ。彼はまたも怯んだ。左手の剣で聖剣を弾き、右手の剣でみぞおちを狙う。
勇者は体をうまく捻り避けるが、俺はそれを読んで右手の剣を逆手に持ち替え、腹を切り裂こうとする。勇者は咄嗟に聖剣から左手を放し、魔法の構えをする。
「『シャイニングブロウ』!!」
みたところ、光属性と他の属性の複合といったところか。恐らく風属性だ。近距離で強さを発揮するタイプにも見える。
俺は距離を取り、呼吸を整える。そんな中、勇者が話しかけてきた。
「もう一度聞く。君は誰だ?」
「ん〜、そうだな。周りからは『漆黒の暗殺者』と呼ばれている。これで満足か?」
勇者は先刻からの焦りがさらに顔に現れる。これはチャンスだ。
「おいおい、だめだろ、戦闘中の邪念は捨てなきゃ。」
「『チェイシングアロー・サンダーエンチャント』」
勇者の後ろから本体である俺による3本の雷の矢で、勇者の聖剣を落とすことに成功した。こうなればもう勝ちだな。
__________グサッ。
勇者の体からまるで薔薇のように真っ赤な血が流れ出る。俺は勇者に勝ったのか。
なにか、心残りを感じた気がしてならない。これじゃあ面白くもなんともない。俺は俺の心のなかにある、何かに動かされ、勇者に回復魔法をかけた。
「『グレイトリカバリー』」
高位の回復魔法によって、勇者の傷がみるみる治っていく。俺が変わり始めたのは、この時からだった。
勇者が起きる頃には、とっくに日は暮れていた。
「おっ、起きたか。」
「……っ!」
まだ俺に警戒を解いてはくれないようだ。
「そんなに警戒しなくていいよ。」
勇者の頭の上にはてなマークが浮かぶのが容易に想像できた。そりゃ混乱するだろうな。
「色々質問したそうだけど、まずは飯にしないか?もう夜だし。」
その時、勇者の腹から、なんとも情けない音が聞こえてきた。
「はっはっは。勇者とはいえ空腹には勝てないようだな。」
勇者はバツが悪そうな顔をする。
「ほら、食えよ。そこの川で取ってきた魚だ。」
なにやら迷っている。腹が減ってるなら食べればいいのに…。
「……?…!毒なら入ってねぇよ。ほら。」
そう言って目の前で焼き魚にかぶりついてみせた。勇者も安心したのか、
「……ありがとうございます。」
といって食べ始めた。礼儀正しいやつだな。
「おいしい……!」
「だろ?だから野宿は意外と好きなんだよ。」
その後、勇者はとても美味しそうに食べきった。
「それでなんだけど……。」
敬語がなくなっている。やっと俺を敵じゃないと判断してくれたのか、少し嬉しいな。
「わかるよ、質問だろ?いくらでも受け付けてるよ。勇者さんを殺そうとしたんだからな、このくらいはしてやらないとな。」
「ありがとう。それで、聞きたい質問は3つだ。一つ、なぜ僕を殺そうとした?二つ、誰の指示だ?三つ、僕を生かした目的は?」
「まとめてくれてありがたい。一つ目は簡単だ。勇者の暗殺依頼が入ったから。ここまではわかるだろうな。二つ目は依頼だから伏せさせてもらう。三つ目は………。」
「三つ目は……?」
「面白そうだったから。」
「え?」
勇者は急に間の抜けた声を出す。
「ふっ、すごい理由だろ。」
「まぁ、確かにある意味すごいけれども。」
「そういうわけだ。他にも細かい質問はいいのか?」
「………それじゃあ、君は君以外にも仲間がいるの?」
多分、最後の攻撃は俺の味方によるものだと思ってるな。
「いや、いない。戦闘中の補助は俺本体だ。」
「!?どういうこと?」
「俺はスキルで俺の分身を作り出すことができる。目の色以外、行動も容姿も全く変わらない。」
「それで分身を僕の前に出して戦ってたのか。じゃあ僕は絶対に勝てなかったんだ……。」
「そう落ち込みなさんな。俺は暗殺なら最強だが、それ以外ならお前とトントンさ。」
そこで俺はふと、他の依頼があったことを思い出す。
「……!そうだ、そろそろ行かないと。聖剣はそこに置いてあるから。」
「もう行ってしまうのか。」
「ああ、これの仕事を必要とすることは多いからな。」
「………人を殺すのは辛くないの?」
「……もう慣れたさ。」
さっきから思っていたが、この勇者、他者にとても優しい。さすが勇者と言われるだけある。
「……そうだ。お人好しの勇者さんにサービス。」
「…?なに?」
「俺に依頼した依頼主は………。」
「「「お前のパーティーの魔法使いだ。」」」
勇者は固まってしまった。この勇者なら、驚きより裏切りの理由の方に気がいっているのだろう。きっと信頼しきっていたのではないか。
「……そんなわけないだろ…っ!デュードをばかにするな!!」
魔法使いの名はデュードと言うのか。まぁ、俺には関係のないことだが。
「俺は事実を伝えた。これをどう受け取るかはそっち次第だ。じゃあな。」
「……!待て……!!!」
俺はさっさとその場を退散した。




