表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

22、魔王とヤンデレな勇者(妹)前編_妹がやって来たようです

コメディ無し&ちょっと長めです。


前後に分かれます。



___


昼の事……


何処からか帰ってきたマンティークは、何故か機嫌が良った。

何があったかは知らないが

険悪な雰囲気の中にも関わらず

鼻唄まで歌っていた。


そんな調子でチェスの勝負で当番を押し付けられた、お偉いさんへの今月の城内状況の報告のため出掛ける準備を始めていた彼だったが



「あー、そうそう…ファー…今日、城の見回りだったよね?」



不意にファフニールに話し掛け



「もしかしたら、深夜に迷惑な客が来るかもしれないから……一応注意しといて」


意味ありげにそう言って、部屋を出て行った。


___


……まさかこの人がお客さん……なわけないですよね



昼間にあった出来事を考えながら


鈍重なる巨人という名に相応しく無く

その巨体からは想像も出来ないようなスピードで攻撃を繰り出していた。


本来の彼女にこれ程のスピードは無い


ワームと同化し、具現化した巨大な身体は完全にファフニールと一体化しラグタイム無しで自由自在に動き回ることが出来る

しかし、その巨体故にどうしても鈍重な動きとなり

それではこの相手に対応出来ない事は即座に理解していた。

そのため、勇者に教えて貰った魔術で身体能力を上げスピードを補っていたのだ。


完全に殺る気満々のファフニール


篭める一撃一撃が全て全力で一切の手加減は無い


並の勇者なら、避ける事も出来ず数秒でのされるであろう攻撃。


だが、相手はヒラリヒラリとファフニールの攻撃を嘲笑うかのように避けていく


当たる気配の無い攻撃

魔術の補助があるにも関わらず

身体が悲鳴を上げる……が

それでも攻撃を緩めなかった。


“これを魔王に会わせる訳にはいかない”

攻撃を止めたら殺される…


それ程までに、ファフニールはこの存在を危険視していた。


次々と凹む城壁


相変わらず当たらない攻撃、


暴れ回っている事で相手も近づけないでいるようだ


だが、ここに来て慣れない魔術に突発的な激しい運動

無理をした事が祟り


ビキッ


「……あ」


腕か攣ってしまった。


ヤバい


と思った時にもうは既に遅かった。

瞬時にその腕を足場に

ファフニールの背中に飛び乗り、

一切の躊躇もする事無くその切っ先で彼女の腹を貫いた。


_______________


執務室にて……


ギィ…ギィ…


魔王は行儀悪く机に足を乗せて椅子を前後に揺らしていた。

勇者が去ってから暇を持て余し、ふて腐れている魔王………一向に気が晴れる気配は無い。



そんな所に執務室の机の端の水晶が輝きだした。

侵入者を知らせる信号だ。



「……………」



魔王は空間を繋ぎ執務室から祭壇へと降り立った。


昔から繰り返してきた、いつも通りの出陣


正直、今の魔王は勇者との戦いなど気が乗らないが魔王が勝負をほうり出すなど以っての外だ


玉座に座り、勇者が来るのを踏ん反り返りながら待った。


あと、どれぐらいかかるだろうか……


大体の勇者は最深部にたどり着くまで

短くて2時間、長い場合だと半日以上かかる

それは、侵入者を感知した城が様々なトラップや障害を出現させ、自分の分身が速やかに侵入者を迎撃体制に入るからであり


たどり着くまでに息絶える勇者も少なくない


城自体か複雑な構造をしている事も勇者の足取りを阻むも一つの要因だ

だが……


バゴン


爆音と共に扉と青い影が後方に吹っ飛ばされたのを見て………魔王は目を見開いた。


「う……」


扉と共に吹っ飛ばされたのは、力を解放し透き通る透明な肌を持つ青い人魚の姿をしたラプラサスだった、扉のあった場所には手を翳す紅い鎧の勇者が居た。

城に来た新たな勇者がラプラサスごと扉を破って押し入って来たのだ。



「な………」


思わず玉座から立ち上がった。

驚くのも無理はない、侵入してからまだ15分も経っていないのだから

見ればその紅の勇者の横で、腹から血を流し体中痣だらけで息も絶え絶えなファフニールが赤い髪を掴まれ引きずられていた。

目が虚ろで焦点が合っていない

恐らく、何らかの術で操られ道案内をさせられていたのだろう



「ふん……」



もう用は無いと放り投げ、留めだといわんばかりに魔術を放った。



……が、素早く羽根を生やした獣人、マンティークがファフニールを胸に抱き抱えその攻撃を掻き消した。


「っぶねぇ」



舌打ちをし、まぁ良いと魔王に向き合った紅の勇者。


冑を脱ぐと

冑の下から現れたのは白髪、碧眼の少女

まだ成人していないであろう幼い顔立ちとは相反して憎悪、侮蔑、嘲り、少しの狂気を孕んだ目が魔王を睨んだ


そして魔王に問うた



「クリスお兄様は何処?」



「………クリス?」



「惚けないで……ここに居るのは判ってるの……」



どうやら人を捜しに来たらしい。


ついこの前去って行った勇者の事か?

……にしては歳が近すぎる気がする

何にせよ、この侵入者の質問に答えるつもりも話をするつもりも無かった。



「誰だか知らないが………」



「なら、力ずくで聞き出すだけ」



言い終えた時には、既に魔王の目の前に接近していた。



「!?」



閃光の如きの一閃を紙一重で避け、間を置かず迫る二撃目を跳んで回避


後ろの玉座は無惨にも粉々に砕け散った。


相手が女だと完全に油断していた。

常軌を逸したスピードの攻撃に固唾を呑んだ。


いったい彼女が何なのかは解らないが

ただ一言、言えるのはこの勇者が相当の実力の持ち主であるという事だ……

魔王は、手近に転がっていた、装飾用の槍を引っつかみ、突っ込んだ。



「「魔王様!!」」



魔王に加勢しようとラプラサスとマンティークが近づこうとしたが無駄だった。


刃か交えた瞬間に繰り広げられる猛攻

目にも留まらぬ、打ち合いの末に

移動しながらの数十、数百の魔術による弾幕戦、

弾幕が緩まった所への不意打ち、

瞬時に展開される防御壁、

すかさず繰り出される反撃、

カウンター、回避………


次々に変わる戦況……

もはや、彼等が手を出せる領域ではない、こちらに被害が回らないようにするのが精一杯だ

次元が違う。




一見互角にも見える戦い、しかし実際はそんな物ではないと戦っている魔王自身が一番よく判っていた。

手加減されていると……


いつも戦っているから解るが全力でかかって来る敵は少なからず緊張が見られ攻撃の質も均一でムラが少ない(全力だからこそそれ以上もそれ以下もない)が、この少女には全くもってそれが見られない


それにどの攻撃も一撃で魔王の命を奪うものはない、


完全に嘗められている

証拠に、今の魔王の出せる限りの力を使った攻撃を受けても彼女は余裕な顔だ




本来の力を使えば良い勝負になるのだろうが、魔王としてのプライドがそれを許さなかった。


勇者との戦いで力を解放なんかしない

ワザワザ正体を現す必要なんか無い


魔王の頭はある種の強迫観念、に支配されていた。

相手の放った風の刃を同じく風の刃で相殺し、続けて氷結の魔術で相手の動きを封じようとする

が、素早く飛びのき、幾十もの光の矢を放つ

防御壁で受け止め、幾つもの闇の剣を頭上に降らせる、それを器用にかわし猛スピードで迫る敵

牽制しようと炎の球をぶつけるが、相手はその炎を全くものともせずに突っ込み




……魔王は肩を貫かれた。そして、傷口だけでなく全身を駆け巡る激痛、その痛みに魔王は覚えがあった。

外部から異質な魔力を流される感覚

ただ、違いはその痛みが相手をいたぶり、苦しめる、悪意の篭ったものであるという事

気絶するギリギリの所で

生かさず殺さず痛みを与える



「吐く気になった?」



剣を深く減り込ませながら再び、魔王に声を掛ける、


「………!!っが!ぁ!」



魔王が痛みに声にならない叫びを上げる

まるで虫けらでも潰すように傷口をえぐる少女

何時まで続くかと思われた蹂躙は

魔王と紅の勇者の間に出現した光の壁によって止められた。


突然の第三者の介入に警戒するが

入って来るその姿を見て少女の顔が一気に綻んだ。



「お兄様!!」



それは昨日の朝、出ていった、勇者その人だった。


しかし、魔王城の四人とは誰とも視線を合わせようとはしない


まるで、周りには誰もいないと自分にそう言い聞かせていたように


小走りで近づく少女に勇者は周りを努めて無視して話し掛けた。



「………クレア……帰ろう」



途端にパアッと夢心地の笑顔を浮かべて、頷いた。先程の戦いが嘘だったかように、少女は完全に少女だった。



「待ってて下さいね、今ソイツに止めを刺しますから」



今、魔王は流された魔力のせいで身動きがとれない

今の魔王なら、簡単に殺せるだろう

まるで屑篭にゴミを捨てようとするような感覚で止めを刺しに向かう彼女を………手で制した。



「………ダメ……だ」



訳が解らないといった顔の少女に勇者は

まるで懇願するように言った。



「………魔王は……友達…だから」



そう言った



「う……嘘でしょ、お兄様!!??」



信じられないと驚きに目を見開き

否定する事を期待して兄を見つめる少女

だが、期待する言葉は返ってこない。



「そう………わかりました……」


少し陰りを帯びた彼女は、

ゆっくりと勇者……クリスに抱き着き、と同時に電撃がほとばしった。



「……!?っ?」



思わぬ不意に避ける間もなく、勇者はその場に気絶した。

少女は優しく抱き抱え兄を床に寝かせる

顔を魔王らに向けると



「……そういう事なのね………………………お前らが兄様をたぶらかしたのか」



力が渦巻き、少女は顔を凶悪に染め

もはや、釈明の予知は無いとばかりに睨む

ただならぬ殺気は、誰も生かしては帰さないと暗に示していた。



「もう、生かしておく理由も無い、楽に殺してやろうと思ったけど……最期までいたぶって苦しませながら殺してやる」



それまで勇者が居たことで静観していた二人は危機を察知し一気に襲い掛かった。

ラプラサスは、無数の氷の弾丸を身に纏い

マンティークは、高圧電力をその手に溜めて


だが、攻撃は届くこと無く、見えない力によっていとも簡単に弾き飛ばされてしまう。


壁に激突して二人は崩れ落ちた。


もう戦力は無い……絶体絶命の危機………にもかかわらず



「ク……ククッ……」



その場には相応しくない笑い声が魔王の口から漏れ。



「アッハハハハハハハ!!!!!!」



ついには本当におかしそうに腹を抱えて笑い出した。

突然の魔王の笑いに少女は不快に眉を歪ませた、痛みのあまり気でも狂ったのかと見つめたが



「ハ、まさか……勇者が魔王に向かって友達とはな……とうとう俺も魔王らしく無くなってきたなぁ……」



その時になって少女は魔王の異常に気づいた、肩に空けた風穴がいつの間にか跡形も無く消えていたのだ、それだけでは無い、徐々に変わっていく魔王の姿



「まぁ、本当に今更だ……今この場で魔王らしさを語るなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある」



魔王の内包する魔力が恐ろしい程に膨れ上がっていくのを感じた。



「安心しろ……最っ高に手加減してやる」


漂う王者の風格………

そう言って“彼女”は少女を見下ろした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ