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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ

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城塞都市コトン・ド・テュレアール

 ほぼ廃墟のようなパッツィ商会の中に、()の遠吠えが響き渡る。


「……えっとカシムさんとハチさん?」


 気持ちが高まって遠吠えをしてしまったハチは、口元を抑えてカトルを見る。

 小石丸はまだ楽しそうに「わおーん」と吠えている。

 そういえばハチは常に顔を隠して黙っていたし、ライカは帽子さえ取らなければ人間そのもの。

 名前以外を伝える機会がいままで無かった。


 カトルは無言でハチに頷くと、彼はフードを脱ぎ、マスクを外す。


「……無口な方だなあとは思ってましたが……コボルトでしたか」


 コロはハチの顔をゆっくりと見る。

 ただ、あまり驚いた様子は無かった。


「……驚かないのか?」


 カトルの言葉に、コロは首を横に振った。


「いえ、驚いてはいるんですよ。何日も一緒に過ごしていて気づかなかったことに」


「隠しててすまん。機会を逸してたのもあるが、どう説明していいのか分からなくて」


 コロは、もう一度強く首を横に振った。


「いえ。隠すのは当然です。町の中に魔物がいるとなったら大騒ぎになりますし」


「ちなみに、ライカも魔物なんだが」


「……え?」


 カトルの言葉に、ライカは帽子を取る。

 さすがのコロも、今度は驚きを隠せなかった。


「あ、アルラウネだったんですか!? アルラウネってもっと植物っぽいと思ってました……」


「村の近くの森にコカトリスが出た時に、一緒に戦ったのがハチとカシムで、毒に侵された俺たちを助けてくれたのがライカなんだ」


「……なるほど。不思議な雰囲気のみなさんだなあとは思ってましたが……これは驚きました」


 コロは、カトルと話しながらライカの頭の葉っぱをゆっくり観察していた。


 ハチもライカも、不安そうにコロを見つめていた。


 カトルの村では、唯一カトルの家族だけが友好的だったが、会う人会う人に恐れられた二人である。

 コロは二人をどう思うだろうか。


「コロ、ライカすり潰す?」


 小石丸の言葉に、ライカの体がびくりと跳ねた。


 コロは即座に首を振る。


「っ。不老不死の妙薬だろうと、さすがにしませんよ!」


 不安そうな二人の気持ちを代弁するように、カトルが口を開く。


「コロは――二人が怖くないのか?」


 この言葉に、コロは怒ったように眉をひそめた。


「……カトルさんは二人が怖いですか?」


「もう二人とも仲間だからな」


 コロは、さらに口を膨らませて、わざとらしく不機嫌な表情を作っていた。


「ボクは仲間じゃないんですか?」


「……愚問だったな。すまん」


 頭を下げるカトルに、コロは硬い表情を崩す。


「ふふ、いいんです。僕を信じて明かしてくれたのは分かってますし。ちょっと意地悪したかっただけです」


 コロの笑顔に、ハチとライカもほっとした表情を見せる。


「ちなみに、カシムさんは本当に人間ですか?」


「それは、俺も…………分からん」


 相変わらず難しい話にはついていけない小石丸である。

 きょとんとしながら他の四人をキョロキョロ見ていた。


「――あ。ちょっと待ってください」


 ふと、何かに気付いたようにコロはカトルを見る。


「ん? どうした?」


「えっと、今日は三月二十五日ですよね」


「……ああ、それで?」


「――城塞都市の闘技大会、開催されるの明日です」


「…………城塞都市までって遠いか?」


「徒歩で二日かかります」


 どうやらまた走る必要があるらしい。

 時間に余裕のなさすぎる魔女の依頼にため息をつきながら、カトル達は大急ぎで旅装を整えるのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 商業都市ケアンテリアから、城塞都市コトン・ド・テュレアールは比較的近い。

 徒歩で二日の距離であれば、馬に乗れば一日かからず往復できることになる。


 だが、小石丸達一行には、そんな高価な乗り物に乗る余裕はまだない。


「ハア、ハア……なんか走るのもだんだん慣れてきたよな」


『カシム様に……ついていけるようになった気がする』


「二人とも、すごい! じゃあ、もう少し、早く走るよ!」


 意外にも、走る速度を抑えてくれてたらしい小石丸の言葉に絶望しながら、一行はひたすら走った。


 ただ魔の森とは違い、足元は綺麗に整えられている舗装路。比べ物にならないくらい走りやすかった。


 六時間ほどで、城塞都市が見えてきた。


 隣国との戦争時には防衛拠点となる城塞都市コトン・ド・テュレアール。


 街の全てが高い城壁に囲まれていて、城壁の上には物見の塔が立てられている。


 戦闘用に作られた都市のため、城壁の外は深い堀で囲まれていた。


「ゼェ……ゼェ……つ、着いたぞ」


 相変わらず息の切れていない小石丸に、驚きの目を向けつつ、カトルが呟く。


 さすがに“城塞都市”と言われる街だけあって警備兵も多い。


 しかし、ここでも特に検問などはされず、自由に街に入れた。


『……城塞都市にしては、警備が緩すぎないか?』


 調べられれば一発で魔物とバレる見た目をしているハチにとっては助かったが――裏を返せば変装ひとつで穴だらけだ。


 今がよほど平和なのか、それとも敵襲には即座に対応できるほど軍事力に自信があるのか。


「闘技大会のせいか。参加者と見物人が多すぎて、いちいち検問していられないんだな。それに――」


 カトルは町並みを見回す。


 街の中は、熱気に包まれていた。

 まさに祭り。多くの屋台が立ち並び、見渡す限り人で溢れている。


 そして、至るところに白狼の旗が立っているのが見えた。


「白炎のゾルバがいる町に敵が来るはずがない――そう思ってるんだろうな」


 小石丸が、目を輝かせて落ち着きなく走り回っている。


 カトルにも分かるほどたくさんの屋台が、美味しい匂いを漂わせていた。


「お肉!! いっぱい!!」


「牛、馬、羊、豚、鹿、鳥、ラクダ、ダチョウ――肉の屋台だらけだな」


 戦うための街だからだろうか。

 屋台のほぼすべてが肉料理の屋台である。

 あまりにも美味しそうな匂いが強すぎて、小石丸が涎を隠しきれていない。


「カトル! 食べよう! お肉!!」


「ま、待て。大会に参加登録して宿を探してからだ!」


 勝手に走り回ろうとする小石丸と、ハチとカトルの二人で押しとどめようとするが、肉への欲望には勝てず、引き摺られてしまう。


「あれ?」


 肉の匂いに狂喜していた小石丸が、突然立ち止まる。


「カシムどうした?」

「――怖い匂い、ある」


 カトルは答えられずに、ハチを見る。


 ハチは困ったように首を振る。


 二人は、周囲を見回す。


 夕陽を受けて、石造りの壁が赤く染まっている。


 その上で、白い狼の旗だけが炎のように揺れていた。

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