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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
煩悩の犬は追えども去らず

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敗北のあとで

 冬の風が、踏み荒らされた草を鳴らしていた。


 ――誰も動けなかった。


 海禰が武器を持っていれば、死んでいた。



「なあ、カシム!!」


 重い空気を破ったのはカトルだった。


 彼は、鼻についた血を必死に拭う小石丸に声をかける。


「さっきの奴、魔王を倒すとか神がどうとか言ってたが何者なんだ!?」


 カトルの問いに、小石丸は鼻を拭う手を止めずに答える。


「……あいつ、おれと、陽くんを殺した」

「殺した?」



(家族を、ということか?)


 話の見えないカトルは、ハチに視線を送る。


『オレは……もう少し強いと思っていた』


 ハチは、ついに膝を抱えて座り込んでしまっていた。


『コカトリスに人間達、さっきのカイネと名乗った男。カシム様。誰にも勝てないじゃないか』


 明確に落ち込むハチに、カトルは言葉が分からないなりに共感を覚えた。


 カトルだって魔物討伐の為に村を出たのに、結局誰にも勝ててないのだ。

 小石丸がいなければ、コカトリスにも、丸腰の海禰にも殺されていたに違いない。


 槍を握るカトルの指先が、まだ震えていた。


「――でも」


 カトルは歯を食いしばって立ち上がる。


 空気の冷たさが、恐怖で昂ぶったこめかみを撫で、思考が戻る。


「誰も死んでない」


 誰にともなく呟く。


 その声に反応して、ハチが立ち上がり、小石丸は近づいてきた。


「なあカシム。お前は主人を探してるんだよな?」

「うん。陽くん」

「じゃあ、一度うちの村に寄って準備をしてから――商業都市に行こう」

「しょうぎょう都市?」

「ああ。今いる街道を北東に行くと俺の村があって、南西に行くと商業都市ケアンテリアだ」



 カトルは方角を指さしながらハチと小石丸に説明する。


 ハチが人間の言葉を分かっていることは、もうカトルも気づいていた。


「ケアンテリアにはな、全てを見通すと言われている()()がいるんだ」

『商業都市に、魔女?』


 ハチの表情から疑問を読み取ったカトルは、言葉を続ける。


「金に貪欲な魔女だから、金になる商業都市に住んでるらしい。金さえ払えばどんな探し物でも見つけてくれる」

「探し物? 陽くん、見つかる?」

「ああ、恐らく。俺も会ったことはないが実力は確かのようだぞ。ただ――」

「ただ?」

「料金が高い。金貨にして十枚。俺の年収、十年分だ」


 小石丸にもハチにも、金貨の価値など分からない。


 ぼんやりと首を傾げる小石丸を見て、カトルは言葉を続ける。


「金貨十枚で、町にそこそこ大きな家が持てるぞ」


 カトルの説明になんとなく困難を察した小石丸だったが、そこは元飼い犬。

 もちろんお金など稼いだことも使ったこともないため、大変さが分からない。


「まあ大金だが、カシム達なら商業都市(ケアンテリア)で稼げるだろう。それに()()()()()()はずだ」


『商業都市に魔女がいて、修行にもなる?』


 疑問の表情の小石丸とハチに、カトルは言葉を続ける。


「ま。ここにいても仕方ないから一度村に行くぞ」


 海禰がカトルの村、ルナヴィルに向かった可能性も否定できない。


 カトル以外の魔物討伐に来た自警団員たちは、コカトリスとの戦闘後に村へ帰っている。


 とはいえ海禰が村に現れたら、彼らだけでは対処できないだろう。


 恐怖を思い出したように、カトルが全身を震わせる。


「まあカシムの一撃で手負いになってたから、あの男も無茶はしないと思いたいが……」


 カトルの言葉に、ハチが無言で頷く。


 小石丸は真面目な顔のまま――お腹がグゥと盛大に鳴った。


「ははは。ずっと戦い詰めだったからな。うちで飯でもご馳走しよう。そのあとケアンテリアまで一緒に行ってやるよ」


「ご飯!! カトルも一緒!!」


「ああ、そもそもお前たちだけだったら……ケアンテリアに入れもしないと思うしな」


 小石丸はカトルの言葉に、きょとんと首を傾げている。


 カトルはハチとライカを見回して、ため息とともに言った。


「魔物連れで大きな町に入れると思うか?」


 ハッとするハチを見て、カトルはもう一度深く嘆息する。


「じゃあ、一度村に行くぞ」


 カトルは、一行を先導するように歩き始めた。



――魔物は町に入れない。


 その言葉を、本人が忘れていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お、カトル無事だったか――って魔物おおおお!!?」


 槍を構えた見張りの村人たちが、二歩後ずさった。



 コボルトとアルラウネ。


 一人は犬面。

 もう一人は頭から大きな葉っぱ。


 有名な魔物の二人は、村の見張りに立つ男たちをひどく怯えさせた。

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