第三十六話
な……何してんだあの二人……。
暗くて見えずらいが、カズチがとりあえず全身裸になっているのが分かる。
な、なんで……?
そしてその下に乗られているナズマも……恐らく裸になっている。
……見ない方がいいやつか?
俺は今とても葛藤している。
姉弟とはいえ、こんなことするのか?
そもそも勘違いなのでは?
ていうかそもそも俺バレたら殺されるんじゃ?
様々な思考が脳を一気に通過する。
絶対にこんな場面見てはいけないはずだ。
「…………けど……何故だ……」
視線が自然とそっちに行ってしまう。
歩美さんというものがありながら……何故他人の営みの観察なんてものに……。
「ていうかそもそも、か、かか勘違いかもしれねぇしな。そんな……何も」
誰にも聞こえない様に小声で言い訳を重ねつつ、また視線を戻し…………。
「あっ……んぁっ……」
「ふふ……相変わらず……可愛いらしいですね……ナ、ズマ……んっ」
二人が甘い声を上げながら激しく動いている。
ベッドがギシギシ音を立て、水っぽい接続音も聞こえた。
勘違い……じゃない。
俺は全てを理解した上で──。
全速力で自室へと逃げ去った。
翌朝。
俺はエントランスの広場の机に顔を突っ伏している。
「俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない」
昨日の記憶を消すために、まるで呪詛の様に永遠に口ずさみ始める。
すると背後に声が聞こえる。
「歩美さん?」
「はい! 何も知りませんです!」
振り返りながら慌てて言う。
そこにいたのはオリンジだった。
「あ、歩美さん? どうかなさいましたか? ずっと同じ言葉を繰り返していましたが、呪術の練習ですか?」
「違うわ! ……えっと……実は」
俺はオリンジに全てを明かす。
すると彼は「ふむ」と考える。
「そういうことでしたか。まぁ、姉弟であれそういったことはあるのではありませんか? 見て見ぬふりをしてあげるのが最大限の優しさです」
「そ、そうだよな……ありがとうオリンジ」
「お役に立てて何よりです。私は用事がありますのでこれで」
「おう。頑張れー」
オリンジを見送ったほとんど同タイミングに。
「歩美。おはようございます」
「うっぷすっぷす!?」
カズチの乱入に俺はひっくり返った声を出す。
彼女は首を傾げて笑顔で尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
「え、えっと……その」
「……もしかしてですが。昨晩のことですか?」
「さっ!? 昨晩ってなんの……」
「とぼけなくても大丈夫ですよ。歩美が盗み見ていたことは分かっていますから」
「えぇっ!?」
「うふふ。私、魔力探知能力は高い自信があるので」
全く怒っている様子が見られない。
むしろ楽しそうに話している。
「えっと……その。ごめん」
「構いませんよ。歩美になら、話しても問題ないでしょうし……」
すると彼女の顔がうっすらと赤くなる。
そして「はぁ」と愛おしそうな表情になって頬杖をつく。
俺はその顔を見てゴクンと息を飲み込む。
「……本当に昨晩のあれを?」
「へっ? あぁ……ぬぅん」
何と応答すればいいか分からず意味の分からない言葉を発して頷く。
突然彼女の顔がスンと真顔になり、話し始める。
「……実は。私とナズマは、本当の姉弟では無いんです」
「……ふぇ?」
唐突な告白に俺は間抜けすぎる声を出す。
理解が追いつかないが、続けてカズチは話した。
「本当は私達は……ただの同じ街で育った友人なんです。私の両親が生まれた際に他界してしまって、住まわせて貰っていたんです。なので姉弟みたいなものだったんです」
「……どうして姉だったんだ?」
「ナズマは、幼い頃にはほんとに力も弱くて度胸も無かったので、つい守りたくなってしまうくらい可愛らしかったんですよ? ナズマの親にもそう言われ頼られてきたので」
「そうだったのか」
絶妙に突っ込みづらい内容だったので、俺は苦笑いを決め込んだ。
「毎日幸せでしたね。ナズマは可愛らしく頼りなかったですが……どこか男らしい行動も取ってくれて……とても素敵なんですよ?」
「……何となくわかるよ」
「うふふ……ですが、ある日……街が凶悪なモンスターに襲われて壊滅しかけたことがあり、ナズマの両親は死んでしまいました。その日からは私達はずっと二人なんですよ」
「……大変だったな」
「ええ。楽しいこともありましたが、過酷で辛いこともありましたね。ですが、二人で力を合わせて乗り越えることができましたから。本当にナズマは頼れる人です」
尊敬と愛しさが入り交じった顔と声音で言う。
なんだか、ちゃんと姉弟愛を感じる。
俺は微笑む。
「……良かったな」
「ええ……それで、昨晩のことなんですが……」
「え? ……あ」
完全に忘れていた。
カズチはほんのりと顔を赤くする。
「その……ひと月前にですね? 私から半ば冗談のつもりで誘ったらですね……ナズマが真に受けてしまって……その時に互いに癖になってしまったようで……昨夜もそれで……」
「え……あれガチだったの!?」
「は、はい……えへへ」
カズチは顔を真っ赤にして頬をほころばせる。
つまり俺は、この二人の夜の営みを目撃して……。
「…………」
なんと答えれば分からず、捻り出した言葉は。
「……お熱いですね」
「……ありがとうございます」
そう言って二人で苦笑いし合った。
続き。




