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第二十一話


俺は一度、歩美さんが自殺仕掛けていたのを止めたことがある。

俺が未遂現場に遭遇した訳ではないが、歩美さんが前に言っていたのだ。


『私、死のうとしてた時があったんだ。友達に雨の日に傘を壊された時があって、もう嫌になっちゃってね』


歩美さんが傘を持っていなかった日があるのは覚えている。

朝会った時は持っていたはずなのに、雨の中傘もささずに帰ろうとしていた姿を見て不思議に思っていた。

最終的に俺が駅まで傘に一緒に入ったが。

あの時は話をする前に帰ってしまったから知らなかったが、理由を知った瞬間吐き気がした。

だけど、歩美さんはこう言った。


『だけど……あの時凌平君が傘に入れてくれなかったら……多分どこかで私自殺してたかもね』


歩美さんは簡単に自殺宣言をする。

彼女の歪んでしまった精神なら普通なのかもしれないが、俺にはそれを聞くのが耐えられなかった。


『だから。ありがとう』


彼女の感謝の言葉は、何故かそこまで嬉しいものでは無かった。

"自殺を止めてくれた"では無くて、"普通のこと"で感謝されたい。

俺はそう思っていたから。


俺はティアさんと対峙し、刃の先を彼女に向けている。

その彼女の目は、何だかあの時の歩美さんに似ている気がした。

だけど、もうティアさんを説得できる気はしない。

俺は深く息を吸い込み、神経を研ぎ澄ます。

ふと、修行中にオリンジに教わったことを思い出す。


『歩美さんは。失礼かもしれませんが、体が細く軽いです。だからこそ、魔力を足に集中させて強化魔法を施せば、爆発的な速度になると思います』


俺は幸い自分の持っている"魂斬り"の効果で、生き物の体は簡単に切断できる。

プロトスに強化魔法も無しで、この細い腕で対抗出来ている時点で腕に魔力を回す必要は無い。

俺の魔力総量は一般人と殆ど変わらないらしい。

だからあまり無駄には使えない。

ならば、足に"全振り"する。

だけどまだタイミングを計らないと。

ティアさんの一瞬の油断を狙う。

ティアさんが腕をこちらにかざすと、青色の魔法陣が現れる。

すると彼女の周りの雨粒が静止し、魔法陣の上に集まり出す。

やがて大きな水の球体となった雨粒が、砲弾のように放たれ俺へと迫る。

俺はそれをギリギリで躱す。

水の塊であっても喰らうことはなるべく避けたい。

俺はティアさんに駆け寄って、刀を振るう。

だが、ティアさんの周りに水のバリアのようなものが現れ刃を阻んだ。

その直後、彼女が言った。


「足元、がら空きよ」


俺が気づいた時にはもう遅く、ティアさんを覆っていた水のバリアがパァンと割れ足元に勢い良く流れた。

足を掬われた瞬間、大量の水が意思があるかのように俺を喰らい呼吸を奪う。

ティアさんが悲しい表情で、水の中に収められた俺に言う。


「残念だけど、さようなら」


すると水が勢い良く俺をビルの屋上から空中へと投げ出した。


「っ……!」


このままでは無傷では済まない。

重力に従って為す術なく落下していく俺は、空中でどこかを掴もうと必死に藻掻く。

だが、ビルの外壁は歩美さんの体の腕では到底届かない。

死を悟るよりも早く、俺は目を閉じて歯を食いしばる。

その直後、雷鳴に似た音が耳に響く。

同時に俺の体から浮遊感が消え去った。

目を開けてみると、そこにいたのはナズマだった。

俺の体を空中でお姫様抱っこして受け止めている。

ナズマがそのまま高く飛び上がり、屋上に着地した。

俺の顔を見て彼は言う。


「歩美さん! 大丈夫ですか!?」


「……お、おう。わりぃ助かった。ありがとう」


「無事なら良かった! それよりも、あの人が敵か?」


ナズマがティアさんを睨んで言う。

俺は頷いてナズマに言う。


「そうだけど……ナズマ、悪いけど手は出さないでくれ」


「な、何故だ? 俺は万全だぞ?」


「……あの人は、俺が戦わないといけねぇ気がしてな」


「だが……」


「頼む」


俺が懇願すると、ナズマはビクリと体を震わせる。

そして心配そうながらも頷く。


「分かった。だがせめて、俺の独断で、危ないと思ったら加勢させてもらう」


「……分かった」


ナズマが後方に下がり、俺はティアさんに近づく。

彼女はとても不機嫌な顔になる。


「……お願いだから……倒れてよ」


そのセリフは、どこか切なかった。


続く

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