表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の方へ  作者: 常圓坊
9/11

第9話 命の使い方と「使命」の目覚め

ある日、昴はふとした思いつきで、寺の庫裡くりの裏に足を踏み入れていた。本堂では、和尚がいつものように護摩の準備をしている。その姿を、昴は静かに眺めていた。護摩壇の周囲に、丁寧に並べられた護摩木。火打石、薪、真言。ひとつひとつの動作に乱れがなく、どれもが“祈りの一部”に見える。和尚がちらりと昴の方を見て、微笑んだ。「手、貸してくれるか」「……はい」その一言で、昴の背中に小さな火が灯った。それ以来、昴は毎週末に寺の手伝いをするようになった。護摩木の用意、灰の掃除、境内の掃き清め、時には檀家の相談相手にもなった。不思議なことに、それまでの仕事では一切感じなかった「心の静けさ」が、この山寺の作務の中にはあった。決して派手ではない。人から感謝されることも少ない。だけど、何かを整えていくたびに、自分の心も整っていくのを感じる。「こうやって、自分を取り戻していくんやな……」昴は小さくつぶやいた。ある日の夕方、護摩が終わったあと和尚が言った。「昴。わしはな、“使命”ちゅうのは、遠くにあるもんやとは思わん。人の人生は、まず“自分の痛み”から始まる。その痛みを乗り越えた人間だけが、ほんまに人を救えるんや。お前さんは、もうその入口におるんやで」昴はその言葉に、強く心を打たれた。思い返せば自分はただ“生き延びたかった”。そして“答えを探していた”。でも今、自分の中で確かに感じていたのは、「この火を誰かに渡したい」という気持ちだった。もう迷っていなかった。あの日、赦しを選び、護摩の火に自分を照らされたあの瞬間から昴の「人生の使命」は、すでに芽を出していたのだ。昴はそっと掌を合わせ、祈った。これはもう、過去の苦しみを捨てるための祈りではない。誰かの痛みに火を灯すための祈りだ。そして静かに、心の中でつぶやいた。「……自分の人生、ようやくここから始まる気がする」夜の寺に、まだほのかに残る護摩の香が、彼の背を押していた。護摩が終わり、火の香がまだほのかに残る中、昴は静かに座っていた。その前に、和尚がゆっくりと口を開く。「昴。命ってな、不思議やろ?」「……はい。最近、よく考えるようになりました」和尚はうなずいて、手元の線香の火を見つめながら、ゆっくりと話し始めた。「命は、まず“宿る”ところから始まる。母親の胎内に、そしてこの世に。それをな、“宿る命”と書いて“宿命”というんや」昴は黙って、和尚の言葉に耳を傾けた。「そしてその命は、死へと向かって進む。それが“運命”や。ただ、死に向かうだけでは、人生は虚しい」「じゃあ、どう生きたら……?」「命を“使う”ことや。積極的に、自分のため、人のため、何かを為す。それを“使命”という」和尚はふっと微笑んだ。「昴、今のお前には、それが見えてきとる。命は流れるだけのもんやない。“使い方”で、生きる意味が決まるんや。命を使い終えたとき、それは“寿命”。寿というのは“ことほぐ”言祝ぐとも書く。ありがとな、この命で一緒に生きてくれて、ってな」昴の目には、ほんのりと涙が浮かんでいた。「そう生きたいです……自分の命を、そんなふうに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ