序章
身体を突き抜けていく激痛。
その痛みにもだえる暇も与えられず、次なる衝撃が四肢を襲う。
焼けつくような感覚のする箇所へ視線を動かす。自分の左太腿に何かが突き刺さっていた。金属光沢を放つ長さ五センチ程度の細い棒。それは紛れもなく釘だった。本来なら、人体に突き込まれる事などありえない代物だった。
釘が刺さった部分を始点に、ジーンズの生地に染みができていく。
それが自分自身の血液だと認識するのに数秒の時間を要した。
右肩。左手の甲。右ふくらはぎ。そして左太腿。
計四か所に突き立てられた鉄製の工具。
傷口からみるみる内に血が流れ出していき、徐々に皮膚の感覚が消えていく。
視界もぼやけてきた。真っ黒な雲に覆われた真っ黒な空。降り注ぐ雨はその勢いを増し、汚いアスファルトに横たわる東雲晴雨の体躯を容赦なく打ちつける。
そんな景色を背景に、一つの人影が確認できる。
先ほどまではその表情も鮮明に拝む事ができたが、今はそうもいかない。
さながらすりガラス越しに見ているかのように、そのシルエットの輪郭は不鮮明だ。
いつしか、その情景さえも見えなくなる。
黒い靄がかかったかのように、視界が狭まっていく。
意識の灯が酸素を失い、少しずつ勢いを衰えさせる。
それが完全に消えてしまう直前、どこからともなく響いてきた一言が鼓膜を叩いた。
「――次に会う時まで、その痛みを忘れない事ね」