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チャラくないぜ、秀才くん


三ヶ森 綾子、一つ学年が上がって初等部2年になりました。

あの闘技大会以来、雫や雨香くんとも一緒にいるようになり、最近では円香を含む四人でいることが多い。


そして、そのメンツで一緒にいるとなると、流石に取り巻き化していた人たちが遠巻きに見るようになり、前のように騒がれることはなくなった。


相変わらず、剣士科では上位の成績を保っているし1年も経つとその差は大きくなって来る。努力をする者はメキメキと上達し、そうでない者は何も変わらない。

努力が前に出てこない者もいるが、そういう人でも当然、努力は報われる日が来るため今後頭角を表してくる筈だ。


そんな平穏な日々を送っているある日のことであった。


「円香ちゃん。」


私と雫と雨香くんと円香の四人でいると、少し離れたところから声がかかる。

四人してその方向を向くと、暗い茶髪の男の子が立っていた。とても真面目そうで、しかし弱々しそうな印象を受ける。少しタレ目だが目鼻立ちはハッキリしていて美少年だった。


「まなと、どうしたの?」


まなと…まなと、真斗!?

攻略対象の!?兎金井 真斗!?


本編ではチャラいはずなのに、髪も明るい金髪なのに、印象もあんな弱々しくないのに、口調ももっと軽い感じなのに!?


私の知っている兎金井 真斗と、いま目の前にいる兎金井 真斗が違いすぎて頭が混乱する。


「円香ちゃんと一緒に帰ろうと思ったんだけど…邪魔だよね、ごめんね。」


しゅん、と悲しそうな顔をしてトボトボと兎金井くんは歩いていく。


「真斗も一緒に帰ろ?」


円香がそう言うと、兎金井くんはとても嬉しそうな顔でこちらに振り返る。


「いいの!?」


そう聞かれたので、私たちはコクコクと頷いた。兎金井くんは柔らかくふにゃ〜っと笑う。本当に可愛すぎる…これがどうなってああなってしまったのだ。


「あの、えっと…僕は普通科の兎金井 真斗、です。一般家庭で育って、えっと、円香とは幼馴染で…あっ、円香とは幼稚園が一緒で!えっと、えっと…。」

「ごめんね、真斗はあんまり喋るのが得意じゃないの。」

「…ごめんなさい…。」


一生懸命に自己紹介をする兎金井くんが言葉に詰まったため、円香がフォローを入れる。

しかし、その言葉に兎金井くんが落ち込んでしまった。


「真斗はとても優秀で、特待生としてこの学園に入ったのよ。」


円香の言葉に兎金井くんは少し照れる。

円香はまるで自分のことかのように誇らしげに胸を張っていた。


「パパもママも、僕の為に一生懸命頑張ってくれてるから、その期待に応えたくて…そしたら特待生になれたんだ。」


ゲームだと更に優秀な妹に引け目を感じてグレちゃうんだよな。

このキャラを失うのは勿体無さすぎる…勿体無いけれど不良キャラが彼の売りだったから果たしてこのままでいて欲しいと願うことはどうなのだろうか。


それにしても、どの登場人物も小さい頃は結構違うものなのかしら…と言っても、円香と兎金井くんだけだけれど。


「親の期待に応えたいって気持ちはボクもわかる。今は剣を極めたいって思いが強いけど、学園に入る前は父上と母上に褒めて欲しくて頑張ってたから。」


雨香くんが静かに淡々と告げる。

何だか少しだけ意外だった、雨香くんが初対面の相手に自身の胸中を打ち明けるなんて。


共感を得られたことが嬉しかったのか、兎金井くんは更に笑顔になる。最初は不安そうだったが、今はとても晴れ晴れとした明るい表情へと変わっていた。


「僕、嬉しいよ。三ヶ森さんに華京院の双子さんみたいな有名な人たちとお話出来て。まさか、僕みたいな平民がこんな凄い人と仲良く出来るなんて。」


えへへ、と柔らかな笑みを浮かべる兎金井くんに私たちも和む。


「私のことはぜひ、綾子とか綾ちゃんって気軽に呼んで欲しいわ。」

「あたしも雫でいいよ。」

「ボクも…雨香って呼んでもいいよ。」


それを聞いた兎金井くんは、ぶんぶんと首を振る。


「そ、そんなの、申し訳ないよ!僕みたいのがそんな。」


兎金井くんはどこまでも自分のことを卑下する。そんなにも自分に自信がないのか。


「でも、私のことは円香ちゃんって呼んでるよ?」


円香が柔らかく、しかし不思議そうに兎金井くんに問いかけた。それに対して、兎金井くんは口をツンと尖らせ抗議の表情を作った。


「だって!円香ちゃんは…幼馴染、だし。」


抗議の姿勢はどこへやら、どんどん声がフェードアウトして、最後にはほとんど聞こえなくなった。


「あまり気にしないでいいと思うよ、昔みたいな貴族社会では無いんだもの。」


私がそう言うと、兎金井くんは「う〜ん」と呻いて数十秒考え込む。それから「わかった。」と頷いた。


「綾ちゃん、雫ちゃん、雨香くん、よろしくね。」


少しだけ不安そうに、そして確かに少し不本意そうではあったが、その顔には微笑が浮かんでいた。


「僕のことも真斗って呼んでよ。」


その申し出にコクリと頷くと、先程の不安そうな表情を吹き飛ばしニコリと笑った。


「実は僕、勉強しかしてこなかったから、こうして名前で呼び合えるような友達って全然いなくて…だから今すごく嬉しいんだ!」


真斗は嬉しそうに、そして楽しそうに言った後にあわあわと慌て始める。


「ご、ごめんなさい、勝手に友達とか言っちゃって。」


そう謝るとまた、しゅんと悲しそうな顔をする。

本当にどこまでも喜怒哀楽の移り変わりが激しい人だ。しかし、可愛いから許す。


「今日から僕たちは友達、それで問題ないよね。」


雨香くんがいつもの如く無表情に言うが、表情には少しだけ照れが入っていた。

一緒にいるようになって、こうした表情の変化を読み取れるようになったことは、仲の良さが深まった証拠だと思える。


「とっても嬉しいな、ふふふ。」


彼は口元を手で覆って嬉しそうに笑いながら「僕は幸せ者なのかな。」なんてポツリと呟いた。


絶対、真斗が傷ついてしまうようなフラグはへし折りたい。けれど、いつがキッカケなのか、何がキッカケなのかは良く分からない。妹が原因とだけしか…制作者よ、もしかして考えるのをめんどくさがったな。


「おにーちゃんっ!」


遠くから小さな女の子の声が聞こえて来た。

たったった、と走ってくるその姿に愛らしさを覚える。真斗がギョッと目を見開いて驚いている。


莉奈(りな)!?…えっと、僕の妹なんだ、ほらご挨拶は?」

「とがねい りな、さんさいです、でもあとちょっとで、よんさいです。」


まだまだ舌足らずな口調で、しかしながらしっかりした言葉遣いで莉奈が私たちに挨拶をして、最後にぺこりとお辞儀をする。


これが、真斗がグレてしまう元凶だと言うの…?

この天使のような子が?


「よく出来ました。」


そう言って、真斗は莉奈の頭を撫でる。それを受けて、莉奈は嬉しそうに笑った。笑った顔がよく似ていて、兄妹なのだなぁと改めて思わせる。


頼りなさそうな印象を与える真斗も、莉奈への対応から頼もしそうな兄のように見えた。


「莉奈、どうしたの?今日は習い事の日でしょ?」

「ならいごと、にげてきた!」


ふんっと、得意気に胸を張る莉奈に真斗は大慌てする。


「だ、ダメだよ莉奈!そんなことしたら!ほら、早く帰ろう。」

「いーやっ!りな、かえらないもん。おにーちゃんとあそぶもんっ!」


手を引く真斗に莉奈は精一杯の抵抗をする。


「だっておにーちゃん、さいきんりなとぜんぜんあそんでくれないんだもん。」


ぷくぅとほっぺを膨らませて言われた言葉に、真斗は少し引いた手の力を緩めた。少なからず罪悪感のようなものを感じているのだ。


実際のところ、真斗は最近勉強に忙しくて妹に構ってあげられていないのだと隣の円香がひっそりと耳打ちした。理由は、特待生であるということからの重圧。


しかし、事実そこまで勉強しなくても問題ない程に真斗は秀才である。

ただ、その妹の莉奈は天才であるのだが。


「おにーちゃん、りなとあそんでくれるってこのまえいったもん。」


莉奈の目が少しだけ潤んでくる。

今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。


「ご、ごめん、ちゃんと今度莉奈の為に時間作るから…ね?」

「ほんとに?」

「本当に。」


莉奈は目をゴシゴシと吹いてからきりっとした表情を浮かべた。


「りな、がんばる!!」


真斗は「えらい、えらい」と頭を撫でた。


「せっかく、一緒に帰ってくれるってなったのにごめんね…今日は莉奈と帰るよ。」


真斗は申し訳なさそうに眉根を下げながらそう言って、ぺこりと頭を下げて莉奈と歩いていった。


「あの兄妹は仲良しだね。」

「2人ともお互いが大好きだからね。」


雫の呟きに円香は微笑を浮かべて言葉を返した。


これが私、三ヶ森 綾子にとって3人目の攻略対象との出会いでした。


3人目、出てきました!真斗と莉奈はこれからもちょいちょい出す予定です!

今さらになりますが、諸々ご指摘ありがとうございます、これからも精進して行きたいと思います!

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