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関西の天才

私、三ヶ森 綾子は現在お兄様の元へ向かっている。


初戦でお兄様が勝ったことが嬉しくて私はすぐさま席を立って駆け出したのだ。

いちいちそんなことをしていたら大変だが、考える程の頭は私にはなかった。


「ぬおっ!?」

「うきゃっ!?」


角を曲がったところでドンっと誰かとぶつかる。あらやだ、おサルみたいな声が出てしまった、お恥ずかしい限り。


「いったいわぁ。」


ぶつかった相手は尻餅をついてしまったようでお尻をさすって痛そうにしている。

かくいう私も、尻餅をついてしまって痛みを感じている。絶対あざになってる、ツライ。


口調から、彼は枢木学園の生徒なのだと推測できた。


「ご、ごめんなさい。」

「いや、わしも不注意やった、すまん。」


わし…個性的な一人称だと思った。

そんな彼は黒い髪を後ろに結い、釣り目がキツイ印象を与える。少し怖い、と思ってしまう。


彼は、うーんと首を傾げて私を見つめた。


「んー、なんやろ?誰かに似とるなぁ。」


まじまじと顔を見られて私は少し恥ずかしくなって目を逸らす。その瞬間に、何かに気づいたように「ああ!」と声をあげた。


「せや、虧月楼の三ヶ森くんに似とるな!」


あー、スッキリしたわぁ…と彼は満足気に笑った。


「あの、三ヶ森 篤也は私の兄です。」


私の言葉に、彼は似てるのも納得という様に頷きながらケラケラと笑った。


「なるほどなぁ、関東の天才くんの妹ちゃんかぁ…じゃあ君も剣は強いん?」


最後の声音に私はぞくりと背筋を震わせる。

威圧感のあるような声音だった、今までの陽気さとはかけ離れたものに恐怖を感じた。


「な〜んて!こういうところに居ると忘れてしまうんよ、わしがまだまだ7歳やってこと。」


先程の恐怖を消し去り、彼はまたケラケラと笑う。

そして知る、私と彼が同い年だという事実。

彼は7歳にしては少し背が高いため、もう少し年が上だと思っていた。


ということは、この闘技大会にも出る資格は無いというのにここにいる。それは何故?


「関西にも天才はおる、あんたの兄ちゃんだけやない。次の試合がどうなるか楽しみで仕方ないわ。」


彼はケタケタと笑う、悪戯をした子供のように。


「ホンマはわしが戦いたかったんやけどなぁ…まあ年齢が足りんかったし、しゃあないわ。せやから、観戦に徹してんねん。でも、言うてしまえばあんまり強い奴もおらん。そこまで勉強にもならへんし、これなら夕霧(ゆうぎり)の剣をひたすら見た方が勉強になるわ。」


彼の言葉の中に関西の天才と呼ばれる野風(のかぜ) 夕霧(ゆうぎり)の名前が紡がれた。

お兄様が関東の天才なら彼女はその対極となる関西の天才である。2人は奇しくも同い年、しかし2人が戦ったことは未だ無い。


「あんた、名前はなんていうん?」

「え?」

「な・ま・え。」


ふいにかけられた言葉に少しびっくりして聞き返す。

すると、1文字ずつハッキリと彼は私に言葉を返した。


「三ヶ森 綾子、私も貴方と同じ歳よ。」

「へー、それは凄い偶然やんな。わしは倉敷(くらしき) 弥助(やすけ)、よろしくな。」


倉敷 弥助、その名前に聞き覚えがあった。確か彼は最も最年少で『九龍朧(くりゅうおぼろ)流』を完全にマスターした神童だと。


三代流派と言われるうちの一つの『九龍朧流』の完全後継者である。


「またいつか…会えたらええなぁ。」


彼はニタリと私に笑いかけて私の横を通り過ぎ去って行った。

私は転生しているため精神年齢は高い。しかし彼はそうでは無いはず…それなのにあの歳であれ程の威圧感と歳不相応の出で立ち。


彼は本当に7歳なのかという疑問さえも感じさせた。


それから私も再び歩き始めてお兄様の元へ向かう。


「お兄様!初戦の勝利、おめでとうございます!」


私がニコリと笑いながらお兄様に抱きつく。


「ありがとう綾子、でも次が心配で仕方なくてね。」

「次のお相手は誰なの?」

「野風 夕霧さ。」


お兄様は困ったように微笑を浮かべた。


第二回戦、三ヶ森 篤也と野風 夕霧の誰もが興味を示したその戦いは、夕霧の圧倒的な強さの勝利と篤也の惨敗という結果に終わった。


彼はその悔しさにより、次の日から更に鍛錬を積むようになり、日に日に討伐隊の任務につく期間が多くなった。そして、数ヶ月後には長期任務を請け負うようになった。




「何をそんなにニヤニヤしているんだ、弥助。」


チーム戦に出場をしない野風 夕霧は倉敷 弥助と共に帰りの列車に乗っていた。


順調に駒を進めた夕霧であったが、結果的にBest8で敗れてしまった。それはやはり、上には上がいるという教訓になった。まあ、その相手が優勝したので、もしかしたら決勝へ進めたかもしれなかったが。


「ちょっと面白いやつを見つけてん。」


まるで、自分と同じような少女。

そんな少女に興味を示した。


「弥助に興味を示されるなんて可哀想なやつだな。」

「それは酷い言い草やなぁ、わしに似とったんよ。」


ギラギラとした獲物を狙うような瞳に夕霧はふっと微笑を浮かべる。

弥助のこんな表情を見たのはいつぶりか。ただ本当にこいつに興味を示された者は気の毒としか言いようがない。こいつは壊してしまうのだ。


「お前に似て性悪ということか、若しくは相当のクズか。」

「そういうこと言ってるんちゃうねん。」


弥助がふんっとそっぽを向いて夕霧に言う。

夕霧が真意を理解しているがわざとそう言ったことを弥助は理解している。

弥助も年相応では無いが、それは夕霧にも言えたことであった。


夕霧も全くもって年不相応で、12歳なのに大人顔負け、いやそれ以上に冷静でいる。

如何に彼らが学園で浮いているか、しかし彼らは人気者である。そのため周りに人が絶えることはないのだ。


「わしだけやない、夕霧…あんたにも似とるんや。正直、わしよりあんたのが似とるかもな。」


ケラケラと弥助が笑うと、夕霧はそれは面白いという様に口角を吊り上げて腕を組む。


「それはどういう理由かな?」

「単に、あんたと性別が一緒ってこと。」

「なんだ、そんなことか…つまらんな。」


夕霧の性別は割と周囲から判断がつきにくい。それは中性的な顔や声、そして男とも女とも断言しづらい背丈。それぞれが功を成しているのか、結果的にどっちか判断されることが無いのだ。


「私はしっかりと女であるのだがな。」


ふふっと笑う彼女に弥助もニヤリと口角を上げた。


「まあ、折角の人生楽しまなきゃ損ですわ。」

「お前は楽しみ過ぎなんだよ。」


夕霧は弥助の頭をわしゃわしゃと掻き回してから席を立つ。列車が到着したようだった。


「楽しめるときに楽しまんと、後悔するんよ…野風 夕霧。」


弥助のそんな呟きは夕霧に聞こえてはいなかった。


闘技大会終了です。

単に夕霧と弥助を出すための回でした。


次回はまだ出ていない攻略対象出そうと思います〜。

関西弁は曖昧なので変だったらごめんなさい。

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