貴音視点
俺は学校中から嫌われている。
廊下を歩けば顔を見て嘲笑されるし、少しでも目が合うとヒソヒソされる。
その事に気がついてからは常に下を向いて誰とも関わらないようにしている。
どうせ傷つくのなら最初から1人でいた方がマシだ。
……というのが、この隣を歩く新藤 丈の意見らしい。
どこからどう見たって眉目秀麗なこの美青年は、自分の容姿を自覚していないらしい。
顔を見て嘲笑されると言っているが、それはあまりの顔立ちの良さについ周りが微笑んでしまうだけだし、目が合うとヒソヒソされるのは仲間内で目が合った喜びを分かち合っているのだろう。
こんな人気者なのに嫌われていると思い込んでるだなんて、なんと贅沢なやつなんだ。
本当の嫌われ者というのは、誰からも声をかけられず、班決めの時も1人溢れ、そもそも自分から話しかけることすらできない程の根暗で、もちろん告白なんてされた事ないまさに私のような者を指す言葉だ。
なぜそんなカースト最底辺の私と学校1番の人気者が一緒に隣を歩いているかと言うと、私たちは幼なじみで帰る方向が同じなのだ。
幼なじみと言っても仲が良かったのは小学生までで、小学校を卒業する頃にはほとんど会話もなくなっていた。
原因は私にある。
引っ込み思案で自分から話しかけられない私にとって、丈は数少ない親友だった。
親同士の関係で生まれた時から一緒にいた私たちは、小学校に入ってからも一番の親友として過ごしていた。
しかし、成長するにつれ丈の美少年っぷりが顕著になっていき、5年生になる頃には学校の大半の女子は、一度は丈のことを好きになったことがあるという状態だった。
正直、当時の私には恋だの愛だのはよく分かっていなかったが、とにかく丈が皆の人気者になってしまったというのは分かっていた。
私は女子にも男子にも友達はほぼいなかったので、丈に他の親友ができてしまったら1人になってしまうと思い、なにも分かっていない幼い少年に許されざる嘘をついてしまったのだ。
「かおりちゃんが、丈のこと嫌いって言ってたよ」
かおりちゃんとは当時丈のことを一番好きと言っていた女子だ。
丈も恋だの愛だのは分かっていなかったが、とても仲良くしてくれていると思っていた人から実は嫌われていた、とすっかり思い込んでしまった純粋な丈は人間不信を患ってしまったのだ。
私は丈に新たな親友ができるのが嫌で、もっと言えば自分が1人ぼっちになるのが嫌でつい嘘をついてしまった。
自分の身勝手な嘘のせいで丈の人生を変えてしまったのだ、と気づいてから私は、元から明るい人間ではなかったがその罪悪感によって更に暗い人間になってしまった。
そして現在にいたるまでその罪悪感を打ち明けられずにいる。
今日こそは全てを打ち明けて丈に謝ろう、と会う度に思うのだが、あまりに人と話していなさすぎて、今では幼なじみである丈にすらも上手く言葉がでなくなってしまった。
これは罰だ。
丈の人生をぐちゃぐちゃにしてしまった私への神様からの罰なんだ。
早く謝らなければ、許してもらえなくても、あの日の誤解が解ければきっと丈は本来いるはずだった煌びやかな日常に戻れるだろう。
脳内で予行練習をする。
「ごめんなさい」
普通すぎて反省が伝わりづらいか?
「ごめんよーっ!」
これは軽すぎる、却下。
「ごめん」
何故か丈の声で再生されてしまった。
丈に謝らせてどうする。
うーーーん、謝るって中々難しいものだな。
と、脳内でくだらない思考を繰り返しているうちにいつの間にか家についていた。
丈は、帰り道が一緒になる時は律儀に私を家まで送り届けてくれる。
近いといえば近いが、遠回りなことに変わりはないのに。
謝罪はできなくてもせめて、ありがとうくらいは言いたい、と喉のところに力を込めるも虚しく丈はさっさと帰ってしまった。
はあ、今日も誤解を解けなかった。
本当はね、丈は皆から好かれてるんだよ、あなたのその美しさに、優しさに気づいてる人はきっとたくさんいるんだよ。
次こそは本当のことを伝えなくちゃ。




