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そうと決まれば話は早い。数時間後、トオルは幽霊が出ると噂の公園を訪れていた。
そこそこの広さではあるが、何の変哲も無い公園である。子供たちは滑り台やブランコに群がり、様々な遊びに興じていた。花壇はほどほどに手入れされているらしいが、今は勝手に生えてきたのだろうたんぽぽが黄色い花をつけている。腕時計を見れば、ようやく四時半を過ぎた所。今の時期なら、夕焼けが見られるのは五時過ぎぐらいだろうか。
「佐一さん、何か気づいたことはありますか?」
『それ俺のセリフじゃない?』
トオルがつけたイヤホン越しに、佐一の声が聞こえる。だがトオルの目は、自分の頭上を飛ぶドローンに向いていた。
人間嫌いの佐一の姿は、公園のどこにも無い。代わりにドローンが彼の目のとして、トオルの近くを旋回していた。
『……今の所、公園に変わった動きは無いよ』
低くぶっきらぼうな声が、トオルの耳をくすぐる。
『もっとも、生きてる人間の仕業だったらって話だけどね。公園にいるのは子供と保護者と、ドローンで遊ぶ人畜無害そうな男だけ』
「最後の人が怪しいですね」
『トオルのことだけど』
「そうですよね、僕のことですよね」
『大丈夫だよ。俺にとっては一番安全な存在だから』
「そりゃ佐一さんにとってはそうでしょうけど、さっきから子供たちの視線がものすごくて……」
「ねぇねぇ」
低い場所から幼い声がして、トオルは飛び上がる。恐る恐る見下ろすと、ようやく小学生になったばかりぐらいの男の子が興味津々といった目をキラキラさせていた。
「それ何!? あのドローン飛ばしてるの!?」
「あ、え、えーと、そうです。ちょっと練習しようかなと思って……」
「貸して貸して! やってみたいー!」
「うわ、あのっ!」
飛びつかれてまごまごしている間に、コントローラーを奪われてしまう。すると男の子の周りに次から次へと他の子供たちが集まってきて、「どうやって動かすの?」「これじゃね?」「ゲームのやつみたい!」とコントローラーをもみくちゃにしていった。
あわや壊されるかと思われたドローン。しかしそんな騒動を横目に、スイーとスマートな機体は上昇を始めた。
「あ、動いた!」
「すげぇ! 次おれにも貸して!」
「あの、そろそろお兄さんに返してもらえたらって思うんだけど……」
「やだー!」
「ねー、これどうやって操作するのー!?」
「うううう」
途方に暮れるトオルである。とはいえ、実はドローンの操作権はコントローラー側に無かったりする。佐一によって遠隔操作されているのだ。ゆえにコントローラーが奪われても壊される心配は無いのだが、トオルとしては大っぴらに調査しづらくなるので困りものだった。
「こらっ! やめなさい!」
困り果てていると、やっと遠くから数人の女性が飛んできた。我が子の蛮行に気がついた母親達である。よってたかってコントローラーから子供を引き剥がし、口々に謝ってくれる。その内一人は大将格の男の子の親だったようで、ぺちりと彼の額を叩くとコントローラーを取り上げた。
「もう、またアンタは勝手なことして! おじさんが困ってるでしょ! ごめんなさいしなさい!」
「お、おじさ……」
「おじさん、ごめんなさぁい」
「すいません、どこか故障とかしていませんか? 私がもっとしっかり見ていれば良かったのですが……!」
「あ、いえ! 大丈夫です!」
深く頭を下げる母親に、ブンブンと手を振って対応するトオルである。……こっそりと、「おじさん」呼ばわりにしょんぼりとしていたが。
やっぱりこの髪、染めた方がいいのかなぁ。でも自分の姿が変わると佐一さんが怯えるしなぁ、どうしたものか……。
そんなことを考えていると、ふと頭上のドローンから『ジジ……』と妙な音が聞こえてきた。
「あれ? どうしました、佐一さん?」
『え、何が?』
「いえ、ドローンから何か変な音が聞こえたんですけど」
『マジで? 俺何もしてないよ』
「……?」
トオルがじっとドローンを見つめていると、子供たちも訝しく思ったのか同じように空を見上げ始めた。黒いドローンは彼らの上で静止し、妙なノイズを放っている。だがそのノイズに混ざって、何か声のようなものが聞こえ始めた。
「なに?」
「なんか言ってる?」
子供たちが口々に呟く。ざわめきは、少しずつ恐れを含んだものに変わっていく。
「ねぇ」
「ねぇ、何?」
「誰? 怖いこと言わないでよ」
「言ってない。やーくんじゃないの?」
「僕も言ってない」
「やめてよ、嘘つかないで」
「嘘じゃない」
「じゃあ、誰よ」
「誰?」
「誰が怖いこと言ってるの?」
一瞬。
一瞬だけ、水を打ったように静まり返った時間があった。
そしてその隙間に、それははっきりと聞こえたのである。
「……おててを、ちょうだい……」
――掠れ、乱れ、井戸の底に落とされた子供の絶望に似た声。たった一瞬の隙間に全員が声を聞き、そして一斉にパニックに陥った。他の子を突き飛ばして逃げる子や、座り込み泣き出してしまう子。大人も例外でなく、我が子を追いかける者や悲鳴をあげて立ち竦む者など様々に混乱していた。
「ちょっと、なんて悪ふざけをしてんのよ!」
呆然とするトオルに、さっきの女性が掴みかかる。
「この公園の噂は知ってるでしょ!? なんであんな気持ち悪い声をドローンに仕込んでるのよ! まさかあんたが幽霊の犯人なの!?」
「い、いえ! 僕は何も知りま……」
「警察を呼ぶわ! 絶対逃げるんじゃないわよ!」
『いいや、犯人は僕じゃない』
きっぱりとした佐一の声が、イヤホン越しに聞こえた。戸惑うトオルに、佐一は続ける。
『繰り返して、トオル。犯人は、僕じゃないと』
「さ、佐一さん、何を……?」
『いいから言う通りに。曽根崎みたいに通報されたくないだろ?』
「……」
ごくりと生唾を飲み込む。覚悟を決めたトオルは、ものすごい剣幕の女性を前に首を横に振った。
「ち、違います。犯人は、僕じゃありません」
「はぁ!? じゃあ他に誰がいるって言うのよ!?」
「それを、今から調査するのです」
トオルの顔色は真っ青だった。だが佐一の言葉を一言一句真似したせいで、発言だけは自信満々なものになった。
「見ていてください。今からこの僕――代瀬トオルが、皆さんの公園を騒がせる幽霊事件を解決してあげましょう」




