第9話 バレンタインデー(後編)
ちょっと前の話含めてタイトル変えてますが話の内容は変えていません。お楽しみください。
彼女から貰ったチョコレートは美味しかった。よく見ると、金粉が上品に添えられていたりと丁寧に作られているのが分かる。決して義理チョコでは無い。
「ん、うまい。しかし、まさか、俺がなぁ…。」
行儀は悪かったが、彼女から貰ったチョコを食べながら、ベッドにごろりと仰向けになり天井を見上げた。まさか自分が彼女に想われていたとは思わず、これから彼女とどう接して良いか分からなくなった。彼女の事は嫌いじゃない。ただ、今まで異性として意識してきたかと言われると何とも言えない。ただ、『元教え子』であり、『仲が良い職場の後輩』としか思っていなかった。
「あー、これからどうすればいいんだ…」
目を瞑って考えて考えて見たが良案は浮かばない。しばらく色々考えていたが、考え疲れてそのまま眠りの世界に誘われていった。
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「最低。」
「普段あんだけ気を持たせといて…。」
「ありえない。」
次の日出勤すると、アンジュ先生と仲が良い女性講師からの抗議が酷かった。女性講師とすれ違う度に、ボソッと低い声で文句を言われたり、悪口を言われた。メンタルにくる。アローン会のメンバーが何かを察し、こっそり何があったか聞き出そうとしてくるが、俺が答える訳ないし、意外にも女性講師達も固く口を閉ざしてくれているようだった。
「おはようございます!リム先生!」
「あ、アンジュ先生…おはようございます。」
俺がすれ違う女性講師に対して怯えつつ担任のクラスへ向かおうとすると、医療科の棟へ向かおうとしているアンジュ先生に出くわした。いつもならここで、『先生、書類お忘れですよ?』とか冗談をとばして来るのだが…
「…険しい顔してどうしましたか?先生。すいません、ちょっと急いでるので。」
そう言って彼女は冗談を言うことなく、会釈をして足早に去っていった。
俺は少し胸の当たりがチクッとしたが、気付かないフリをした。俺が傷付く資格なんて無いのだ。しばらく彼女の去っていく方向を眺めていたが、
「先生。」
そう呼ばれて背後を振り返ると、アンジュの弟子であるリンがいた。
「どうしました?」
「いや、もうチャイム鳴ってるのに、中々教室へ来ないからどうしたのかと思って。あの後ろ姿は師匠?師匠と話をしていたのですか?」
「少し挨拶していただけですよ。すいません、今行きますね。」
どうやら、チャイムの音に気付かなかった俺を迎えに来てくれたようだ。俺は暗くなっていた気持ちを切り替えて教室へ向かった。
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バレンタイン以降、どうやらアンジュ先生に避けられているのでは?と思う様になった。
バレンタイン前までは、昼休みになり食堂へ行こうとすると、アンジュ先生に捕まって、中庭の隅にある桜の木の下の木陰で手作り弁当が振る舞われる…というのが常であったが、それが無くなった。
最近の退勤後も帰ろうとすると、魔術科の職員室前や校門で毎日の様に待機している事が多かったが、それが無くなった。
毎日どこかしらで会っていたのだが、会わない日も出てくるくらい出会う頻度が減ってしまった。女性講師以外でも俺達の間で何かあったと察する者も出てきて、とうとう学園長にすら、
「嫁さんと何があったか知らんが、はよ仲直りした方がええぞ?」
と、すれ違いざまにボソリと言われた。嫁ではないです、と言い返そうとした時には消えていたが。正直怖かった。
…………そんな日がおよそ1ヶ月続いた。