今日だけですよ
「ミリアルドー。 そろそろお昼にしよー」
「来客中に勝手に入ってくるな」
「知らないよ。 来客なんて、ほぼないじゃん。 あれぇ? ユフィちゃんだぁー。 やったねー。 ミリアルドが部屋に入れるなんてねーーー。 ふーん。 へー。 ほー」
「やかましいっ。 昼だと言うなら早くしろ。 お前はどうする?」
「ご一緒しても?」
「ああ。 シーズ頼む」
「あいあーい」
お昼は食堂から貰ってくるそうだ。
戻ってきたシーズがささっとテーブルを整える。
「兄様はいつも部屋で食事を?」
「ああ、部屋と図書室から出る事はほぼ無い。 出歩いてアレクシアに会っても困るしな」
「困る……ですか? 姉様の様に?」
「あんなシスコンと一緒にするな。 ティファはお前の事は知っているのだろう?」
「はい」
「ハハッ、大変だったろ?」
「姉様は辛そうでした……。 なんとかなりませんか?」
「なんとかする事に意味があると? お前と接するティファはどうだった? 辛そうだったか?」
「とても幸せそうでした……」
「その幸せを奪う方がいいか?」
「…………わかりません」
「だろう? ティファは辛さや寂しさ以上の幸せを感じられてるはずだ。 人の心に答えなどないさ」
「難しいです……」
「悩む事は大切だ、大いに悩め。 悩んで悩んで悩み抜いて、それで駄目なら周りに頼れ」
「シーズさんはボクといても平気ですか?」
「なんで?」
「いえ、男性の方はみんな避けるので……」
「それは、かわいいから照れてるだけでしょ。 ユフィちゃんが来てくれたら嬉しいよ。 僕はかわいい子を愛でながら過ごしたいのに、ミリアルドが冷たいからみんな寄って来なくてさ」
チリーン、チリーン。
終業の鐘が聞こえる。
「兄様。 そろそろ失礼いたします。 今日はありがとうございました。 また来ますね」
「ああ。 本を読んでるだけだから、ちゃんと話を聴いているかはわからんがな」
「ユフィ、またきてねー。 この男の周りには華が足りない。 華が」
「うるさいぞ」
「フフフッ。 では」
兄様の部屋を出て日常に戻る。
ちょっと姉様のところに行こうかなっ。
高等部の講義室に姿はないのでラウンジにむかうとすぐに姉様が目に付く。
「ユフィ様ぁ。 こちらにどうぞ」
「姉様、ごきげんよう。 フェルミナ、今日も綺麗だね。」
「そんなぁ、綺麗だなんて。 いつでもお宅に伺いましてよ」
「それはいいかな」
「まさか、ユフィから来てくれるなんて嬉しいよ」
………………
「姉様。 少し部屋で話しませんか?」
「いいよ、行こう」
「ユフィ様、私達は?」
「ごめんね。 今日は遠慮して貰えるかな?」
「承知しました。 また誘って下さいね」
「うん。 またね」
「はいっ、どうぞ」
「ありがとうございます」
姉様がお茶を用意して、自分の傍に来るように腿をポンポンする。
素直に応じて、姉様に頭をあずける。
「あれぇ? 今日は甘えん坊だねぇ」
「少しだけです」
「よしよし。 僕はいつでも待ってるよ」
姉様は幸せそうにボクの頭を撫でる。
少し雑談の後に本題へと移る。
「兄様に会ってきました」
「そっか……。 何か言ってた?」
「絶対にアレクシアを図書室に連れて来るなと……」
「そうだね……。 ユフィも連れて行かないでね。 アレクシアはお兄様がここに居る事を知らないんだ。 だからお兄様の話をしないでね。 アレクシアが傷つくから……」
「理由を聞いても?」
「…………。 この話は止めよう。 ユフィは知らない方がいい」
「そうですか……。 もし、話せる時がきたらお願いしますね」
「うん……」
顔が暗くなってしまった姉様の唇をそっと奪う。
不意をつかれた彼女の顔がかわいい。
「姉様かわいい。 今日だけですよ」
姉様の頭を抱きしめて撫でる。
「ありがとユフィ」




