異世界では安全にお金をケチってはいけないんだよ
「ふわぁーぁ」
店を後にして宿へと向かう。今日はもうご飯食べて寝よっ。
今は毎日同じ宿に泊まっていて、その名は「熊の居眠り亭」。
人柄が良くて信用出来て料理が美味しい。
その分お値段はするんだけど、塩とか調味料が高いので味を上げるとお値段が上がる。
お値段が上がると信用や安全を上げざるを選なくなって、その中でも人柄が良い宿って訳だ。
異世界で料理や安全にお金をケチってはいけない。
こっちに来たては大変だった? 大変じゃないけど煩わしかった。
10才でもお金は稼げるし宿にも泊まれるけど、ギリギリラインのご飯だったり、物がなくなったり、夜中に人が入って来たり、散々で毎日のように宿を変えてやっと今の宿にたどり着いた。
家を持ったり部屋を借りて一人暮らしなんてしたら夜も眠れないんじゃないかな。
強盗や人攫いとか入ってきても平気だけど睡眠はゆっくりとりたいからね。(眠る必要は多分無い)
三階建で特に特徴のない見た目の宿屋。
入口の扉を開けるとカウンターがあって、受付には似合わないゴツい見た目のサムスとアドンがいる。受付の仕事と用心棒役で、昔は勢いのある冒険者だったんだとか。
一階は酒場でカウンター右側の階段を上がると二階三階が客室になってる。
酒場では女将さんのネイさんと娘のステラが忙しそうに給仕をしているのが見える。
サムスとアドンに挨拶して入って、いつも通りのテーブルに付いてステラに手を振る。
「ユフィさんおかえりなさい。今日はお魚も入ってるけどどうします?」
「いつも通りお肉でよろ〜」
「オッケー、グーグー」
この店で特に料理を注文しなければ茹でて潰したポテトと焼いた肉にちょい野菜が付いたワンプレートがでてくる。
味付けは塩とコショウだけど安いお店は塩味さえ無かったりする。
魚に関しては元日本人としては合格点は出せない。川や湖の魚だから? やっぱり鮮度かなぁ?
ステラが入れてくれた果実水を飲みながら料理を待つ。果実水はお高い目の店では普通に出てくるよ。
店はいつも通りの客入りで常連さんや目にした事のある顔が多い。
安い店だと騒がしくてガラも悪くて食事どころじゃ無い。絡んできた男を殴り飛ばして店中乱闘騒ぎになった事だって度々あった。ボクが乱闘じゃないよ、なぜか周りの方が盛り上がるのだ。
いつも通り美味しく料理を頂いて、食べてる時に視線を受けるのはいつもの事なんだけど、今日は食べ終わりを見計らって二人の男性が声をかけてくる。
フフフ、なにかな?
二人共なかなかに好青年。このセカイはお顔の偏差値が高いから期待はしちゃうんだけど。
一人は劇団員でもう片方は大道芸人。
昼間の立ち回りを見ていたらしく雑談の後に勧誘を受けたけど当然お断り。
アイドルになっちゃうとプライベートがねぇ。
アイドルとは言ってない?
むぅ。
普通に口説いてくれる方がポイントは高い。
ドキドキしないから靡かないけどさっ。
ステラに軽く手を振って自分の部屋に戻る。
宿の料金は夜の料理込みで月額先払いなのだ。
借りてるのは三階の四人部屋。ベッドを二つにしてもらって広く使ってる。
お風呂セット出さないといけないから。
このセカイでお風呂は上流階級の屋敷くらいにしかなくて昼間のうちに川で水浴びするのが一般的。
アイテムボックスから出した酒樽に魔法でお湯をはる。
酒樽の下に特注の大きな樽をおいてるけど、あまり溢れない様に気をつけないといけない。
まぁ、溢れても魔法でどうとでもなるけど。
体を浄化する魔法なんてのもあるけど、やっぱりお風呂は入りたい。
魔法でさっと髪を乾かしてベッドに潜り込む。お布団は綿入りの特注品だっ。
お布団の中って幸せだねぇ。