斬っていいのは、斬られる覚悟のある者だけ。でも覚悟があってもやっちゃダメ。
目立ちたくはないんだけど、今この瞬間に襲撃されてもおかしくはないんだよね。
お出かけ系のイベントは、暗殺、拉致、爆破から自然な事故まで、種類が多くて「そんなことある?」ってことも多々あるんだよ。
関わるつもりはなかったんだけど、すでにバッドルートだとわかって放っておけないよね。
仕方なく、少し距離のある位置で前に進み出て、膝をつき、フードをかぶったまま頭を下げる。 「皆様方、失礼いたします。貴族家の方々と……」
ザシュッ!
ボクのいた場所を斬撃が空を切る。下を向いているから見えてはいないけど、気配だけで後ろに転がって立ち上がる。
二、三、四、五連撃を軽いステップで躱して目を向けた、そこには赤い髪を逆立てたアクセルが鬼の形相で立っている。アレクシアが名前を呼んでいるけど聞こえていない。
他の四人もアレクシアを中心に展開し、顔からはかなりの緊張が伝わってくる。(反応は良いんだけど、一般人にいきなり真剣で斬りかからないでほしいなっと。)
「お待ち下……」
聞く耳持たず。アクセルの突きからの連撃。重い両手持ちの直剣での連撃はかなりキツく、日頃の鍛錬が伺える。
アクセルの数度の打ち込みを躱し、連撃の終わり際にボクの動きの先にルッツの剣が迫ってくる。
ルッツはアクセルより少し小さい両手持ち兼用片手剣で、本来は盾とセットで使うスタイルだ。
眼鏡で真面目そうな見た目そのままで、型通りのキレイで堅実な、スキの少ない剣捌きをする。
うん、速い。速いねっ! 浅めの連撃を休むことなく叩き込んでくるのを、ステップで躱し、手甲で受け流す。ボクのスキを見つけたらアクセルの斬撃が割り込んでくる。こちらは致命傷を与えるほどの重たい斬撃。手甲で受けたら壊れるね。
数の有利を活かした役割分担ができている。(二人とも強いよ、よく頑張ってるね。お母さんは嬉しいよ(泣)。) 人集りはまだ解散していない。アレクシアを中心にバームクーヘン状に人の壁ができているのを、壁にぶつからないよう誘導しながら円形に移動を続ける。周りが歓声をあげて騒がしい。きっと見せ物だと思われているんだろうなぁ。
しばらくの立ち回りの後、二人の剣がわずかに鈍りを見せ始める。ユフィーリア相手によく頑張った。だけど、いつまでもここで遊んでいられないし、後の二人の剣気が高まってきているのを感じる。(商家育ちのキャメラルは護身程度の腕しかないので数には入らない。)
ほらほらきたきたァ。
ボクの動きを先読みして炎の壁が立ち昇る。(エリナリーゼ様のファイアウォール)
下がる先がなくなったボクは足を固めて、ルッツの攻撃を強めに弾く。ルッツの体勢が崩れたけど、アクセルが剣を片手に持って遠心力をかけた足払いを放つ。(うまいっ。百点満点!)
そして上に逃げるしかできないボクの体をルッツの剣が貫いた。
「や、やったかっ?」
それは言っちゃダメなやつだよぅ。
崩れ倒れ込んだボクを気を抜かず観察する二人だけど、そこに転がるのはローブと木人形。
ふふんっ。
木人形に気を取られているルッツを背後から手刀で落とし、反応したアクセルはみぞおちに拳を叩き込んで下った顎に飛び膝を入れて落とす。 倒れ込むアクセルの隣にふわりと着地。周囲を見渡しながら、ローブがなくなってあらわになった桜色の髪を軽くはらう。
「ねぇ、君たち。斬っていいのは斬られる覚悟のある者だけだって知ってる?」
色気出し気味の勝利ポーズを決めてから、姿勢を正して仰々しくお辞儀すると、静まりかえっていた広場を割れんばかりの歓声と拍手が包み込む。 歓声に大きく手を振って感謝の言葉で応える。
握手を返し、サインを求められ、どさくさに紛れて体を触ろうとする奴は足を踏んで手を握り、とびきりの笑顔で「ありがとう、またきてねっ♪」とサービスしてあげる。嘘はとびっきりの愛なんだって♪
静かになってきた広場で、投げられたお金を風の魔法でさっと集め、穴の空いたローブを着てフードをかぶる。一週間ほどは食べるのに困らない金額が集まったね。うっはぁー、大成功! これでしばらく食べていけるぅ!
シルク達三人は剣を収めているが、目は鋭いままで今もボクへの警戒を怠っていない。戦った二人はまだ倒れたまま。
アレクシアは大きな目をさらに大きくしてボクを見ている。
まぁ、普通に驚くよね。怖かっただろうしね。 「さて、姫様方。信用してくださいとは言いませんが、少し場所を変えてお話ししませんか?」
明らかに「姫様方」に反応を見せた。冗談か、君たち、バレバレだからっ。みんなわかってるから!
「嫌だと言ったら?」
「このまま帰ります。別にボクは困りません。」
「そうか、では……」
「待ってください。」 話をするエリナリーゼ様をアレクシアが遮る。
「少しお話と謝罪を……。貴方様の指定の場所で構いませんから。」
「アレクシア様、それは……」
「エリック、失礼があったのはこちらです。」
「……」
「では、こちらへ。」
アレクシアの了承を得たので、指をパチンと鳴らし、キーンと冷やしたウォーターボールをルッツとアクセルに落として起こす。
そして、すぐそこで人数分のローブを買ってエリナリーゼ様に手渡したけど、ただ値段が安いだけの物なので、エリナリーゼ様はしかめっ面だ。




