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青年は、斜め読みをするのは良くないなと、溜息混じりに反省しながら……。
「ええ、依頼主と話をさせていただけますか?」
「よし、そこで待っていろ。」
聞き耳は、席を立つと青年の後ろのテーブルでお茶を飲んでいる人達の中の一人に声をかけます。それに反応したのは、髭を生やした細身の男。彼は椅子から立ち上がり、青年の側へと移動します。薄い水色のシャツに紺のズボン、橙色の帯には小刀が挿まれ若草色の上着を着ています。青年の正面に立ち、聞き耳に向かってもう一度確認をします。
「この者か? ずいぶん小柄だな。……間違いなく魔法が使えるのだな?」
何処か怯えているような気配を感じさせる声に青年はムッとします。
カロンの姿は、外見年齢は、十八歳ほど。紅い帯の鉢がねを身につけ、漆黒のまっすぐな髪は肩に掛かり青より深い藍色の瞳。肌は、それほど白くもなく、中肉中背の体つきにどこにでもいる旅人の服装に片手剣を腰に佩き、大きめのマントを羽織っています。『護衛』役としてみるには、頼りない姿に見えるのでしょう。
「お疑いなら試されてはどうですかな?」
聞き耳にそう言われて男は言葉に詰まります。そして、青年をまじまじと眺めます。カロンの服装は、『魔法を使う人』と言うよりも『剣士』としての出で立ちです。
しばし、青年を見つめていた男は、おもむろに懐から白金のブレスレットを取り出します。小さな水晶のような石が三つ付いたブレスレッドです。
「……これを見てもらいたい。4代前から受け継がれている護符なのだが、効力を忘れてしまってな。教えてもらえないかな?」
『効力を忘れたなんて、嘘だろうに』と青年は思いましたが、そこは黙ってそのブレスレッドの効力を探ります。呪具や護符の付与された魔法調べは、魔法を使えない人達が相手が魔法を使える人かどうかを調べる時に最もよく使われる手法です。魔法を使える人にとってそれを読みとるのは基本中の基本です。それは、なによりも自分と精霊を守るためでもあるのですから。
しばらくそのブレスレットを見つめていた青年は、そのまま男の問いに答えます。
「右の石から、火除け・水探り・風除け。チェーンには、幸運呼びの呪いがかけられています。……ただ、ずいぶん前に作られたモノですか? もう効力は殆ど無い様ですが……。」
スラスラと、淀みなく答える青年の言葉に男の顔が少しずつ明るくなり、最後の効能を口にした時には、先ほどの怯えるような気配は消え去っていました。
「聞き耳、この者を雇う。」
「へい、まいど。」
先までの自信の無い声から一変して、朗々とした低い声で、男は聞き耳に宣言しました。懐から軽くない財布を出し、男は聞き耳に仲介料を払います。そして、青年に付いてくるように言うとそのまま外へと歩き始めました。