魔玉の襲来
俺がアルバートルによる攻撃を浴びる事に覚悟を決めたその時、俺達の頭上から間抜けな甘える声による雄たけびが起きた。
「ごはんー。お腹が空きましたー。」
緊迫感のない空気を読まない我儘声に頭上を見上げれば、シロロは俺の視線を浴びた事で何かを考えたのか、ぽいっと服を脱ぎ捨てた。
「なにを――。」
続きが言えなかった。
シロロはどんと真っ白な毛むくじゃらの卵に化けたのだ。
うわあと見守る目の前で、それはどどんと二倍の大きさに膨らんだ。
息を思わず飲んだそこで、どどどんと三倍の大きさになった。
ああこのままじゃあ、終には見張り台をどぎゃんと重量で潰すぐらいの大きさになるだろう!
「うわぁ、インペティスウエンティーにえぇえと、ビュルオンサボン!」
崩れる城壁に巻き込まれそうな乙女達を取りあえず突風で飛ばして、シャボン玉のような防御壁の中に彼女達を入れた。
どおおおおおん。
想像通りにどぎゃんと音を立てて壁を壊した大きな毛玉卵は、重力に引かれて地面に突き刺さり、俺はその有様に魔王様の神髄を見たと思った。
恐るべき魔玉様。
そして、この毛むくじゃらの卵をどうしようかと、首が折れるくらいに上を見上げた。
天辺には小さな兎のような耳が付いていて、卵の上部には黒い眼がちょこんとついていて、嬉しそうに上や下をきょろきょろと見回している。
「これでーおうちにかえれますよねー。ダグド様と約束通りですー。ダグド様をお守りしましたよ~!だから~、ごはんーごはんーごはんー。」
俺はしゃがんで両手で顔を覆った。
あぁ、独り身に戻りたい。
「あの、馬はどこに繋げばいいですか?」
城壁を直し終わった俺に低くていい声がかかった。
振り向けば奴がいた。
「あれ?どうやって入って来た?」
アルバートルはにっこりと微笑むと、仕上がったばかりの城門を指さした。
「あそこからです。」
俺は普通に城門を潜って来れた騎士を見返し、大きく息を吐くしかなかった。
姥捨て山と呼ばれるダグドの門をくぐれるとは、こいつらは実はガルバントリウムではいらない子な人達だったのだな、と理解するしかないからだ。
ダグドの門は、ダグドへの生贄か、人生の終わった者達だけに開くのである。




