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2-4

 メアはやっぱり怪我が酷いらしくてしばらくは協会から居なくなっている。その間に、事情を知っている数人が真犯人を探し回って、残りの人達はそれとなく表向きの捜査をかく乱するという話になった、らしい。


 義兄と私はかく乱する班。導師の采配とはいえ捜査を迷走させるなんて、嫌な役柄ね。

 無言で給料計算をしていたフィロガは、きっと後で危険手当とかなんだとか理由を付けて請求する気だわ。こいつは金にがめつい面あるし。


 元から傭兵組合でもメアはそこそこ有名らしくて、そっちでもリスリヴォールと関わっているとまで知られているらしい。

 色々な意味で自分の事を隠すのが苦手なのね。やっぱり、もっと違う仕事をした方がいいわ。


 水浴びを終えたフィロガが何も考えずにぼーっとソファに腰掛けている。私は暇だからと露店に出すつもりのアクセサリーを作っていた。

 構想としてはウッドビーズと羽根のブレスレットかネックレス。教本を見ながらまずはウッドビーズから切り出し。


 魔術理論はおさらいしたし、次の絵もラフ画は描き上がってる。どっちも、やることないのよ。あとは体力が落ちないように運動するくらいだけど、それもやり過ぎたら復帰した時に不自然だからほどほどにしている。


「それ、露店用?」


 ビーズを数種類作って、どう使おうか悩み始めたところでフィロガがこっちに話しかけてきた。髪が猫っ毛だから、ペタッとしてる。こうして見てると普段より幼く感じるのよね、年上なのに。


「ええ。久しぶりにやってみようと思ったの」

「……いやー、売れるかは分からないよ。あれ、『飾』の連中も本気だしてるから」

「だから金属以外の素材にするのよ」


 『飾』というか、協会魔術師が得意とするのは金属加工。それに、製作者の名前を裏で控えていて、実はお偉いさんに査定されている。それもあって、競争率の激しいものから外れた素材を選んだ。私は別にそんなの参加したくない。本職に技術力で挑んだところで売れ残るのがオチよ。

 でも、問題があるのよ。揃えられる素材の種類が少ない。


「羽根も欲しいんだけど手に入らないのよね」

「あー……それは、半月後じゃないかな」

「やっぱり不便よね、こういう時は」


 金属類や材木だったら協会産の魔道具で使うから、割とすぐに買えるんだけど。行商の人に頼むと時間が掛かるし。

 ない物ねだりをしても仕方ない。こういう時は自分で用意すればいいのよ。


「羽根は森の中で狩ってくればいいかしら」

「リリー……この周辺は鳥が少ないよ」

 

 フィロガが苦笑いで指摘する。悲しいことに越冬で南大陸に渡ってしまってるらしい。隣国の森に手を出したらきっと訴えられるから、手詰まりね。


「代わりにヘンプで編んだらいいんじゃない?」

「あたしはあんまり好きじゃないのよ、その作り方」

「身近な材料でやった方がいいと思うけど。ヘンプなら『癒』の廃材で出てくるし、格安だよ」


 『癒』の内情をよく知ってるこいつならではね。でも、曲げたくないわ。これは革紐で作るって決めてたのに。そして自分の部屋にわざわざ行って、生糸を取ってきた。余計なお節介がたまに傷だ。


 それよりも、フィロガに険悪な雰囲気は無くなっている。あの連日の荒れ具合からだいぶ落ち着いた。

 ごり押しされたから渋々ヘンプでウッドビーズを編み込みながら話を続ける。 


「のほほんとしてるけど、捜査はどうするのよ」

「ああ、そっちの……打てる手は打ったし、状況が代わり次第だね」

「具体的にはどうなってるのよ」

「リーメア・スレイの捜査班はリスリヴォールにサセックかエスカーチャ経由で警告入れるんだってさ」


 手が止まる。リスリヴォールや無関係なはずの国を巻き込んで壮大な事態に発展していた。顔を上げたらフィロガは普通だった。こんなことになったら、いつもの義兄は躊躇してもおかしくないのに。


「それ、協会だけじゃ収まらないわよね」

「いいんじゃない? 最終的にはスレイが謝罪行脚でもすれば。俺は責任なんて取る気ないよ。責任者はスレイだろ、この場合」


 フィロガは笑顔のまま言い放った。やっぱりまだ切れているけど、メアが大変な目に遭うことは確定だから溜飲を下げたってところか。可哀想だけど私も責任は取れない。


「で、あたしは何をすればいいのよ」

「リリーはそのままでいいよ」

「いいの? 他の人は大分動いているんでしょ」

「呪術の影響が薄れるまではあの女を心配してるって風を装ってもらいたいから」


 どうやら私は引き続き可哀そうな被害者って位置づけらしい。

 それもどうなのよ、と突っ込みたいけど自分が得意じゃないのは分かってるから大人しくしておくわ。


「例の犯罪者の目星が付くまでになるかな。まだどこの人間かも特定できてないっぽいけど」


 表向きの捜査はいいとして、本命の方はあまり芳しくないらしい。

 それに、署長達には話していないって導師は言ってた。だから、私達が派手に動くのは危険な事に変わりはない。間違って離反したなんて思われたら、追放されるかもしれない。

 暗い事情は忘れて作業に戻りましょう。

 フィロガが「ところでさ」と話を変えた。耳だけ貸して次のウッドビーズを通す。


「あの女って、どうしたら参るのかな」

「あんた諦めてないのね」

「当たり前だよ、ここまで迷惑かけられたら気が済まない」


 笑顔だけど言ってることはろくでなし。

 トリシャが前に言ってた内容を思い出す。しいて弱点っぽい事といったら、動物に怖がられている事かしら。

 ああ、そういえばトリシャで思い出したわ。


「ねえ、あの時の金色の目のメアは何だったの?」


 話を振っても大丈夫そうな空気だったから思い切って聞いてみる。あのメアはまるで全然違う人みたいで、私は今でも謎。フィロガは何かを知っている。そうじゃなかったらあんな敵意丸出しにならないでしょう、きっと。

 作業していたら、沈黙が続くから顔を上げる。


「リリー。知らなくていい事もあるんだよ」


 そこには真顔になってこっちを見つめる義兄がいた。どうやら、完全に駄目だったらしい。

 分かりやすい拒絶ね。これはこれで裏を読まないでいいから私は気楽なんだけど。他の人相手にもこれをやっていたら、恐怖に怯えられるわよ。


 私は「まあ、いいわ」と言って流した。メアも口ごもっていたから、良い事じゃないんでしょう。仕方ないから、トリシャに会った時にでも聞こう。

 出来上がったブレスレットはイマイチな仕上がりになったからボツに決める。でも形は悪くないから、色だけ付け直して普段使いにしよう。



 ***



 ようやく療養期間が終わった。前日に渡された予定表を見て、げんなりする気持ちを抑える。

 病み上がり設定の私は、しばらく普段の見回り関連の業務から外されてた。代わりに、大嫌いな息が詰まる内勤と、戦闘のリハビリ用の訓練がみっちり。

 誰が作ったのかって、裏を捲ったら作成者の名前が隊長だったわ。


 今度、胃薬を全部酢漬けにしてやろうか。

 ちょっとだけ悪意が首をもたげるのは仕方ない。もちろん、実行なんてしない。流石に、大人げないわよ。ええ、さすがにね。


 『剣』の事務課のデスクの一つを見る。私と業務が交代になった奴の場所ね。

 メモ書きと大量の書類があるんだけど、メモには「書類整理お願いします」しか書いてない。後ろにハートマーク付けても、意味分からないわよ。


「これはどうしたらいいんですか?」


 仕方なしに隣の人に業務内容聞いても、机から目を逸らさないで「知らない」って返された。本当に困るのよ、どれが重要書類かも分からない状態だもの。

 山のてっぺんにある書類を一つだけ確認していると、聞きなれた人の声がした。


「あら、色彩さん。珍しいですね、こんなところに」


 そっちに目をやると、豪華な巻き毛の女性がいた。バーナード関連で突っかかってくエダだ。でも、私はそこまで嫌いじゃない。それ以外の部分だと大分まとも。あいつも、エダの事気に掛けたらいいのに、って思う。

 相手の手にはこれまた書類が。そして目の前に積まれた。


「休暇ははかどりましたか?」

「逆にしんどいわね。ねえ、エダ。この書類はどうしたらいいの」

「マリーから引き継ぎがあるはずですが」

「引継ぎね。これを引き継ぎと言うならそうね」


 紙一枚をひらひらさせると、エダは「まあ」と首を傾げる。


「お茶目ですね……私も把握しているわけではありませんから、帰ってきてから聞くしかないでしょう」


 後、二、三時間はかかるはず。そして帰ってくる頃って、私は訓練に参加している。下手したら向こうが帰宅してるって事になりかねない。いや、絶対帰宅するわね、あの女は。

 ええ、まずは落ち着きましょう。最初は、この書類をどこにしまうかを考えることからね。マニュアルが無いか探すしかない。


「色彩さん。マニュアルはあちらですよ」

「そ、ありがと」


 必死にマニュアルを読み込もうにも、読めない単語がある。

 協会は共通語が得意じゃない人もいるから辞書くらいはあるはずだけど。探しても、どこにも置いてない。やられたわね、早速。業務が進みやしない。

 訓練の時間に間に合わないから、急ぎの書類だけとりあえず着手して残りは明日やる事にした。


 そして、翌日。私は眠たい目をこすって早朝の時間帯に出勤した。

 辞書を家から引っ張り出してきて、後は彼女を捕まえて聞きだせばいいだけ。いっそ、他の事にはもう目をつむりましょう。


 自分でも目が据わっていると思う。だって、すごく眠いし苛々する。

 出勤した人がみんなして顔を合わせるたびにびっくりしている。そもそも私は普段遅刻寸前だから、そっちが原因かもしれないわ。これは日ごろの行いのせいだから仕方ない。


 そしてそろそろ始業時間前ってところで件の人物がようやく来た。だから業務内容について聞いたら、また問題が起ったのよ。

 そもそも、鍵付きの引き出しにマニュアルの一部を隠しているところから突っ込みたいんだけど、昨日はデスクに無かったはずの書類を私が失くしたって話にまで発展した。


「無かったわよ、そんな書類。全部、あたしは確認したわ」

「でもー、そうですか? この前の強化術の講習だって、けっきょく日程を間違えてたでしょう」


 「ふふ」と笑う相手はどうしてもこっちの落ち度にしたいらしい。周りの人達まで巻き込んで、本当に性悪。

 そんな険悪な空気が漂っているところにエダがやってきた。


「どうしましたか、マリー」

「あらエダさん!」


 声が上ずった相手は顔を輝かせている。そう、エダの取り巻き一号なのよね、この女。

 あからさまな態度の豹変に当のエダ本人は淡々と対応しているわ。


 そしたら一気に事件解決よ。エダが気を利かせて書類を昨日出したって話になって、最後はエダが私の作業を手伝ってくれるって話にまで変わったわよ。書類が多いから、別室でってことで。


 今日の分の書類は、これから取りに行くことになる。提出書類を区分けしてまとめたものを、持っていくついでに引き取るのよ。

 一区切り作業が終わったから、そのまま自分の業務を続けているエダを見る。


「……エダあんた分かっててやってんの?」

「何の事ですか、色彩さん」

「報告書、隠されてたんでしょ。あいつら、嘘つきじゃない」

「色彩さん、証拠が無い事をいうものではありません」


 これが頻発するから、私は基本的に外勤なのよ。

 対外的には、私は書類整理もできない駄目駄目な奴と思われている。ええそうね、大体いつもこんな感じになる。色々な意味で嫌気がさすわ。


 これ以上エダに迷惑かけても仕方ないから、書類を持っていく。今ある書類は、メアの捜査をしている隊宛て。目撃証言の投書を纏めてあるのよ。ほぼ無意味な書類だけど。


 本当、どうやってこの後を誤魔化す気なのかしら、フィロガは。

 げんなりしながら部屋をノックして入ると、椅子に座ってる男性がニコニコしている。

 『剣』の隊長としては結構若い。この年齢で隊長クラスに出世するのは実力があるからね。他の女性隊員とかと話している場面を見かけることは多いんだけど、私はあまり近づこうとは思わない。


「お、珍しいねー、リリーちゃんか」

「書類を届けに来ました」


 なれなれしい口調で話しかけてくるの。ものすごい軽薄で見た目も遊び人って感じが滲んでいる。それと分からないのは耳にじゃらじゃらつけているピアスね。何個も付けて、千切れないのかって疑問に思うわ。


 机の上に報告書を置いて踵を返そうとしたら、いつの間にか彼が目の前に居た。この人は今の協会の中では恐らく一番速い。そういう魔術を使う人だから。


「何のつもりですか」


 私が顔を上げると、にこにこした顔。他の人は出払っている。扉を片手で閉めてるし、一体何を考えているんだかって感じよ。


「いやさー、元気そうで良かったと思ってさ」

「ありがとうございます」


 時間が勿体ない。そう思って取っ手に手を掛けようとしたら、「ああ待って」と止められる。


「そうそう、フィロガも元気?」

「どういう意味ですか」


 どうしていきなり義兄の話になるのかしら。相手は少しだけ困った顔をしながら続けた。


「ほら、一連のアレで大分キてるって噂が出回ってたからさ。この前も訓練場の結界、壊しかけたじゃん。本当、災難っつーか、間が悪いっつーか……あのスレイ教官に関わるって、苦痛以外の何もんでもないし?」


 義兄はこの数日間でえらく周りにも被害を生んでいたらしい。やっぱり、切れ散らかしてたのね。周りの人が可哀そうになってくる。


「フィロガが迷惑を掛けてすみませんでした」

「いやー、それは別に気にしてないんだけど。あの後ちょっと落ち込んでたからさ、時々思いつめるから心配だなーって」


 この人、フィロガとそれなりに仲が良かったりする? 今まで話すの避けてたから分からないけど、口だけって感じでもない。

 隊長は軽く私の肩を叩いて笑顔に戻る。


「ま、リリーちゃんも、気を付けてね! スレイ教官がひょっこり出てくるかもしれないし」

「行方不明なら、気を付けようがないと思うんですけど」

「いやいや、神出鬼没かもよ? 呪術なんて馬鹿げたこと、言ってさ」


 メア相手には悪意があるってはっきり分かるわ。表向きは襲撃犯だから、好かれるわけないのは分かる。


「ご忠告ありがとうございます」


 とりあえず、まだ話が終わらなそうな気配を感じ取ったから、今度こそ退室した。 

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