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吸血彼女  作者: 桜庭かなめ
第2章
33/86

第7話『手がかり』

 五月一日、木曜日。

 今日から五月か。まさか、高校に入学してから僅か一ヶ月の間で不登校を経験し、吸血鬼の女の子と出会い、魔女と戦う日々を送るとは。平穏な高校生活送るとばかり思っていたんだけど、世の中分からないことだらけだ。

 今日も快晴なので、エリュは七分袖の吸血鬼の服に麦わら帽子。今の季節は晴れてもポカポカするくらいの陽気だけど、夏になったらどうするんだろう。吸血鬼の服にも夏仕様とかあるのだろうか。

「ありますよ。通気性抜群の優れものです。あと、人間界での日光の影響が軽減されるクリームが発売予定なんです。に今年の夏には発売すると思います。もちろん、今後のためにも買うつもりです」

 俺がそんな質問をすると、エリュは嬉しそうに答えた。天敵とも言える日光をある程度気にせずに生活できるようになるのは嬉しいだろうな。

 どうやら、人間界で生きてゆけるように吸血鬼の方々は頑張っているようだ。人間界において日光など吸血鬼はハンデを強いられてしまう。そんな中で魔女と戦わなければならないのだから、少しでもそのハンデを軽減できるように努力をしているのだろう。

「そういえば、もうすぐでゴールデンウィークですね」

「そうだな」

 吸血界にもゴールデンウィークのような大型連休があるのだろうか。

「アンネを倒すことに集中しなければいけませんが、もし今回の件が早く解決することができたら、どこかに遊びに行きませんか?」

「ああ。絶対に行こう」

 高校に入学してから心身共にゆっくりと休めている時間があまりないから、ゴールデンウィークは是非、楽しい時間を過ごせるようにしたい。

 エリュと遊びに行くのはどこがいいのか。日差しのことを考えると室内の方がいいだろうな。エリュの言う、日差し止めのクリームがあれば室外でも大丈夫なんだろうけど。

「そろそろ学校に到着するので姿を消さないと」

 といっても、俺には見えているので特に変わっていない。

 学校に到着すると、相変わらず周りから鋭い視線が浴びせられる。ただ、前と変わったのはそんな中に俺に怯えている生徒が増えたことだ。おそらく、以前に復讐宣言をしたからだろう。

 そして、教室に着くと昨日と同じように結衣達が俺とエリュのところにやってくる。梅澤に関しては、洗脳が解けたことをアンネにばれないように、教室では俺と距離を置くことように言っておいた。

「おはよう、結弦、エリュさん」

「おはよう、結衣」

「おはようございます、結衣さん」

「昨日は梅澤君にかかった洗脳を解くことができたんですって? 恵から聞いたわよ。確か、彼に口づけをして洗脳を解いたのよね」

「ああ」

「……まあ、結弦のことが好きな人が洗脳にかかっていたから、解除する際には何かしらの色仕掛けをするとは思っていたけれど。まさか、口づけなんて、ね」

「俺に口づけして欲しいから洗脳されたと言っていたくらいだ。彼のためなら一度くらいの口づけは厭わなかったよ」

「……そんな風に言われちゃうと、ちょっと妬いちゃうかな」

 そう言うと、少し頬を膨らました。口づけまではしないと思ったんだろうな。普段は凛としているだけに、こういう表情を見せてくれるのは嬉しい。

 さてと、結衣に訊きたいことがあるんだ。本題に入ろう。

「そっちの方はどうだったんだ、結衣。昨日、女子テニス部を通じて佐竹のことを調査したんだよな。何か手がかりを掴めたか?」

「うん。男子テニス部に原因があるみたい」

 なるほど、佐竹の場合は部活に負の心を抱く原因が潜んでいるのか。

「聞いた話によると、彼……男子テニス部で辛辣な扱いを受けているみたいで」

「辛辣な扱いってどういうことだ?」

「何人かの先輩が佐竹君にきつく当たっているみたい。佐竹君って中学生のときにテニスの全国大会でかなりいいところまで行ったから、期待の選手として男子テニス部に入部したみたいなの」

「実力があるから、悪目立ちしてしまう形になってしまったのでしょうか」

「そうかもしれないわね、エリュさん」

 もし、エリュの言うとおりだとしたら、佐竹は俺とどこか似た境遇を味わっている。自分は普段通りにやっているのに、周りがそれを妬んでしまう。そして、そこから辛い目に遭ってしまう。

「今は高校テニスの大会期間中で、毎週末に試合を行なっているの。もしかしたら、それもあって彼は複雑な想いを抱いているんじゃないかしら。トーナメント戦だけれどまだ序盤の方だから、佐竹君も何とか勝ち進んでいるけれど」

「でも、この先もずっと部活で酷い扱いを受けていたら、公式戦の方にも影響が出てきてしまうことは間違いない」

 全力を出して公式戦に臨む権利があるというのに。このままストレスが溜まり続けてしまえば、公式戦に出場する以前の問題になってしまう。

「まずは男子テニス部の様子を確認するのが先だな」

「そうですね。どうやって洗脳を解除していくかは、部活での佐竹さんを見てから考えていくことにしましょう」

「そうだな」

 負の心を持つ直接の原因が俺なら、すぐに洗脳解除に踏み切ってもいいんだけれど。

 今回は男子テニス部が原因だから、今までのようにはいかない。洗脳を解除するには結衣の話に出てきた、男子テニス部の複数の先輩を相手にする必要がありそうだ。

「その様子だと、洗脳を解除するまでには時間がかかりそう?」

「ああ、まずは佐竹が負の心を抱く原因を特定しないといけないからな。でも、結衣のおかげでどうすべきかが分かったよ。本当にありがとう」

 俺はお礼のつもりで結衣の頭を優しく撫でる。

 結衣は最初こそ恥ずかしそうにしていたけれど、それは何時しか照れ笑いへと変わっていった。

「私は傷付いた人の心を救う手助けがしたいだけだよ。また、何かできることがあれば遠慮なく言って」

「ああ、分かった」

 ただ、結衣の話を聞いていると、佐竹は長い間、部活で辛い目に遭ってきている気がする。それ故に負の心も大きくなっている可能性も高い。

 俺が直接かかっていないケースは初めてだけど、絶対に洗脳を解除する糸口が見つかるはずだ。

 その時、佐竹が教室に入ってきた。今日も練習があるからなのか、スクールバッグの他にエナメルバッグを持ってきている。

「おはよう、佐竹君」

「ああ、おはよう、梅澤」

 梅澤に挨拶するときは笑顔を見せるが、梅澤が佐竹から視線を離すと、佐竹の表情は厳しいものになる。教室でこういう感じだと、やはり彼は相当な負の心を抱いてしまっているようだ。

「一刻も早く原因を特定して、洗脳解除をしていかないといけませんね。現在はアンネに洗脳されている状態ですが、アンネ以外の魔女がやってきて、彼に憑依する可能性も考えられます。そのくらいに彼は負の心を抱いていますね」

「そうか」

 負の心は魔女が人間に最も強く求めるもの。自分の力をパワーアップできるほどの負の心が見つかれば、いつ憑依してもおかしくないってことか。それが例え、他の魔女が洗脳した人間であっても。

「アンネを倒す前に一つ、難解なことが出てきてしまった感じですね」

「同感だ。でも、焦らずにじっくりとやっていこう」

「そうですね」

 俺とエリュは今後の方向性を確かめ合った。エリュとの考えが一致しなければ、簡単にできることも全くできなくなるから。

 俺は今一度、佐竹のことを見る。結衣の話を聞いたからだろうか。席に座っている佐竹の後ろ姿が、とても寂しそうに見えてしまうのであった。

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