第66話 侵略開始
【保有DP:7,380】
【侵食率:6.5%】
【ダンジョンランク:B】
【階層数:4】
王国を崩壊させた余韻は、もうほとんど残っていなかった。
俺の興味は次の獲物へ移っている。
Bランクダンジョン。
それも地下世界側に存在する未知のダンジョンだ。
以前なら慎重に情報を集めていただろう。
戦力を整えていただろう。
だが今は違う。
英雄施設。
英雄因子。
Bランク昇格。
王国吸収で得た大量DP。
以前の俺とは立っている場所が違った。
そして何より。
時間が惜しい。
深層主。
地下勢力。
まだ上がいる。
こんな場所で足踏みしている暇はなかった。
「ご主人様」
リリスが地図を広げる。
「偵察結果です」
俺は確認する。
地下深部。
巨大な空洞。
そして中心に存在するダンジョンコア。
周囲には魔物。
数は多い。
だが。
思ったほどではない。
「軍団型か」
「はい」
リリスが頷く。
「数で押すタイプです」
思わず笑った。
なるほど。
昔の俺だ。
大量の雑魚。
大量の兵力。
それで押し潰す。
悪くない。
だが。
今の俺には通用しない。
「行くぞ」
全員が立ち上がる。
今回はダンジョン攻略ではない。
侵略戦争だ。
◇◇◇
三日後。
俺たちは目的地へ到着した。
巨大な地下空洞。
そこには異様な光景が広がっていた。
ゴブリン。
オーク。
コボルト。
スケルトン。
数千規模。
まるで軍隊だった。
そして中央。
巨大な砦。
その内部にダンジョンコアがある。
普通なら絶望するだろう。
数が多すぎる。
だが。
俺は少しも焦らなかった。
「リリス」
「はい」
「始めろ」
リリスが微笑む。
次の瞬間。
戦場支配領域が展開された。
英雄施設の力。
味方全体強化。
そして。
蜘蛛糸が広がる。
見えないほど細い糸。
それが戦場全体へ張り巡らされていく。
敵は気付かない。
だが。
気付いた時には終わる。
「スイ」
「おー!」
スイが突撃する。
正面から。
隠れもしない。
以前なら無謀だった。
だが今は違う。
英雄因子を取り込んだスイは別格だった。
拳が振るわれる。
衝撃波。
前方のゴブリン部隊がまとめて吹き飛ぶ。
十体。
二十体。
三十体。
まとめて消し飛ぶ。
敵軍が止まる。
理解できないのだろう。
スライム一体に戦線を破壊されるなど。
その隙にブラッドファングが突っ込む。
赤黒い影。
進化した魔獣。
牙が振るわれるたびに敵が死ぬ。
さらに。
シャドウメイジが魔法を放つ。
幻惑。
混乱。
同士討ち。
敵軍が勝手に崩れていく。
「弱いな」
俺は呟く。
数は多い。
だがそれだけだった。
以前の俺なら脅威だっただろう。
今は違う。
戦力差が大きすぎる。
◇◇◇
一時間後。
敵軍は壊滅した。
死体が山のように積み上がる。
DP通知が流れ続ける。
【DP+320】
【DP+280】
【DP+410】
数字が止まらない。
そして。
俺は砦の前へ到着する。
ダンジョンコアはすぐそこだった。
その時。
砦の門が開く。
中から一体の魔物が現れた。
大柄なオーク。
全身を黒い鎧で覆っている。
普通のオークではない。
【名称】
【オークキング】
【ダンジョンマスター】
全員が止まる。
俺も少し驚いた。
魔物。
しかも。
ダンジョンマスター。
初めてだった。
人間ではない。
ダンジョンコアでもない。
自我を持った別の支配者。
オークキングは周囲の惨状を見回し、低く笑った。
「なるほど」
その瞳が俺を見る。
「お前が最近暴れている侵略者か」
侵略者。
少し前まで俺は防衛する側だった。
だが今は違う。
立場が逆転している。
そして。
オークキングは続けた。
「なら知っているか?」
その言葉と同時に。
地下全体が震えた。
嫌な予感。
深層主と遭遇した時に近い。
そして。
オークキングは笑った。
「この地下世界には、お前みたいな奴が何人もいる」
空気が変わる。
俺の目が細くなる。
何人も。
つまり。
ダンジョンマスターは俺だけではない。
オークキングだけでもない。
地下世界には。
さらに多くの支配者がいる。
その事実に俺は恐怖ではなく高揚を覚えていた。




