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『最凶進化ダンジョンマスター ~冒険者を餌に最強を目指す』  作者: もかどら


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第22話 魂炉

ダンジョンマスター進化。


 第三階層の解放と共に現れたその項目を前に、俺はしばらく思考を巡らせていた。配下進化やダンジョン拡張も魅力的だが、それらは後からでも手を付けられる。だが俺自身の進化だけは違う。今後の全ての方針を左右する可能性があった。


 元人間だった記憶は今でも残っている。歩くこと。触れること。声を出すこと。そんな当たり前だった行為を失って初めて、その価値を理解した。ダンジョンコアとして生きることに不便はない。視界もあるし配下とも意思疎通できる。それでも、自分の意思で世界に触れられないことへの苛立ちは消えなかった。


 だからこそ進化したい。


 だがシステムは甘くない。


 俺は詳細を開いた。


【ダンジョンマスター進化】


【現在:幼体ダンジョンコア】


【進化先:ダンジョンロード(幼体)】


【必要DP:300】


【警告】


【進化後は肉体を獲得します】


【肉体の死亡=完全死亡】


【コアの破壊=完全死亡】


 表示を見て小さく笑う。


 やはり都合の良い話ではなかった。


 肉体を得る代わりに、新たな弱点も抱えることになる。しかも肉体とコア、その両方を守らなければならない。


 だが考えるまでもない。


 最強を目指すなら危険を避けてばかりはいられない。


 俺は迷わず承認した。


【DP-300】


【保有DP:45】


【進化開始】


 次の瞬間、世界が反転した。


 コアの内部に閉じ込められていた意識が無理やり引きずり出される。今まで感じたことのない激痛だった。骨を砕かれる痛みとも、肉を裂かれる痛みとも違う。魂そのものを捏ね回されるような不快感が延々と続く。


 視界が歪む。


 思考が乱れる。


 それでも意識だけは消えなかった。


 やがてコアの前に黒い霧が集まり始める。


 霧はゆっくりと形を変え、人型を作り出していく。腕が生まれ、脚が生まれ、胴体が形成される。その光景を見ながら、俺は奇妙な感覚に襲われていた。


 あれは俺だ。


 だが同時に他人のようにも見える。


 そして最後に頭部が形成された瞬間、意識が引き寄せられた。


 地面の感触が伝わる。


 空気が肌を撫でる。


 胸が上下する。


 呼吸。


 鼓動。


 重力。


 全てが懐かしかった。


 俺はゆっくりと目を開いた。


 視界の高さが変わっている。


 手を握る。


 指が動く。


 開く。


 閉じる。


 それだけの動作なのに妙な実感があった。


 生きている。


 今度は本当に。


「あるじ……?」


 スイの声が聞こえた。

 振り返ると、彼女は呆然と立ち尽くしている。

 アラクネですら珍しく驚きを隠せていない。

 俺は試しに口を開いた。


「聞こえるか」


 声が出た。


 念話ではない。実際の声だ。


 少し低い男の声が洞窟に響く。

 スイの目が大きく見開かれた。


「ほんとにしゃべった!」


「前から話していただろう」


「ちがうよ!」


 スイは興奮したように首を振る。


「今のは声!」


 どうやら彼女にとっても大きな変化らしい。

 そんな様子を見ていると、不意に新たなウィンドウが開いた。


【進化成功】


【種族:ダンジョンロード(幼体)】


【能力解放】


・魔力操作

・眷属支配強化

・記憶閲覧強化


【新機能解放】


 「新機能?」


 俺は詳細を開く。


 そして、その内容を見て思考が止まった。


【魂炉】


 コン...ロ?

 

 一見すると地味な名前だった。

 だが説明を読んだ瞬間、その価値を理解する。


【討伐した生物の魂を回収可能】


【魂を加工可能】


【条件を満たした魂は施設化可能】


 「施設化?」


 聞き慣れない単語だった。

 さらに詳細を開く。

 すると見覚えのある剣士が表示される。


【女剣士エレナ】


【魂保存中】


【施設化可能】


【候補】

・剣術訓練場

・対人戦闘研究施設

・戦闘経験保管庫


 俺は数秒黙り込む。


 そして理解した。


 これは魔物を増やす能力ではない。

 もっと邪悪な能力だ。

 死者を利用する能力。

 殺した人間の価値を魂ごと搾り取る能力。


 例えば剣士なら剣術施設になる。


 魔術師なら魔法研究施設になるだろう。


 神官なら治癒施設かもしれない。


 つまり俺は敵を倒すだけで終わらない。

 殺した後も利用できる。


 永遠に。


 スイが不思議そうな顔で尋ねる。


「悪い顔してるよ?どうしたの?」


 俺は表示を見つめたまま答える。


「面白いものを手に入れた」


 女剣士は死んだ。

 盾役も死んだ。

 弓使いも死んだ。


 普通ならそれで終わりだ。


 だが違う。


 終わらない。


 俺のダンジョンでは終わらせない。


 お前たちは死んだ後も働く。


 知識も。


 経験も。


 技術も。


 全て俺のものになる。その考えに嫌悪感はなかった。むしろ合理的だとすら思えた。人間だった頃の俺なら恐怖しただろう。


 だが今は違う。


 いつの間にか価値観そのものが変わり始めている。

 人間は同族ではない。


 資源だ。


 DPを生み、知識を生み、施設を生む素材だ。


 そう考えた瞬間、自然と笑みが浮かんだ。


 その時だった。


 第三階層の奥から、巨大な咆哮が響く。

 空気が震え、地下湖の水面が激しく波立つ。

 スイとアラクネが同時に身構えた。俺も意識を向ける。


 第三階層で見つけた、あの正体不明の怪物。どうやら向こうも、こちらの変化に気付いたらしい。そして新たな通知が表示された。


【第三階層支配クエスト発生】


【深層主を発見】


【討伐または服従させてください】


 俺はその文字を見つめながら笑う。


 肉体を得た初日から、随分と面白い試練を用意してくれる。


 なら受けて立とう。


 このダンジョンの全ては俺のものだ。


 生者も。


 死者も。


 そして深層の主さえも。

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