第10話 得たもの
【保有DP:30】
【配下モンスター】
・スイ(ヴェノムスライム)×1
弓使いの戦意は完全に失われていた。
仲間が三人死に、自分だけが生き残っている。その現実を受け入れられないのだろう。弓を握る手は震え、足は毒で痺れ、もはや逃げ出すことさえできなくなっていた。
だが俺は同情しない。
侵入者は敵だ。
そして敵は資源だ。
その認識は既に俺の中で当たり前になっていた。
スイがゆっくりと近付く。
弓使いは後退ろうとするが身体は動かない。
恐怖に歪んだ顔で何かを言おうとした瞬間、スイの身体が大きく広がり、その全身を飲み込んだ。
短い悲鳴が響く。
それもすぐに消えた。
【侵入者を撃破】
【DP+80】
【保有DP:110】
その表示を見た瞬間、俺は初めて実感する。
勝った...
新人冒険者ではない。
ギルドが派遣した正式な調査隊を返り討ちにした。
運だけではない。
罠だけでもない。
俺とスイの力で勝ち取った結果だった。
【記憶取得可能】
表示を確認し、俺は迷わず実行する。
視界が揺れる。
膨大な情報が流れ込んできた。
名前
家族
冒険者になった理由
訓練の日々
仲間との会話
酒場
依頼
戦闘経験
そして冒険者ギルド
俺は必要な情報だけを選別しながら読み進めていく。
しばらくして、一つの危惧が生まれる
ギルドはこのダンジョンを危険視するのではないか。
新人三人の失踪。
調査隊四人の失踪。
合わせて七人。
さすがに無視できる数字ではない。
そして調査隊が戻らなかった場合、次に派遣されるのはEランクではない。
Dランク以上の冒険者だ。
記憶の中にいるDランク冒険者は強かった。
剣士よりも速く。
魔術師よりも強力な魔法を扱い。
一人で複数の魔物を討伐できる。
今の俺では勝てない。
そう断言できるほどの実力差があった。
だが同時に理解する。
時間はある。
調査隊が失踪した事実が確認され、依頼が再編成され、Dランクが派遣されるまでには最低でも数日は掛かる。
その間に強くなればいい。
生き残ればいい。
今までと何も変わらない。
【一定条件を達成しました】
【ダンジョンランクアップが可能です】
新たな表示が現れる。
俺は思わず意識を向けた。
【現在ランク:E】
【次ランク:D】
【必要DP:100】
予想より重い。
だが支払えない数字ではなかった。
むしろ今の状況なら迷う理由はない。
Dランク冒険者が来る。
なら俺もDランクダンジョンになるべきだ。
成長を止めた瞬間に死ぬ。
それがこの世界のルールなのだから。
「進化する」
もちろん声にはならない。
だが意思だけは明確だった。
【DP-100】
【保有DP:10】
【ダンジョンランクアップ開始】
次の瞬間、ダンジョン全体が大きく震えた。
床が揺れる。
壁が軋む。
天井から小石が落ちてくる。
それは拡張の時とは比べ物にならない変化だった。
俺は理解する。
今までとは違う。
これはダンジョンそのものの進化だ。
そして、その変化の中で新たな表示が浮かび上がる。
【新機能解放】
・魔物進化施設
・第二階層作成権限
・特殊個体生成
思わず息を呑む。
どれも今の俺に必要なものばかりだった。
特に第二階層。
それはつまり、もう一本道の小さな洞窟ではなくなるということだ。
より深く。
より危険に。
より多くの侵入者を殺せる場所へ変わる。
ダンジョンの震動が徐々に収まっていく。
その頃には俺の中にあった不安も消えていた。
Dランク冒険者が来るなら来ればいい。
その頃には俺も今のままではない。
スイもさらに強くなっているだろう。
そして次に来る侵入者たちは知ることになる。
この場所が既に新人向けダンジョンなどではないことを。
生きて帰れる保証などどこにもないことを。




