解決編
複数の騎士達に付き添われて大広間へと入る。出来るだけ悠然と。王女たるもの憔悴した顔を見せるわけにはいかない。
大広間には主だった貴族達が既に集まっていた。しかし顔には安堵が広がっている。連続殺人事件の真犯人逮捕に皆胸を撫で下ろしているのだ。無論メイド長を指して惜しい人を亡くしたと言い合う人もいる。メイド長はハリスお祖父様やハーディ宰相同様、戦争に生きた女傑だ。兵站を届ける仕事に従事していた。お祖父様が英雄であれたのも彼女の活躍あってのもの。それが永遠に喪われたのだ。
思えばハリス国王、ハーディ宰相、メイド長と戦争で国を護った偉大な先人達が立て続けに亡くなってしまった。悲しいことだ。
お父様、ジョン国王は玉座にお座りになっていなかった。まだそこに相応しき方がお座りになっているかのように、陰鬱な眼差しをただ向けている。傍にいるのはハーディソン氏だ。同じく悲しげな顔をしながら何事かをお父様にささやいていた。この二人も長い付き合いだと、何かの折に聞いた方がある。
ペトルス補佐官は広間の端に数脚置かれた椅子の一つに腰を掛けていた。仕方がない。彼も戦争時代から生きてきた人間だ、長く立ったままなのは疲れるのだろう。あるいは同年代が立て続けにいなくなったのだ。落ち込んでいるのかもしれない。
この中でも変わらずピシャリと背筋を伸ばしているのはロドリック騎士団長とその息子ヴァン騎士爵令息だ。いやヴァン騎士爵令息はこちらを見て驚いた顔をした。先程部屋に送ったのに何故と言いたげである。ロドリック騎士団長に咳払いをされて慌てて視線を正面に戻した。
ジョン国王の目が図ったようにわたしに向けられた。
「来たか、エリザベートよ」
「はい。お呼びと聞いて参上しましたわ、お父様」
少し戸惑う空気が流れた。周囲の彼らはこの王宮で起きた殺人事件の顛末を聞きに来たのだ。しかし来たのは騎士ではなく第一王女。恰幅のよい大臣職の一人が気を利かせて「おお!」とわざとらしく明るい声をあげる。
「王女殿下も報告を聞きに来たのですなあ。我々も連続殺人事件の結末を確かめるために参ったのです。どうも男爵令嬢が犯人だとか。恐ろしいことですな」
「はて、そうなのかな」
それにヒヤリと冷水を浴びせたのはお父様だ。まさかジョン国王が反応するとは思っておらず、大臣はへどもどしている。気の毒なこと。彼だって空気を変えようとしただけでしょうに。
あまりその手の気が利かないお父様は、口調だけは優しげにわたしを、というか、わたししか見ていない。熱心にわたしを見る、と言うよりその他を視界に入れたくないと言うような振る舞いだった。
「余の愛しき娘。お前もこの連続する死の原因は件の男爵令嬢だと思うか?」
しかし折角水を向けてくれたのだ。大いにやろう。わたしはニッコリと笑って答えた。
「いいえ。少なくとも、ハーディ宰相を葬った犯人は違いますわ」
ざわっと広間がざわめく。お父様が静粛にと言わんばかりに手を挙げても、収まるまで時間がかかった。だが静かになったのだ。みなわたしの次の言葉を待っている。いいぞ。胸を張って盛大に振り回してやる!
「気になることがあったのです。ハーディ宰相のご遺体から魔法紋が検出されなかったのですって。不思議ですわね。だって被害者であるハーディ宰相の魔法紋すら無かったというのですから。つまり宰相は魔法で抵抗されなかったということですわ」
魔法紋は指紋のようなもの。であれば当然被害者であるハーディ宰相の魔法紋だってあの時検出されても良かった。いやされなければおかしかった。ハーディ宰相は国でも屈指の魔法使いなのだから。
だから待ち伏せを真っ先に疑ったのだ。正攻法でハーディ宰相に魔法を使わせずに殺すことは不可能に近い。まだ日の登らない内に宰相の通り道に身を潜め、暗闇に乗じて刺す。だがそれを行おうとすれば今度は殺害現場がおかしい。ハーディ宰相が倒れていた場所は身体を隠す物がない大きく開けた道の上。待ち伏せにはまったく適さない。
「――つまり、ハーディ宰相は同行していた人間に刺されたということです」
意識して目に力を込めて告げる。わかるだろう。もう既にただの男爵令嬢には出来ないことなのだと。出来るのはそんな朝早くハーディ宰相に同行を申し出ても不審に思われない関係性の相手だけだ。
それでも何故あんな誰に見られるかわからない場所で実行したのかという疑問が残る。わたしが感じ取った矛盾そのものだ。用意したナイフからして計画的な犯行だったのは間違いない。であれば逆なのだ。通り道でないといけなかったのではなく、たまたま刺すタイミングが通り道だっただけの話なのである。
それが交渉決裂だったのか、喧嘩の結果だったのかは知らない。それはあとで本人に聞けば済むことだ。
「そう言えばハーディ宰相の左手には火傷跡がありましたわね。日の昇りきらない内ですもの、ハーディ宰相が灯りを持っててもおかしくはありません。倒れた拍子に火傷してしまったのかしら。
親子共々、左利きでいらしたのねぇ」
実際ハーディ宰相は左手で灯りを持っていただけなので利き手だったのかまでは知らない。だが少なくとも彼は左利きのはずだ。わたしは見逃さなかった。剣のように長物を引き抜く時は利き手に関係なく左腰に差すが、杖は違う。例えるならガンマンのように、利き手側のホルダーに杖を仕込むのだ。当然持ち歩いていたナイフも同じように仕込んで持ち歩いていただろう。
ハーディ宰相からは、完全に死角からナイフが飛んできたように見えたはずだ。
「ハーディ宰相が朝早くに馬小屋まで出掛けるのは多くの人が知っていますが、具体的な時間、ましてや同行なんて一緒に暮らしているでもない限り難しいですわよね?
ねぇハーディソンさん。貴方がハーディ宰相を手に掛けた犯人、ですわね」
わたしの言葉を受けたお父様が、ハーディソン氏から二歩三歩と距離を取る。ナイスだ。その然りげ無い後退からも聴衆はハーディソン氏に注目するだろう。
ハーディソン氏は目を見開くが、彼も生まれた時からの貴族だ。動揺は見せない。むしろ面白いものを見たと言わんばかりに目を細めている。
「大変興味深いお話ですが王女殿下、私は犯人ではありませんよ。私に父を殺すような動機はありません。それに父を殺すことが出来ても、ハリス国王を毒殺するようなことは出来ませんよ」
「それはそうでしょう。ハリスお祖父様は殺されたのではないのですから」
やはり連続殺人事件だと印象付けようとしてきたか。だがそうはいかない。人死にが続いただけで、これは連続殺人事件ではないのだ。
「お祖父様はここ一年ほど魔法薬を毎日数度服用されていました。そうですね、ペトルス補佐官?」
わたしからの突然の指名に、肩を跳ねさせたペトルス補佐官は慌てて席を立つと、おどおどと返事をした。
「は、はい。ハリス陛下は手のしびれや目のかすみを、日に何度か訴えておりまして、はい。その度私めが医務室へ魔法薬を取りに行っておりました」
どうにか聞かれたことに答えたペトルス補佐官はそれだけで全神経を使ったあとのように、肩を落とした。それをハーディソン氏は睨みつける。余計なことを言いやがって、の目ではない。多分ハーディソン氏は元々ペトルス補佐官のような人間が嫌いなのだ。その視線に気付いてか、ペトルス補佐官はへなへなと椅子へ逆戻りしてしまった。
「魔法薬は手のしびれや目のかすみといった症状は改善させますが、状態は改善させません。医者共の話ではお祖父様は消渇だったのではという見立てですわ」
糖尿病の、血糖値が高い状態が続くことは症状ではない。状態だ。こう考えると案外魔法薬も万能ではないな。
よって一つ目の謎への解答はこうだ。なんでお祖父様が死んでしまったのか? 糖尿病に伴う心不全だ。病死である。誰のせいでもないし、誰の犯行でもない。お祖父様の死は悲劇のはじまりではあったけれど、事件では一切ない。
「つまり元より父の心臓は止まりやすい状態であったというわけだな。そしてそれは魔法薬では癒せなかったと」
お父様の指摘は正しい。いくらハーディソン氏がアリバイを主張しても事件ではないのだから無意味だ。しかしそれでもハーディソン氏は余裕そうな顔を隠そうともしない。
「なるほど、面白い……思い込み、ですね? 王女殿下は騎士ごっこが巧みでいらっしゃる」
そうよね、そうくるわよね。なんせ圧倒的に説得力が足りないのだ。ハーディソン氏が犯人なのだと証明する説得力がない。ハーディ宰相と並んで歩いていたからといってなんだ。刺す瞬間なんて誰もみていないし、証言していない。ハリスお祖父様の死とてそう。だからどうした、と言ったところだろう。
なにより。
「既に男爵令嬢が犯人として捕まっているのを覆して私を犯人扱いするのはどうかと思いますよ」
そうなのだ。男爵令嬢が既に捕まっている。多分目撃者も多いのだろうし、調べれば魔法紋も検出されるだろう。そうなればそっちが犯人だ。少なくともメイド長を手に掛けた現行犯なのだから。
しかし明らかなスケープゴートなんだよな。これを覆すには相当強烈な証拠が必要になる。この世界において証拠になり得るもの。それは魔法紋と証言だ。特に自白剤を用いた証言は嘘を一切つくことができない。強力な証拠足り得る。
「……例の男爵令嬢に自白剤が使えたら良かったのだがな」
お父様がポツリと小さく呟いた。そうだ、自白剤は強力だけど、強力ゆえ秘密を持つ者には忌避される。長い間戦争をしてきていたこの国では尋問から貴族を守るために互いに貴族に自白剤を使ってはならないと定めた。それは国内の貴族に対しても同様だ。いかに王であるお父様でも、貴族である男爵令嬢に自白剤を飲ませることは出来ない。
だけど。
わたしのハッタリがここで終わると思ってもらっては困る。
「ふふ、そうですわね、お父様。でしたらハーディソンさんに飲んでいただいたらいかが?」
お父様がパッとわたしを見た。ハーディソン氏も怪訝な顔でわたしを見て、ハッとする。本当に貴方は狡賢くて鋭くて、酷い人。この場に召集された時点で詰んでいたのよ。
「ハーディ宰相がいただいていた爵位は魔法爵。これは魔法の扱いに長けた一族の家長が授かる爵位です。一代爵と呼ばれるものですわね」
多分貴族制度そのものがわたしの知るそれとは違う。一代爵は世襲ではない爵位のことだが、制度上そうなっているだけでほとんどの貴族が次代に爵位を継承するし、王族側もそのように処理する。だがそれでも建前上は一代限りの爵位なのだ。
「ハーディ宰相がお亡くなったことで、魔法爵爵位は王家に返還されました。それで、もう魔法爵令息でもなく、まだ魔法爵でもない貴方は一体何者なのかしら。ねぇハーディソン、さん?」
何より優先すべきは即位式で、次に国葬だ。儀式が目白押しな王家に爵位授与式を敢行する余裕はない。
このエリザベート第一王女ですら、立太式を経ていないので王太子を名乗れていないのだ。
つまりハーディソン氏は、今この瞬間において貴族ではないのだ。
流石にこれには周囲の貴族達もざわめいた。王宮住まいの官僚貴族達は大体がハーディ宰相と同じく一代爵ばかりだからというのもあるだろう。なんせわたしは法律を破ることなく推定貴族のハーディソン氏に自白剤を飲ませようとしているのだから。しきりにお互いを見合って、いいのか、でも咎める理由もないと囁き合っている。
だけれどわたしはそれに構えない。目の前のハーディソン氏が真顔だからだ。彼は真っ青な顔で、しかし真顔だった。ただ一点、わたしを……いや、わたしじゃない?
とにかく素早く左脚についているホルダーから杖を引き抜いた。
流石ハーディ宰相の息子。魔法の才覚は相当高い。血統が魔法の強さを決める全てではないけれど、彼は良き血統と、良き師匠に恵まれた。この期に及んでも冷静で的確だ。だが。
「サイレンス」
「ロゥル」
「ビリオー、ッ!」
改めて、血統が魔法の強さを決める全てではない。けれど、それでもわたし達は最高の血統を持っているのだ。
英雄王と謳われたハリス国王の子孫が、そんな狼藉を許すと思わないで欲しい。
沈黙魔法を唱えたのがお父様で、拘束魔法を唱えたのがわたしだ。なんの支えもなく床に倒れ込んだ音で、再び大広間が水を打ったように静かになった。
「誰ぞ。この者を捕らえ、自白剤を飲ませろ」
だからこそお父様のこの呼び掛けは厳かに響いた。応じたロドリック騎士団長がハーディソン氏を広間から連れ出すまで、ハーディソン氏はわたし……ではやっぱり無かった。彼は最後までジョン国王、お父様を睨みつけていた。
つまりわたしは自力で二つ目の謎を解くことは出来なかった。「なんで立て続けに人死にが出たのか」すなわち、動機である。なのでハーディソン氏の動機は後からヴァンに聞いて知った。
ハーディソン氏は父親のハーディ宰相に隠居を迫っていたようだ。お祖父様の死によりこの国も担ぐ国王が変わる。同時に政治形態も一新するべきだと。ハーディ宰相はそれを受け入れなかった。それどころか次期宰相にハーディソン氏を据えないことを仄めかすようなことを伝えられたのだという。
出世をするには父親が邪魔だ。気付いたハーディソン氏はわたしの推測した通りにハーディ宰相を手に掛けた。
男爵令嬢の件は本当にスケープゴートだった。ハリスお祖父様の死を含めて三つの罪を被せるつもりだったらしい。しかしそんなことをすれば極刑は免れないが、それを含めて男爵令嬢と合意済みだというからその手管に舌を巻く。男爵令嬢は実家を陥れたかったそうだ。王殺しともなれば家族までその贖罪が求められるだろう。一族郎党処刑もあり得る。
その上で男爵令嬢には私生児がいる。未婚の私生児だ。だが、だからこそその子だけは刑を免れる。ハーディソン氏はその子の今後を面倒を見る約束で契約を持ち掛けたのだという。
念の為に確認したが、その子の父親はハーディソン氏ではないらしい。ちょっとホッとした。
男爵令嬢は情状酌量の余地があるとはいえ、殺しの実行犯であること、メイド長には何の咎もないことを鑑みて国外追放となった。当然貴族籍からも抜ける。私生児もまとめて国外だが、本件を担当しているロドリック騎士団長は義に厚い人だ。上手く取り計らうだろう。
寧ろただ殺されてしまったメイド長側のフォローの方が必要だ。だけどそれも難しい。青春を戦争に奪われたメイド長は独身を貫いていたのだ。天涯孤独だった。どうにか遠縁を見つけ出して取り立てたが、それまでの彼女の献身に報いれたかと言われれば疑問が残るだろう。今、メイド長の身辺を改めて調べている。内縁の夫がいなかったかどうか、子同然の者がいなかったかどうか。調査はペトルス補佐官が手伝ってくれた。彼とメイド長がどういった関係だったのかは知らない。激動の時代を生きた者同士、なにかしらのシンパシーがあるのかもしれないし、違うのかもしれない。しかしこの調査を最後にペトルス補佐官は暇をお父様に願い出た。
ハーディソン氏は殺人罪、殺人教唆罪、そして国家反逆罪で起訴された。最後にお父様とわたしに杖を向けたこと。それが決め手で死刑が求刑された。逆にいえばあそこで杖を向けずに、素直に罪を認めていれば命までは取られなかったかもしれない。お父様とわたし二人に勝てると思ったわけではないだろう。仮に片方を殺せても片方が残っているし、更にあそこには多くの貴族や騎士達がいた。いずれ捕まったはずだ。
どうしてわざわざ罪を重ねにきたのか。最後までよく分からない人だったな。
そしてここでようやく解答である。ハリス国王を契機とした親子の見解不一致。それが本件の結末である。
事件から数日たったある夜。わたしはお父様に呼ばれた。いつかの執務室ではない。国王の私室にだ。
近衛騎士達はわたしを送り届けてすぐに外に出た。部屋にはお父様がワイングラスを二つ用意して待っていた。
「事件を無事に解決してくれた礼だ。とっときのワインを開けよう」
お父様手ずからワインのコルクを抜くのを見ながら、わたしは口を開いた。
「お父様、ひょっとして最初から犯人がわかっていました?」
お父様の、グラスにワインを注ぐ手が止まる。
無作法とわかっていながらもどうしても気になった。お父様は一切ハーディソン氏を庇う様子を見せなかった。確かにわたしに事件解明を依頼したのだから、わたし側に立つのは道理だが、全く疑わないのは違うだろう。あの場で無茶苦茶を言っていたのはわたしの方だ。屁理屈を捏ねてハーディソン氏を貴族と見做さないと言うわたしを諌めたってよかった。それは道義に悖るからやめなさいと。それだけで貴族達はお父様を頼もしく思っただろうし、ハーディソン氏はお父様に借りを作ることになった。ただでさえ政権交代の混乱期なのだ。そうして新しき王を示したって文句なんかないのに。
お父様はもう一度わたしに席に着くように促した。はー、と大きく息をつくと小さく呟く。
「そうであればいいなと、思っていた」
それはつまり、ハーディソン氏が犯人であればよいと。いやもっと踏み込んでみるべきだろうな。ハーディソン氏が犯人であり、彼の台頭を阻止できればいいなと思っていた。これだろう。
「僕とハーディソンは言わば幼馴染でね。だがまあ相性が良くなかった。僕は子供の頃から不出来だったし、ハーディソンは人の不出来が我慢ならない性格だった」
口調を崩すお父様の前に、失礼ながら納得してしまう。ハーディソン氏は大抵のことは上手くやれる人だ。対してお父様は慎重を重ねすぎて機を逃す人。
まごつくペトルス補佐官をハーディソン氏が睨みつけていたのを思い出す。なるほど。ああいうのがダメなのだろう。
「だから僕はハーディ宰相に願い出たんだ。ハーディソンを宰相にしないでくれ、と。宰相職は家職というわけではない。ハーディ宰相も僕とハーディソンの相性の悪さはわかっていた」
けれどその相談をした翌日にハーディ宰相は死体で発見された。だから真実を見極めるために、自身に近いが、この件からは遠いわたしに調査を依頼したのだ。
お父様は疲れたように手にしたワイングラスを回す。この件でお父様を責められない。だって人に相談した程度で殺人が起こるなど誰も考えないだろう。それにハーディソン氏が事前に準備をしていたことを考えるに、元からハーディ宰相は宰相職を譲るつもりが無かったのではなかろうか。
もしそうだとしたら。ハーディソン氏が事件を暴いたわたしではなく、お父様を狙った理由もわかるかもしれない。彼は最初から本当の障害がお父様だと気付いていたのだろう。自分の出世を阻むのは父親じゃない。
自分よりも出来が悪い男が、ただ王であるというだけで退けてくる。最後に一矢報いたいと思うのは理屈を超えるのかもしれない。
この殺人事件は恐らく歴史に残る。そしてお父様の治世に暗い影を落とすだろう。有力な人間もその跡を継ぐはずだった者も新王政発足とほとんど同時に消えてしまった。幸先が悪いし先行きも明るくない。
だがまあ最悪でもない。わたしはそう思う。まだやらなくてはいけないこともある。立太式なんて時期未定のままだ。けれども少なくとも事件は解決したのだ。これからはよりお父様をお支えしなくてはいけないな。そう考えながら私もワインに口をつけた。お父様のとっておきなだけあって美味しいワインだった。




