酒呑童子ダンジョン 終
金棒を構えた赤鬼さん。
私はこれまで多くの鬼さんたちと戦ってきました。
だから知っています。
鬼さんたちは、力を強引に振るう凶暴なだけの存在ではありません。
「あなたはどんな精神攻撃を……」
私は言葉を発しようとして、グラリと視界が歪むのを感じます。
「今まで大丈夫だったからいけるのかと思ったが、どうやら効いてはいるようだなぁ〜」
酒呑童子さんが顎を摩って、こちらの様子に笑顔を浮かべる。
「何をしたんですか?」
「我は鬼の頭領でな。様々な鬼たちの能力を一人で使えるのだ。強すぎて相手がおらん」
酒呑童子さんはボスとして、Sランクの魔物です。
「それはどういう?」
「そうだな。我の力を一言で表すならば《欲望》という。貴殿が倒してきた者たちも我の《欲望》に感化された者たちだ。人の欲望とは果てなきものよ。そして、貴様の欲望を少しばかり刺激してやったのだ」
何かをではない。
全てをされたんだ。
「なるほど、全ての異常攻撃を同時に受けたというわけなのですね。毒や精神に対しては耐性を持っていたから気づくのが遅れたんでしょうな。恐怖耐性も大丈夫だとして、これはどんな効果なのか、いや普通に目眩なのでしょうか?」
他にもいくつか、体の異変を感じます。
ミズモチさんは全ての異常状態に対して、耐性を持っている。
それにすぐに回復もできるので、問題ありませんね。
「酒呑童子さん、ミズモチさん。すみませんが少し距離をとります」
私は同じフィールドにカオリさんがいることが気になり、少し離れてカオリさんが、酒呑童子さんがいない場所まで運びました。
「ヒデオさん。私は大丈夫です」
「そのようで安心しました。ですが、それも酒呑童子さんが気を遣っている証拠です。ここからは気を遣われることなく全力で戦いたいと思います」
カオリさんには無事に帰ってきた姿を見せたいです。
「待っていてくれますか?」
「もちろんです! どうかご無事に」
「はい! 必ず」
私は酒呑童子さんが待っていてくれた広場へと戻りました。
耐性を持たない者では酒呑童子さんの前に立つことも許されない。
「お待たせしました」
「いいや、これから何年も待つことを思えば、ほんの一瞬だ」
金棒を肩に担いで、遠くの山向こうを見つめながら、酒呑童子さんは座っておられました。
「我々はなんのために産み落とされたのか? 人が持つという知性と理性まで備えて、それにどれほどの意味があるのか? ここに来た者が言っていたお前は酒呑童子だと。伝承や言い伝えなど知らぬ。そんなものは人が作り出したものだ。我々は我々であり、ここに存在する。そして架空の存在を模して作り題されたのもまた事実なのだろう。だが、それがどうした? どうしてその通りに生きなければならぬ?」
金棒を地面に突き立てて、立ち上がりこちらを見ます。
「阿部秀雄、お前は我を解放してくれるか? 数名の冒険者がやってきたが誰一人。我を倒すことは叶わなかった」
「ええ。知っています。ここがどうしてAランクの中で最高位と呼ばれているのか? それは騙されて殺された者。正面から討ち果たされた者、様々でしょうが。誰一人走破がなされていないからです。Aランク以上はもちろん、そういうところばかりですが。ここはその中で最難関と呼ばれていますから」
戻ってきたことで、目眩と吐き気、それに言い知れぬ震えが襲ってきます。
どうやらこの震えは《欲望》の効果だと思いますが、どんなものか、今それを特定することはできません。
ですが、私にはミズモチさんがいて、白鬼乙女さんがくれた鬼人化のおかげで、酒呑童子さんに対面する権利をいただいております。
「それほど長くはやれません。ミズモチさん。酒呑童子さん。不甲斐ない私で申し訳ありませんが、全てを賭けさせていただきます。あなたが避ければ、あなたの勝ちです。あとは全てをミズモチさんに任せます」
「良いな。ならば、我は受けることに全てを賭けよう。賭けは大好きだ」
心から楽しそうに構える酒呑童子さんに感謝を込めて、私は全魔力を強化と鬼切丸さんに注ぎ。足場はミズモチさんに全てを任せます。
「全力なる一撃を持って」
「来い!」
「ミズモチさん! お願いします」
「ブルーーーーー!!!」
ミズモチさんの叫び声が合図となって、高速で動き始める。
酒呑童子さんは動くことなく、一切のスキが生まれない。
もしも、話し合いができなくて、異常攻撃で押し切られれば、今の私では勝ち目は全くなかったでしょう。
ですが、武人である酒呑童子さんに感謝を。
「《雷》」
この身が砕け散ろうとも、振り絞れる全てを込めてミズモチさんに勢いをつけてもらって、酒呑童子さんの正面から振り下ろしました。
「見事!」
金棒で防ぐ酒呑童子さん。
……。
上から聞こえる声は清々しい声だった。
金棒を真っ二つに切り裂いて、酒呑童子さんの体が真っ二つになり、魔石へと変わりました。




