事情を聞いて
涙を流すカオリさんに近づいて、私は彼女を抱きしめました。
「大丈夫ですか?」
「はい! でも、どうしてここが?」
「カオリさんのスマホの位置を調べました。いつもカオリさんが使っているパットと連携してくれていたので」
私は長さんに教えていただいた方法を伝えました。
「ヒデオさん。苦手なのに頑張ってくれたんですね」
「人に助言をいただいてですが」
私は長さんを見ました。
「おい! あんた。その見た目とさっきのアレ。カタギの者じゃねぇのはわかるが、ルールは守ってもらわねぇと困るぜ」
「ルール?」
私たちを見て声をかけてきました。
「そうだ。こちとら、そこで転がってやがるその子の両親の借金や揉め事を肩代わりしてやったんだ。その代わりに娘を差し出す。それが契約だ。少し歳はいっているが、十分に綺麗な見た目をしてやがる。回収の見込みはあるからな」
長さんから事前に聞いていた亀津さんという方が、目の前の人なのでしょう。
裏で人に金を貸して取り立てを生業にしている方だそうです。
どうすれば解決になるのかわからないため、私は長さんを見ました。
「よっと、ごめんなさいよ」
長さんはその辺に遊びに行くような気軽さで、亀津さんの前に座りました。
徐にスマホを取り出して、画面を見せます。
「あっしらはね。こういうもんです」
「なっ! Aランク冒険者!!!、なるほどな」
何かを納得した亀津さんは、汗を拭って深々とソファーに座り直しました。
「だが、こちらも金を貸しているのは事実だ。しかも書類に嬢ちゃんの名前も書いて判も押されている」
「それ、違法って知ってるよな」
亀津さんが出した書類を見た瞬間に、長さんの雰囲気と口調が変わりました。
それはいつも優しく穏やかに話してくれる長さんではなく、毅然とした態度が含まれる態度でした
「なっ!」
「元々、私は警察に勤めていましてねぇ。その辺の法律には詳しいんですわ。まぁ本人に了承もとっていない違法な契約であれ、家族の同意があったとして見なされれば多少は考慮される。だが、あんたの金貸業は違法であり、しかも人身売買のような取引は元々違法として認められない。よくて破産宣告は許される状況だ。それが嫌なら、こちらにわからないように処理するしかなかったな」
長さんはタバコに火をつけながら説明をしてくれます。
「だけどな、リスキーだと思わないかい?」
「……」
疑問を浮かべたような顔をする亀津さん。
「彼女は彼の婚約者だ。彼女に何かあれば、彼は黙っていないでしょうな。同じA級冒険者だが、私よりも彼の方が格上でね」
格上なんてとんでもないです。
ですが、ここは脅しというやつなのでしょう。
長さんの言葉に亀津さんは苦虫を噛み潰した顔をする。
「チッ、そういうことか。クソが、まさかそんなとんでもない化け物が後に控えているとはな。だが、そいつらがした借金は借金だ。それは正当なものだぞ」
ご両親が借金したのは、事実です。
金額は3億円と記載されています。
私の貯金で返済することは可能です。
「ヒデオさん」
「はい?」
「絶対にダメです」
「えっ?」
「今、自分の持っているお金で返せると思ったでしょうが、ダメです」
「ですが、カオリさんのご両親ですよ」
「だからです。前にも言いましたが、これは私の両親の問題です。そして、私の問題です。両親が頑張るのであれば、私も協力するつもりでした。ですが、両親は私を売って解決をしようとするような人たちです。私はここで両親と縁を切ります」
カオリさんの宣言に、亀津さんが舌打ちをします。
「おいおい、お嬢さん。それはあまりにも薄情じゃねぇか?」
必死にカオリさんに情を訴えるような物言いをします。
「ちょっと失礼しますよ。それ以上、彼女に何か言えば」
長さんが何をしているのかわかりませんが、亀津さんが「ぐっ!」と言葉を詰まらせました。
「うん?」
「んんん」
亀津さんが黙って長さんと睨み合いを開始すると、カオリさんのご両親が目を覚まされました。
「どうして、私は寝ていたんだ?」
「うん? ここは?」
状況がわからない様子で、二人が目を擦っています。
二人の視線が同時に、私とカオリさんに止まりました。
「きっ! 貴様! うちのカオリに何をしている!」
「そうよ。カオリから離れなさい! カオリは、亀津さんに嫁ぐことが決まっているのだから」
お二人が声を荒げて私へ怒鳴りました。
ですが、カオリさんが二人の前に立ちます。
「お父さん。お母さん。二人がしたことを私は許しません」
「えっ? 何をいっているんだ? カオリ?」
「そうよ。お父さんと私を守ってくれないの?」
二人はカオリさんの態度に戸惑っていました。
「あなた方が、私を売ろうとしたように、私はあなたたち二人を捨てます。二度と私の前に顔を出さないでください」
「そっ、そんなこと許されるはずがないだろ!」
「そうよ。あなたが嫁に行かないと私たちが困るのよ!」
二人がカオリさんに泣きつかれます。
カオリさんはミズモチさんを抱き上げて、折りたたみ杖に形状を変化させました。
それを突きつけて二人に言い放ちます。
「うるさい! もうお前たちは私の両親じゃないって言ってんだよ! これ以上! 私とヒデオさんに何か言ってくるなら親でも殺すからな! それにな! お前たちが無職だって言ったヒデオさんは、冒険者として働いてんだよ! しかも日本に数人しかいないA級冒険者で、メチャクチャ強くてカッコいい人なんだよ! それもわからないクセに勝手にヒデオさんを語ってんじゃねぇよ!」
カオリさんがギャルメイクに相応しい啖呵を切りました。
私もご両親も唖然としてしまいます。
それを聞いた長さんが拍手を送りました。
長さんに拍手をされて、カオリさんは顔を赤くして頭を下げておられます。
「いや〜いい女性ですね。阿部君、大切にしなさい。それとご両親。子供が親の借金を返す義務は法律上は存在しないんですよ。それにあなた方は縁も切られた。なら、余計に彼女に責任はありません。阿部君。ここは任せてください。もうじき私の仲間とマリアさんたちも来ますので、処理はしておきます」
長さんはそう言って私たち二人の背中を教えて部屋の外へと案内します。
「えっ? いいんですか?」
「ええ、任せてください」
完全に部屋の外まで背中を押されました。
「ここからは当人がいると情に訴える泥沼展開しかありません。だから、他人の方が良いのですよ」
そう言って、長さんは扉を閉めました。
私はカオリさんと目を合わせて手を握り、屋敷の外へと出ました。




