マンティコアダンジョンの調査 1
週末になるのを待って、私はミズモチさんと二人でマンティコアダンジョンに調査へ行くことにしました。
マンティコアは、マンイーターとも呼ばれて、人を襲う魔物です。毒と強力な攻撃力、そして人ではありえない強い体。
「いったいどんな化け物なんでしょうね」
「ヴュヴュヴュ」
「やっぱり、危険なのですね」
危険だとわかっているのに向かわなければいけないのは恐ろしいです。
東京にあるというのは聞いていましたが、砂漠地帯にやってくるのは初めてです。
「こんな植物も生えない場所に生息しているとは」
「ヴュヴュヴュ」
ミズモチさんも水分が少ない砂漠はあまり得意ではないようです。
海辺近くを歩きたいところですが、それでは調査になりませんからね。
「ミズモチさん、一応水の補給をしてから行きましょう」
《は〜い!》
「さて、どんな化け物が出てくるのでしょうか?」
砂漠を進むと一体の巨大な影が見えました。ライオンのような鬣と蠍の尾が後ろからでも見えます。
人の顔を持つと言われているので、あまり正面から見たくないですが、怖いもの見たさと言いますか、どのようなお顔なのかも気になります。
「ミズモチさん。どうですか?」
「ヴュヴュヴュ」
わからないということですね。
「ふぅ、ゆっくりと回りましょう」
全長四メートル強といったところでしょうか?
車ぐらいの大きさをしたマンティコアの正面に周ります。
「さてさて、どのような。えっ?」
私は眠っているマンティコアの正面に周り。
意外な人物の顔に似ていると思いました。
「フサフサの鬣。ふっくらとした顔」
『おおおおおおおおーっ!ガオォォォォォーーーっ!チリチリッ、キャーキャーキャーキャー!ワシャァァァァァンッ!』
目覚めたマンティコアが叫び声を上げる。
目を開くとますます似ています。
「課長に似ていますね」
私にとって最も相手にしたくない人の顔であり、最も殴りたくなる顔をされています。
「変身!」
あ〜いけませんね。本日は調査だけのつもりでした。
「白金さん。お力を貸してくださいますか? ミズモチさん、マンティコアは私が相手をしますね。良いですか?」
《いいよ〜! 暑い〜!!》
ミズモチさんは、本日はやる気がないので戦う意志がないようです。
砂場で足場が悪いので、私の足元を固定することに専念してくれるそうです。
「さて、お待たせしました。マンティコア。本日の私は恐怖よりも、あなたを殴りたい衝動の方が優っています。今までの鬱憤。あなたには何の関係もありませんが、八つ当たりさせていただきますね」
ミズモチさんへの意思疎通は念話さんが全て行ってくれます。
『おおおおおおおおーっ!ガオォォォォォーーーっ!チリチリッ、キャーキャーキャーキャー!ワシャァァァァァンッ!』
獰猛な鳴き声の中に、見える課長と同じ醜悪で嫌らしい笑み。
「スキルなんて必要ないですね。ただ、力いっぱいぶん殴ります!」
白金さんを思いっきり振り抜きました。
巨大な課長の顔面を思いっきり殴りました。
「ハァ〜! 快感です」
『おおおおおおおおーっ!ガオォォォォォーーーっ!チリチリッ、キャーキャーキャーキャー!ワシャァァァァァンッ!』
痛みを上げながら叫び声を上げるマンティコア。
「あ〜、一撃では倒せませんか? やっぱり頑丈なんですね。こんな姿を誰かに見せるわけには行きませんが、私は初めて冒険者になって良かったと思ったかもしれません。オロチ!!!」
私は相手が倒れるまで、執拗に顔面を狙って殴り続けた。
「ハァァァァ!!!」
顔面だけがボコボコになったマンティコアが涙を流す。その姿すら、課長の最後に見せた涙顔に見えます。
「もっと泣かしたくなりますね! 私、Sではありませんが、あなたには容赦をしなくてもいいと思えます」
思いっきり脳天に白金さん叩きつける。
「ふぅ、倒せました。どうやら私でも倒せるようです。相性と言えばいいのですか?」
この場所はミズモチさんにとっては最悪の相性です。
ですが、私にとっては……。
『おおおおおおおおーっ!ガオォォォォォーーーっ!チリチリッ、キャーキャーキャーキャー!ワシャァァァァァンッ!』
二体のマンティコア。
「あなたの顔も課長と同じなのですね」
マンティコアという生き物の顔が全て課長に見えるのが、正常なことなのかわかりません。
ですが、私にとってはこれまで多くの魔物を相手に戦ってきた中で。
「一番戦いやすい相手です!悪気が全くわきません」
「ヴュヴュヴュ」
「ええ、大丈夫です。心配していただきありがとうございます」
三体の課長。
いや、マンティコアを相手に顔面を殴り続けました。
さすがはA級です。
タフさ、強さ、厄介さ、簡単には倒すことができません。
それでもミズモチさんの機動力と、私の攻撃力。
「アベフラッシュ 纏」
コカトリスダンジョンで学んだことですが、戦いの中で修行をする。
前回は技の精度を磨かせていただきました。
ですから、今回は魔法との応用をさせていただきます。
「纏は、魔力を白金さんに吸って頂くだけでなく、纏っていただきます」
光を纏った白金さんは、ただ殴るだけの杖ではありません。
「光の剣として刃を持つことができるようになるんです。ハッ!」
ただ殴るだけだった攻撃に魔力の刃で切り付けます。
ダメージを与えられる速度が上がって、三体を倒すことができました。
「ふぅ、本日の調査はこの辺にしておきましょうか」
《はーい!》
ここは絶対に攻略しないといけませんね。