10話 影さんと一緒.6
俺はミルンを膝の上に乗せてまったりと茶を啜る。
「あぁ…何か一気に疲れたなぁ」
「おとうさんだいじょうぶ?」
ああ大丈夫だよとミルンの頭を撫でて、ぼっーとしつつも今までの事を振り返る。
訳が分からず森の中、豚野郎に追いかけられて、落ちて流され半尻でミルンに助けられ、あれよあれよとここにいる。ミルンが一緒にいるだけで癒されるけど、流石にこのまま根無草って訳には…いかんよなぁ。
ミルンの尻尾をモフモフ。
「あぁ…働きたく無い」
「あーはたらきたくない」
ミルンが俺に被せて来た。
流石だ。
俺の事をよく分かってるじゃ無いか。
でも、ミルンさんや、それはニートだけの特権だから真似をしてはいけないよ。
そう言いながらまた、まったりとしていたら扉がノックされ、影さんが入って来た。
「お待たせして申し訳ございません」
ゆっくりと対面して座る。
そして外套を取り、その顔があらわに。
「改めて、初めまして小々波、流さん。それと、ミルンさん。お二人にお会いする事、心待ちにしておりました」
髪は黄金に輝きを放ち、目は細く凛として、透き通った鼻立ちに顔は小さく耳は長い。
「めっちゃ美人!」
「きれい!」
エルフじゃん! 異世界あるあるのエルフ! ヤバい美人過ぎて目が合わせられんミルンをモフモフして心よ落ち着け。
「ふふっ。やはり反応がユカリにそっくりですね」
俺はその一言でミルンの尻尾を揉むのを止め、ゆっくりと影さんを見る。
誰が…誰とそっくりだって?
ユカリ…? 由香里?
いや、聞き間違いとかじゃないのか。
「小々波、由香里。流さん、貴方に所縁のある御名前では?」
ストレートに来たな。
「待ってくれ影さん。確かにその名前は知っている知っているけど。なんで影さんが知っているんだ?」
その名前は俺の亡くなった母さんの名前だぞ。
この異世界で同姓同名なんて有り得るのか?
「其れも含めて、私が知り得る限りの情報をお伝え致します。代わりにどうか…お力添えを」
何に力添えだよ…何も返せないぞ?
「すまない。まず、その何だ、俺に何をして欲しいんだ。言っちゃなんだが俺は何も無いぞ。無一文だしな」
「とうさんおかねなし!」
ミルンが尻尾をピンッと的確に抉ってくるよ泣いて良いか。
「分かりました、端的に申します。流さん、貴方にお力添え頂きたいのは、魔王となりこの孤児院の子達を保護して頂きたい。ここの治安は悪く、私はだけでは護りきれない。しかし魔王が居れば、手を出す者は少なくなるでしょう」
まだ影さんの話は終わらない、俺は手汗が滲んでいる。
「そして願わくば、リシュエルと言う天の使いに合ったなら、滅せ…とは言いませんし出来ないと思われますので、殴りつけて欲しいのです」
はぁ…はぁ!? いや、何言ってるの影さん?
「影さん…要するに、俺が魔王になって、ふははははケモ耳っ子は我の者だとした上で、そのリシュエルに合ったらボコれ殴れ張り倒せと…リシュエル?」
リシュエル…?
スキル欄の所に…確か。
・楽しい経験値
コイツかぁあああああ!?
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが上がりませんでした(殴らないで)
ピンポンパンポーン(下がり調)
「そうだね、タイミングバッチリだね。絶対見てるよな。おーい、せめてレベル上げろよなぁあああああああ!?」
まさに意味の無い唯のアナウンス。
よし、合ったら…殴るか。