13話 守り抜いた者.3
2026/06/28 改稿
月日は流れ、私は三歳になった。
ママのお陰で、沢山言葉を覚えて、喋れる様になり、パパからは棒術を教えて貰った。
三歳児だから、遊び感覚だ。
カンッ、コンッと、木の棒を使って、パパを倒そうとするけど、全く通じない。
「うーん。ミルンは中々、才能あるぞ」
「さいのうって、なあに?」
「こらこら、余所見をしないっと」
足を引っ掛けられて、ころころ転がった。
「またまけたっ。もういっかいっ!」
「負けず嫌いは、ユカリ譲りだな。でも残念。ここまでにしないと、ママに怒られるぞ?」
「それは嫌っ」
棒術のお稽古は、朝と夜だけ。
それ以外は、ママとお勉強したり、お庭でお野菜を育てたりと、楽しい日々だった。
「ミルンは将来、何をやりたい?」
お勉強中に、ママから質問された。
「しょうらい?」
「そう、将来の夢。やりたい事だね」
「んーとねっ、んーとねっ」
その時の将来の夢は、何だっただろうか。
パン屋さん?
お肉屋さん?
そうして、パパとママと三人で、笑顔が絶えない優しい日々を、過ごして行った。
でもそれは、唐突に、終わりを告げる
私が四歳になって、直ぐの事だ。
夜中に声が聞こえて、目が覚めた。
外で誰かが、言い合いをしている。
「このままじゃ……此処も危ない」
「何処に行けば良いんだ!?」
「俺は戦うぞ」
「やるんだ! 奴等から家族を守れ!」
「争って何になるっ! 急いで逃げるんだっ!」
パパが誰かと、言い合っていた。
普段の優しいパパとは違い、必死に訴えるように、他の人と話をしている。
その内に、声は鎮まったが、パパが凄い汗を掻きながら、ママを起こしにやって来た。
「ユカリっ、起きろ。ここを離れるんだっ」
ユカリママは飛び起き、パパが持っている斧を見て、私を見て、悲しそうな顔で、呟いた。
「はぁ……これかぁ、嫌だなぁ」
何が嫌なんだろうと、お布団に包まりながら、ジッとママを見詰めた。
「奴隷達の反乱が起きた。村長が対処しているが、ここに居ては危ない。君が獣族だとしても、奴等は関係なしに、襲って来るだろう」
「分かってるわゼス。私は"知っている"もの。ミルンだけでも、護らなくっちゃ」
「ああ……この命に替えても、ユカリ、ミルン。二人を護り抜くと誓おう」
いつもニヤけ顔のパパから、笑みが消え、いつも優しいママの顔が、強張っていた。
「っ、声が近付いて来たか。急げユカリっ」
「ええっ。ミルン、こっちに来なさいっ」
「うん……どうしたのママ?」
「大丈夫っ、大丈夫だからね」
ママは私を抱いて、パパは大きな皮袋を持って直ぐ、お家の裏口へと向かう。
「止まれユカリっ……」
『人族を殺せ──っ! 俺達をっ、家族を殺された怨みをっ! ここで晴らせ──っ!!』
「パパっ、なあにこれっ、なあにっ」
「ミルンっ。大丈夫……っ、大丈夫だからねっ」
外に出ると、真っ赤な火が見えて、だれかの悲鳴や、叫び声が、沢山聞こえて来た。
「ユカリ……今だっ」
パパは周りを確認して、ママの手を引き、村の裏口を抜け、森の中へ入って行く。
この森は、私が入らない様にと、キツく言われていた、魔物が多く住む森だ。
「くっ、やっぱり、獣族を撒くのは、無理があるな。流石に鼻が効くか……」
「愚痴って無いでっ、脚を動かすのよっ。アイツらだって、この森は怖いんだからっ」
先へ、先へと、ひたすら走る。
ママの顔から、汗が落ちて来た。
『人間の臭いだっ! この先に居るぞっ!』
『追い詰めろ! 噛みちぎれ! 喰い殺せ!』
『我等の受けた屈辱をっ、無念をっ、怒りをっ、奴等に味あわせてやれっ!!』
背後から、獣族の特有の声が、森全体を震わせ、私の身体に響いて来た。
「パパっ、ママっ」
私は恐怖に怯え、ギュッと、ママのお洋服を掴み、ただ震えているだけだった。
するとパパは立ち止まり、私の頭を撫でて直ぐ、持っていた皮袋を、ママに渡した。
「ユカリ……っ、ミルンを頼む」
「ゼス……」
ママは、パパの名前を言って、尻尾をパパの手に絡ませ、そのままキスをする。
まるで、いつも朝にやっていた、いってらっしゃいの、キスの様だった。
「ゼス……貴方が私を攫ったんだから、絶対に死んじゃ駄目。待ってるからねっ……」
「ああ。必ず追い付くから、待っていてくれ」
そう言うとパパは、私のおでこにキスをして、優しく、優しく、頭を撫でてくれた。
「ユカリ、ミルン……愛している。行けっ!!」
「っ────」
ママはまた、走り出した。でもパパは────立ち止まったまま、なぜかそこから動かない。
「ママっ、パパどうしたのっ。一緒に行かないのっ。パパっ、何でっ、うわあああんっ!」
私は何かを感じ取り、泣いてしまった。
パパはいつもの様に、お仕事に行く時の様に、手を振っているのに、泣いてしまった。
「パパっ! なんで涙が出るのっ、うううっ」
「ミルンっ、大丈夫だからっ。パパは絶対に、追い付いて来るからねっ」
ママも、泣いていた。私を抱いて、前を向き、走りながら。
そして──『私はここに居るぞおおおおおおっ! 命の要らぬ者からっ! かかって来おおおおおおおおおいっ!!』と、今までに聞いた事のないパパの声が、聞こえてきた。
そのあと直ぐに、ギィンッギィンッ──と、聞き慣れない音が響き、私は耳を塞いだ。
「はぁっ、はぁっ、やっぱりっ、運動してなかったから、走るのはキツイなぁ。でも……っ」
ユカリママは、息を切らしながら、それでも私を抱えて、走って行った。森の奥へ、森の奥へと、入って行った。




